第2話 別れの道程

あなたと出会ったのはサークルの新歓だった。

隣いい?と言って座ったあなたが僕の目にはひどく鮮明に写ったのを今でも覚えている。


「何年生?」

「あ、一年生です」

「そっか〜」


若いななんて言いながらコロコロと笑って、お酒を飲む。

少し赤くなった頬が新鮮で、思わず触れてしまいそうだった。

あ、といってあなたがこちらを向く。


「連絡先交換しない?」

「あ、はい。ぜひ」


携帯に映るあなたの文字を反芻する。

そっか、あなたはそういう名前なのか。

何故だか心が浮ついてうまく言葉が出てこない。

そっとあなたを見ると、あなたもこちらを向いていた。

思わずはにかむ。


「私、あなたの笑顔好きかも」

「え?」


それはどういう意味ですかと続ける前に、あなたは用事があるからとその場を立ち去ってしまった。


それから数ヶ月経った八月。

その会話だけであなたを好きになってしまった俺は、大学に通えない夏休みを恨んでいた。

あの日からあなたはサークルにも大学にもきていなかった。

あなたとの唯一の繋がりであるスマホを見つめる。

連絡なんてする勇気は、、、。

突然振動するスマホにびっくりして、名前も確認せずに通話ボタンを押す。

混乱したままスマホを耳に当てて、聞こえてきたのはあなたの声だった。


「さびしい」

「え?」

「今どこ?」

「え?」

「いいから」


半ば脅迫のように尋ねられ、観念して家の住所を告げる。

数十分後、家の前に車が一台。

慌てて飛び出した俺を、遅いと怒って車を出す。

最初のときとは違う印象に戸惑いを感じながら、あのあなたと話せている事実に心が躍った。


「さびしい」ってあなたはいつも言う。

そう言って俺を呼び出す。

そこから幾度となく呼び出され、海へ行ったり山へ行ったり、帰りは絶対にあなたの家に行っていた。

いつもあなたは不機嫌で、俺に優しく接しないように努力していた。

隠そうとすればするほど、垣間見える優しさに胸を掴まれていたことをきっとあなたは知らない。


「俺たちってどういう関係?」


関係が終わったのはきっとこの言葉のせい。

クリスマスのイルミネーションにあてられて、ポロリとこぼれた言葉。

言った瞬間にしまったと思った。

一瞬困ったような顔をしたあなたはそっと俺にキスをした。

そのまま抱き合い絡みあう。

その日はそのまま、いつものように終わった。

家の前まで送ってくれたあなたの顔はどこか泣きそうだったのかもしれない。


次の日、スマホを見るとあなたの連絡先が消えていた。

誰かに教えてもらおう、でも誰に?

あなたと俺を繋ぐものはこのスマホだけだったのに。

二人の関係はこんなにもあっさりと途絶えてしまった。

あんなに激しく求めあったことも、まるでなかったことのようで、やるせなかった。

風の噂で新しい男ができたことを知った。

家からあなたをつけて見つけた男はどこか俺に似た男だった。

特に笑顔がよく似ていた。


窓の外を見つめながら、あなたとのことを思い出す。

あなたは相も変わらず何も言わないまま、どこかに車を走らせていた。

きっとあなたにこの涙は見えていない。

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