7 察知スキルを得る

 

【スキル】 察知Lv.1


 新たに増えたスキルを眼前に表示させながら、私はこりこり顎をひっかいた。

 ちょうど水場にたどり着いたから、適当な岩に座りつつ確認してみる。ごつごつしていたわりにはまあまあの座り心地だ。見る限りモンスターもいないし、一人作戦会議の始まりである。


「気配察知かあ」


 改めてまじまじとスキルを確認した。

 もしかすると、これはかなりの当たりスキルかもしれない。ととん、とタップする。すぐさまスキルの説明が表示される。


【なんとなくわかる】


「なにが」


 思わず突っ込んでしまった。怖い。一人って怖い。呟く言葉が増えている。「まあ、Lv.1だし、こんなもん……こんなもんだよね?」 誰に確認すればいいのかわからず、なんとなく背後を振り返った。スライムがいたときはそうだねそうだよと言いたげにもにょもにょぶるぶるしてくれていたので味わわなかった孤独が激しくこちらにやってきた。


 あるものは静かに揺れる湖畔のみだ。ぐぬぬ、と唇を噛み締めてふっと両手を開き首を横に振った。クールにいかねば。


「とりあえず役に立ちそうなスキルだから、オンにしておこう」


 幻術スキルのおかげで、複数スキルを常に使用することができる。同時に使用するものが増えれば、スキル同士が足されるから能力もプラスになる。

 今は幻術とお掃除、テイマーを使用していた。使用する際は頭の中で念じるだけだ。ぱちり、とスイッチを切り替えるようなイメージなのだけれど、瞳をつむりながら考えてみても、いつまで経っても変わらない。


「あれ」


 おかしいな、と今度は他のスキルをオフにしてみた。水辺の近くとは言えど、万一がある。テイマースキルをオフにするのは怖いので、切ったのはお掃除スキルだ。私とスライム達の心の距離が遠くなったような気がした。違うもともと他人だった。そこで今度は察知スキルをオンにしてみた。問題なく使用できる。何度か試すうちに気がついた。


「同時に使うことができるのは二つまでなんだ……」


 現在幻術スキルはLv.2だ。幻術スキルを除いて先程まで使用していたスキルは、お掃除とテイマーの二つ。恐らくだけれど、スキルレベルが上がることで同時に使用できるスキルの数も変わる気がする。テイマースキルを取得したとき、すでに幻術スキルは2に上がっていた。もし1のままだったなら、きっと使用できなかったんだろう。


 うーん……、と私はうなりながら考えて、一度お掃除スキルはオフにして、察知スキルをオンにすることにした。スライムにお願いするときにまた考えたらいいし、今はテイマースキルがある。こっちの方がいざというときに便利そうだ。


 さっそく、ぴこんっと何かが反応した。もちろん何かはわからない。なぜならなんとなくわかる程度だから。想像以上になんとなくだった。わからん。けれども使用しなければスキルのレベルが上がらない。妙な気持ちの悪さに頭を揺らしながら、いつでも逃げる準備をしながら気配の主を待った。


 木陰からぴょんっと飛び出したのは小リスだった。額にはドリルのような角が生えているからモンスターに間違いはないけれど、どんなモンスターでも比較的おとなしくなる水辺の周囲である。私はほっと額の汗を拭いながら、久しぶりの話し相手に勝手に口元が緩んでいくのを感じた。

 ところでこの察知スキル、気配察知ではなく本当にただ察知するだけなのでは。範囲が狭いのか広いのかわからないし、中々の期待はずれである。


「おぉーい……」


 小リスのモンスターに、私は小声で近づいた。できれば友好的に挨拶がしたいとあちらを驚かせないようにわずかに屈んだ。リスはきゅいきゅい、と不思議気に首を傾げて、ほっぺをふくふくしたあと、頭に生えた角を揺らしながら、こちらに一歩近づいてくれた。やった、と嬉しくなった。へへ、と手を出したままちょいちょい人差し指を動かしていたとき、「おい」 頭の上から声がした。


「そいつは一角獣の幼体だぞ。いくら水辺だからって気を抜きすぎだ」


 勢いよく振り返ると男がいた。黒髪で、少年を少し越えたくらいの青年だ。なぜだかひどく見覚えがあるような気がしたけれど、なぜなのかわからなかった。

 青年は私を見て奇妙に瞳をすがめた。ひどく機嫌が悪いように見えたけれど、それがもともとなのか、そうじゃないのか、私にはわからなかった。

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