49 攻略対象
ゲームの攻略キャラ。
そう言う私を見て、ロータスは腕を組みながら、わずかに瞳を大きくさせた。彼はクラウディ国の騎士で、主人公である聖女がクラウディ国に落ちたとき、相棒となるお相手キャラだ。各国には一人ずつ、そんなキャラが存在する。だからソレイユにも、そういったキャラクターは存在する。
ヴェダーという名の青年は、年の頃はロータスよりも少し上で、二十三歳であり、ソレイユでのお相手キャラで、その若さにもかかわらず、塔のお偉いさん、つまりは副責任者だ。とにかく仕事ができる男、なんでも“わかる”男で、彼は数々の魔道具を所有している。そして、誰よりもそれを上手に扱う。それが彼の固有スキルだ。
魔道具はソレイユという葉っぱの中でしか扱うことができない。そして、人それぞれに上手い下手の相性があるものの、ヴェダーはそんなレベルを通り越して、同じ魔道具を使っているはずなのに、まるでまったく違うもののように、性能そのものが段違いに向上する。モノクルから錫杖から、ヴェダーの体中の装飾は全て魔道具であり、宿屋のお兄さんが見たという、ちかちか光っていた腕輪もそうである。
実はその腕輪、気配察知の腕輪で、普通の人が使うのならばモンスターが攻撃してくる際のぎりぎり手前で、なんかちょっと周囲が気になるな、程度の効力しかないのに、ヴェダーが使用すると常に周囲のモンスターの索敵を行うことができ、ゲームの右下のマップ画面にピコピコと赤い丸が現れる。その丸がピコっている間にR2ボタンでダッシュしてモンスターを背後から持っている杖でタコ殴りにするとこちらが有利になる先行ターンでバトルが始まる。あとはもうタコ殴りの世界よ。
ボコボコじゃボコボコじゃと前世ゲーム好きの血を騒がせながら、一ターンで終了する気持ちよさを思い出してシュパシュパ一人でシャドーボクシングを行っていると、ロータスはいつもと同じく眉間の皺を深くさせて腕を組みながらこちらをじっと見つめていた。彼の冷静な瞳は結構な頻度で私の脳みそをクールにさせる。スンと居住まいを正して、宿屋の部屋の中でぽよぽよ遊び回るイッチ達に目を向けた。
なんにせよ、ヴェダーはこのソレイユがイージーモードといわれる要因の一つでもあるのだ。便利なチートキャラはなにかと重宝してしまう。というところまでをロータスに説明すると、「とにかく有能なやつってことだな」と納得して、ぽりぽりと首の後ろをかいていたところ頷いた。理解が早くてなにより。一応聞いてはいてくれていたイッチ達はタコ殴りを再現すべく、互いにシュッシュとパンチを出して避けてもちもちして、キャッキャウフフと楽しそうだった。なによりなにより。いやちょっと待て。
「…………アッ」
――気配察知の腕輪をヴェダーが使用すると常に周囲のモンスターの索敵を行うことができる。
自分で説明をして考えている間に、ハッとした。
つまり、今現在も、ヴェダーはイッチ達の場所を把握することができる。
私とロータスは、即座に荷物(スライム含む)を抱えてプロの仕事人の如く宿屋から飛び出した。お会計はすでに終了済みである。エルの眉毛、なんか太くなってない? とイッチからの疑問の声が上がったが、あまりの混乱に心の中の滝汗と反対に、面の皮が分厚くなっていたようで、全ての荷物を持って宿屋からの大逃亡を行ったときには、へたへたになって広間の丸太の上で崩れ落ちた。カーセイの都に来た当初の入り口付近へ巻き戻りである。
とはいいつつも荷物の大半を背負っていたロータスは涼しい顔をしたままニィを小脇に抱えていたけれど、崩れ落ちた私を見つつ、うんと頷く。
「まあ、場所は変えるに越したこたねえが、イッチ達の場所がマジで常にわかるってんなら、今までまったりしてる間にとっくにもう一度捕まえに来てるんじゃねえの?」
「ですよね~~!!!」
両手にイッチとサンを持って叫んだ。
イッチ達は、すらっすらっすら~~! なんて言いながらケタケタ笑っていたけれどもなんだよその笑い方は。初めて聞いたわ。
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