正しさ
「死ね!オラッ!」
「テメェがなッ!!」
響くは怒号。轟くは罵倒。両者入り乱れる大乱闘。一昔と違うのは争いのレベルが高い事だ。右を見れば、皮膚を石のように硬質化させて打撃力を高める能力があれば、片や左のチンピラは、身体能力の拡張によるものか、瞬発的にスピードを上げて足技で勝負に挑む。他にも翼がある奴や、火を吹く奴、全身がバネのよう奴、手が剣みたいに鋭くなる奴ブラー、ブラー、ブラー。これもう隠し芸大会だろ。
中でも一際目立つのが、リーダー格の奴ら。右側の陣営のボスであろう赤毛は、これでもかとステゴロがガチ強い。能力者相手に右手で殴って、左手は誰かの胸ぐら掴んで、それでも戦いを仕掛ける奴は頭突きして。もう存在が台風みたいなバケモノ。喧嘩が、倒せば倒すほどスコアが上がっていくようなゲームだったなら、ぶっちぎりで一番を取るタイプ。
かと言って、左側の陣営のボスが赤毛に勝てない訳ではない。単純な力勝負なら赤毛が勝つが、技が絡むとどうだろう。長髪が勝つに八千円。長髪の強さは、過去にボクシングでも習っていたのか拳の当て勘が違う。隙を作るフェイントから、流れるように顎へ一撃。かと思えば、中国武術のように素早く拳を繰り出しては、とどめの首チョップ。一対多は苦手そうだが、それでも力をセーブしている所が、洗練されている。
そして、俺は気づいた。こいつら能力使ってなくね?
もしかして、俺と同じ特異体質だったパターンかと思ったが、そうそう0.1%が居て堪るかよ。だとすれば、何かしらある。五感系の能力か観察、判断能力系、或いは回復・治癒だったり。ま、何にせよ、ステゴロで能力者に勝つ事自体が、俺からすれば既に異能の力なんだわ……。
「なぁ、リン。誰が勝つと思うよ?」
「…………わたしは。あなたが、勝つ。と思う」
「なんだそれ」
いやいや流石に流石に。アイツらタイマンで思う存分潰し合って、疲弊しきった所を漁夫るならいけるかもだが……。あれ?もしかしてリンさん。行けと仰る?
俺は悟った。悟ってなお恐る恐るリンに聞いてみる。
「……マジ?」
「まじ」
つい先ほどまで考えていた事だが、俺が勝つビジョンはある。だが、それやっちまうと、少なくともどちらか片方、最悪両方からヘイトを買う。それにメリットなくないですか。リン姉さん。
やれ、というならやるが……。あ、これ、俺の信用を試されてる?フツーこんな口約束しねーもんな。もしくは、しっぺ返し。どっちでもいいけど。俺は彼女の信用を勝ち取りたいから、行かなきゃだ。なぜそこまでするかって?
それはな、この世界の正しさの指針は失われた。だったら、その『正しい』ってヤツを自分で作らなきゃだ。そして今、俺にとって『正しい』とは『リンの望みを叶える』事。
「さっきのアレ何処へいったけ……」
包丁。つまりは武器がいる。脅しの武器が。
「お、あったあった」そう言って、ちゃんと使えるか俺は念入りに確認する。
「……あなた、ホンキ?」
「…………リンなら、分かるんじゃない?」
「……―ッ!なんで……そこまで!?」
「たった今『リンの言う事を聞く』を俺の『正しい』の指針にしたからだ」
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