6 鶏すらも逃げていく
もしかして街なんか行かなくても食料すらなんとかなれば生きていけるんじゃない? と勘違いしたくなるこの頃。
スライムはぶつかる度に増殖し、私のテイマースキルのレベルも上がり、ずんと短い足を組みながら地上を見下ろした。スライム達がうずたかくつもり、お掃除スライムのみであったはずが、いつの間にか他の種類も混じっている気がする。まるでひとつの生き物だった。
私が右にとバランスを崩せば、にょいんと曲がる。左に。にょいん。やっぱり真ん中に。にょいにょいん。下手な木々よりも高く、ぶっちゃけ森から飛び出している。空を飛んでいた鶏型のモンスターが、「ゴゴッッケェエエエッ!?」と聞いたこともない声を上げながら逃げ帰っていった。すまない。鶏なのに飛べてすごいね。
「フー……」
幼い手で額を押さえながらもため息をついた。スライムたちはとても自慢げに震えている。その振動がこちらまでやってきて、私は激しく上下にぶるぶるした。めちゃくちゃ震えた。振動がすごかった。やばかった。そしてぶるぶるしつつ叫んだ。
「か、かいさんっ!!! もうだめ、かいさん、解散しまーーーーす!!!」
ぶっちゃけ調子にノリすぎました。
いや私の想像よりもスライム達の増殖力とお友達スキルが強すぎたというか。互いにくっつくことが気持ちがいいのか、私を中心にしてぴとりとくっつき、ぷるぷるしていたうちはよかったのに、どんどん周囲のスライムまで集まりすぎて、収拾がつかなくなってしまった。
ただのスライムでも、集まればとても巨大なスライム城である。他のモンスター達でさえも驚き恐れて近寄らないというメリットはあるものの、さすがに目立ちすぎる。
悲しげに後ろ髪をひかれるごとく、たゆりと体液を伸ばしながら去っていくスライム達にハンカチを(もちろん持っていないのでフリのみで)振って、さてさて、とここ数日の出来事を思い出した。
そのときは可愛らしい数のスライムだった彼らに乗って、私は首都に進んだ。なぜならゲームをプレイしていたと言っても、あくまでも普通のプレイヤーだったのだ。細かい地名や地形までは覚えていないし、エルドラドであったときだって彼女にそんな学はなかった。せいぜい商人達がどの程度時間をかけて街から村までやってきていたのか、とそのぐらいの理解しかない。
エルドラド、いや今はもうエルとなった私は八歳になったばかりだ。一人で森の中で暮らしていくなんて無茶苦茶にもほどがある。だからエルを知らない人がいる場所へ、となると思いつく行動は一つしかなかった。
人がたくさんいる場所で、埋もれるように暮らす。ある程度大きくなって自分のことができるようになれば、また森の中に逃げたらいい。
首都を目指している最中、一番不安だった水についてはスライム達が提供してくれた。恐らく彼らは私のことを中心に配置するとたくさん仲間が集まってきてなんだか素敵なスライムだと認識していたらしく、お納めくださいとばかりににょるんと出してくれた水の出どころは考えないことにした。でも美味だった。
食料はエルの村の周辺とそう変わらない生態系だったことが功を奏した。木の実やきのこ程度の見分けなら問題ない。大きく気候が変わらないため、クラウディ国の内部では同じ植物が多いのかもしれない。そのかわり、別の葉である国を越えると、境界線を堺にして一気に気候が変わってしまう。
常夏の国ソレイユ、終わらない雨が続くレイシャン、凍てつく寒さと共に生きるヘイルランド。それぞれの国に主人公である結子が召喚された際の守り人となるお相手役と、敵となる魔族が存在する。クラウディ国は気候だけで考えるなら一番まともかもしれない、とゲーム内での設定を思い出してなんとも言えないため息をついた。
一体神様は何を考えてこんなにも国を散りばめた葉っぱのように変えてしまったのか。どこにでも存在する神だから、うっかり悪口を言って運を下げられてはたまらない。今の所私が見ることができるのはスキルと称号だけだけど。
ふう、と息をついて、私は周囲を見回しながら腕を組んだ。現状、かなり首都の近くには来ている。しかしここからどうしたものか。いきなりこんな幼女一人が門番の前に飛び出して、確保してくれるものなのだろうか。せめてもう少し幻術スキルを磨いたほうがいいのでは、と首を傾げた。
視界を邪魔するウィンドウは右の端に寄せて最小化している。パソコン画面の開く時と同じようにタップをして広げてみた。私の名前が表示されている。
【名前】 エルドラド(8歳)
【スキル】 幻術Lv.2、飛行Lv.1、掃除Lv.3、テイマーLv.2、察知Lv.1
「増えたなあー……」
テイマーレベルが上がったから、そこら辺のモンスターならお願いすれば互いにどうぞどうぞと道を譲り合う程度にはなれたからいいんだけど。察知スキルは周囲を気にしながらスライム戦車に乗っていたからだろうか。
スキルが取得しやすくなっているのは、異世界の記憶を思い出したというところで間違いはないと思う。幻術と飛行スキルはともかく、他のスキルは普通の人でも時間はかかるとしても、気づけば取得している可能性もあるものだ。私はステータスを見ることができる分、スキルの残滓に気づきやすく、取得がしやすいのだろう。とりあえず、よいことである。力は使えるに越したことがない。
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