『ってあなた』

コトリノトリ

第1話 別れの始まり


「さびしい」


スマホが鳴って届いた通知はあなたのものだった。

いつもの癖で外に飛び出す。

靴を履く時間も惜しくて、かかとをつぶしたまま、鍵を閉める。

家の前には見慣れた車。

勝手に扉を開けて、中に入る。

運転席に座るあなたは一度もこちらを見ないまま、エンジンをかけていた。


「今日はどこに行くの?」

「家」

「そう」


3秒で終わってしまった会話に、もう何も話せなくなる。

車はいつもみたいにあなたの家に向かっていた。


「なんで雨降ってるのに、傘さしてないの?」

「なんとなく」


あなたはそう言いながら、俺のシャツを乾燥機に放り込んだ。

面倒見がいいあなたの行動にまた胸が締めつけられる。

俺に声をかけたのも、遊んだのも、抱いたのも、全部あなたが寂しいからで済ませられたらどれだけよかっただろう。

ベットに腰掛けたあなたは隣を叩いて、俺を呼ぶ。

そんな誘いを断ることすらできない理由なんてもうとっくに分かりきっていた。


「今日は、話があって」

「はなし?」

「そう、話。」


はなし、ハナシ、話。

いい予感なんてするわけもない。

咄嗟にあなたに抱きついて、そのままベッドに倒れこむ。

あなたをこのまま縛ったらもうどこにも行かないだろうか。

俺だけを見ていてくれるだろうか。

いつもなら腰に回る手が今日はない。

そっとあなたを見ると、あなたは泣きそうな顔をしていた。


「やめて」

「やめない」


そう言ってあなたをきつく抱きしめる。

もうどこにも行かないように。


「お願い」


あなたがあまりにも泣きそうな顔をしてるから、思わず離れてしまった。

なんで、あなたが泣きそうなのか。

泣きたいのはこっちなのに。


「話が、あるの」

「うん」

「この関係、終わりにしよう」

「や、」

「今までありがとう」


やだも言わせてくれないあなたはそう言ってベットから離れた。

いつのまにか止まっていた乾燥機からシャツを取り出して、ベットに置く。

ぎゅっとそれを掴んで、ただあなたを見つめるのに、あなたはあまりにも自然で、

家を出るときには必ず香水をつけ直すことも、そのとりにくい口紅をつけることも、何でも知ってるのに。

あなたが振り向く。

思わずぎゅっと抱きついた。

あなたはやはり抱き返してはくれない。

困ったように俺の腕に触るから、思わず離してしまった。

あなたを困らせたいわけじゃない、のに。

いや、いっそ困らしてしまおうか。

このままキスして、いつものように触れば、あなたは俺を見てくれるだろうか。

そう思ったときには、あなたはもう部屋にはいなかった。

窓から車のライトが差し込む。


「もういかなきゃ」

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