第9話 所有?
駅前の柱に寄りかかって仮眠をして待つ。ポカポカとして暖かい。平和だなぁ〜。
「ムグッ⁈」
「動くな。君はもう私の物だ。」
背後から何者かに口を塞がれた。いきなり所有宣言付きで。いや、何者かは分かっている。山口さんだ。さっき嗅いだ匂いと楽しそうな声でわかった。
「どうだった?」
「すげードキドキした。後でやり返してやる」
手を離して聞いてきたからイタズラぽい顔をして言う。山口さんは笑っていた。
「後ろは取らせないよ?」
借宿に着くと、各部屋の説明をした。
「今はお姉さんと暮らしてる。」
「そうなんだ〜」
「今日、あった事や聴いた事は誰にも言うなよ?」
はーいと返事をしてくる。お姉さんがいる事にして釘を刺す。これで咲に知れ渡る事は無いだろう。
「ニャー」
「可愛い!」
グレイが山口さんにすり寄る。癒されている表情は学校では見る事が出来ない。いつも気付いた時には目で追っていた。可愛い……
「名前、グレイだっけ?」
「そう!」
「これ使って」
ネコジャラシとおやつを渡す。
「ありがと!」
楽しそうに遊んでいる。アニマルセラピー効果だろうか。30分くらいでグレイは退室した。
「ニャッ!」
まるで、じゃあなって言っているみたいだ。
山口さんの視線は扉を見ている。このチャンスを見逃す訳には行かない。口を塞いで驚かしてやる。
「キャッ!」
「ムグッ⁈ ンッ!」
カーペットの上に山口さんを吸い付ける。衝撃が無いようにそっと、バランスを崩させてからゆっくり寝かして
口を離してお互いに見つめ合う。山口さんの息は荒い。よっぽど苦しかったのだろう。だが、まだ終わって無い。
「これで、お前は俺の物だ。」
「⁉︎」
これで所有物扱いになるの?あり得ない!って思っているのか山口さんは目を見開いた。これで終わったら一生後悔する事になるかもしれない。この事で疎遠になる可能性しか無い、告白してみるか……
「高1の頃から好きだ。俺と付き合ってくれ。」
俺の体重を支えている腕を前に押し出され、山口さんに倒れ込んでしまった。ぎゅっと抱きしめられる。
「私も好き。これから、宜しくね?」
耳元で言われた言葉は、これから先も忘れる事は無いだろう。
「一生、大切にする。」
そっと抱きしめ返す。幸せな気持ちに包まれる。今、山口さんのカ ラ ダを全身で感じていた。今も尚、息子はその存在を主張する。
『ガチャ』
「ただいま〜!」
吉川さんが帰って来た。夜の7時だ。もう、こんな時間か。周囲はもう暗い。女の子が出歩くのは良くない時間帯だ。
「おかえりなさい!」
声は返したが山口さんが俺の体を解放してくれない。
「続きはまた今度な」
山口さんは俺の目を見つめ、
「慶は私の物よ?」と言われた。その言葉が胸に刺さった。最高だ。
「俺は
そう言うと解放してくれた。俺は頬にキスをしてから吉川さんの所に向かう。美優も後に続いた。
「お邪魔しています。山口です」
「ゆっくりしていってね?」
自然だ。まるで草原に立たされているかの如く。爽やかな風が吹き抜けた。
「もう外は暗いので送って行きます。」
行ってらっしゃいと送り出され、夜道を並んで歩く。歩道側に美優を移動させて、そっと手を繋ぐ。ビクッとした感覚が伝わって来た。
美優がこちらを窺うように覗き込む。
「あの、袖を掴んでから手を繋いで欲しいな…いきなりだと、ビックリ、するから……」
「分かった。」
照れている姿も魅力的だ。送り先は分岐点で方向を教えてくれる。俺はたわいない話題を振った。
「美優はバイトしてる?」
「まだしてないよ、慶は?」
「火曜日と木曜日、金曜、日曜でスペシャルハンバーグでバイトしてるよ。」
「そうなんだ……」
「時間が合ったら一緒に帰らないか?」
「良いですよ〜だ!」
イタズラぽく微笑んだ姿は神秘的かつ幻想的だった。今日の夜空も星々が散らばり空を照らして行く。
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