第8話 新学期

 4月12日月曜日

 


 朝起きてからグレイにご飯をあげてから吉川さんと朝食を摂り、俺は学校に向かおうと玄関を出るとタイミングが同じだったのか隣人と目が合う。


「おはようございます!」

 

 笑顔を心掛けながら元気に挨拶をした。第一印象は大事。


「おはようございます。」


 ぺこりと頭を下げ、素っ気無く返す。クール美人だ。鍵を閉めてから階段を降りるともう居なかった。高1の時のクラスメイト、柊木 香織ひいらぎ かおりと同じアパートだとは思いもしなかった。学校に向かっていると松崎 隼人まつざき はやとが女子に囲まれながら歩いている。


「……。」


 ……刺されてしまえ。1人や2人では足りないのか複数の彼女が居るらしい。殆どの可愛い子には彼氏が居る現実。


「おっはよー!慶!」


 後ろから声を掛けられる。咲だ。いつもは登下校で顔を合わせない。珍しい。


「おはよ。どうした?」


「どうもしないよ?」


 そう言って2人で歩き出した。複数の視線を感じながら。学校に生徒が吸い込まれて行くいつもの光景。教室で支度を終え、スマホを視ながら時間を潰す。


「今日、学校終わったら暇?」

 

 いつの間にか隣の席に座っていた咲に聞かれる。今日のバイトは元々休みだ。何か嫌な予感がする。


「バイト。」


「バイト終わった時間に家に行って良い?」


 ……大家さんと一緒に暮らしている事がバレたらどうなる?なんかヤバイ気がして来たし、近所に住む同じ学校の人とかに見つかったら不味くない?絶対駄目だ。来るな。


「別の日にしない?準備を整えてから迎え入れたいし。」


「わかった!それと、何かあった時の為に合鍵欲しいなぁ?」


 潔く引いたと思ったが合鍵が欲しいと言いながらなんか、見てくる。


「何故?」


「慶がいきなり入院したら猫ちゃんのお世話、誰がするの?」


 そんな時は吉川さんにお願いする予定だ。猫の情報は母さんから聞いたか。鍵を渡したら不味い事になる。


「……。」


「はい、鍵渡して?」


「マスターキーしか持って無い。」


「嘘だー!」


 その通り、嘘だ。


「本当だ。」


 視界の端に人影が現れた。誰か確認したら『特急ハイパワーランド』の件以来、必要最低限しか話さなくなった山口 美優やまぐち みゆだった。


「強要は良くないと思うけど?後、そこ私の席。」


 「強要じゃないから。何かあった時の為だから。」


 そう言って席を空ける。教室のドアに向かって歩き出し振り返った。


「近いうちに作ってね?」

 

「……。」

 

 咲が教室を出るのを見送り、一先ず危機が去った事に安堵する。


「フゥー……」


「どうしたの?妹になら鍵を渡しても可笑しく無いと思うけど。」


 様子を伺うように聞いて来る。流石に可笑しいと気付いたのだろう。


「家族に渡すのは普通だよね……」


「だと思うよ?」


「色々、言われそうで……。」


「ダラしなかったら小言ぐらいは言われると思うけど、学校生活を見る限り大丈夫じゃない?」

「だらしない人はダラしないし。」


「ダラしない訳じゃ……」


「?」


 じゃあ、何?って顔してる。言える訳無い!年上の可愛いお姉さんと一緒に住んでるなんて……。適 当 に 誤 魔 化 す か!


「俺の部屋に居たら理性が持つか怖いんだ。」


「…え?妹に欲情するの?」


「妹とは言え、殆ど一緒に暮らさ無かったから同級生にしか思えなくて。」


「なるほど、それは色々まずいねー」


 事の深刻さが分かったのか山口さんが苦笑いを浮かべている。この話も噂で流れたらまずい事になりそうだが。


「どうすれば良いと思う?」


「耐えるしか無いねー」


「同級生の割と可愛い子が自分の部屋に居て、耐えらるかな……ヤバいんだけど。」


 想像しただけで息子が元気いっぱいだ。吉川さんとは寝る部屋が違うから手が出てしまう事は無い。何時も見せてくれる笑顔の為にも嫌な思いはさせたく無いのもある。だが、そ ろ そ ろ ヤ バ い。俺も一人の男だ。


「バイトが終わったら、私を部屋に連れてく?北村君の猫見たい!私なら問題になる前に止められるから。」

 

 本当に止められるのか自信に満ちて見える。


「耐えられるかの練習としては良いかも。山口さん可愛いし。」


「本当に襲っちゃう?」


 顔を朱色に染めながらこちらを誘うようにいう。


「揉むかも」


「え、揉むの?」

 

 出来ないでしょ?っと、そう言って笑う。

久しぶりに山口さんと会話が続いていた。もう笑い合う事は無いと思っていた。俺になんか興味が無いと思ったからだ。山口さんの髪型はセミロングヘアーで、ほっそりとした見た目の小柄な女子。顔立ちはとても整っていて笑った表情が無くとも可愛い。高1の時、同じクラスで隣だった頃は話しかけても大して相手にしてくれず笑顔を見せてくれる様になるまでひと月はかかったと思う。


 山口さんが携帯を取り出した。


「連絡先、交換しない?必要でしょ。」


「そうだね。」


 無事に連絡先の交換と集合時間、集合場所を決めた。直ぐに吉川さんに友達が来る事と夕飯は作れない旨を伝えた。


 先生の長話が終わった後、教室で班の役割り分担、クラスの係り、委員会を決めて解散になった。


「北村君、また後で」


「じゃあ、また」

 

 山口さんが耳元で囁いた。爽やかで甘い感じの香りが鼻腔をくすぐる。13時に駅前集合だ。部屋に急いで戻り整頓をして掃除を行った後、ご飯を食べる。お菓子や飲み物を買って準備してから、集合場所に行くと周囲には人通りが無くなっていた。

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