第3話 契約を結ぶ日
夕方、5時ぴったりに入店した。外は夕陽が沈み始め周囲の空や雲を美しく、染上げている。
「いらっしゃいませ〜!北村さん、お待ちしていました。」
明るい声と可愛い笑顔で出迎えられた。最高だー!5分前に到着する予定だったが印鑑が見つからない為、遅刻しかけた。
「……こんにちは。」
この店まで急いで来たから息が詰まって言葉を発するのが遅れる。時間に余裕の無いタイプだと思われたかもしれ無い。もしかして、待たせた……?
「お待たせして申し訳ございませんでした!」
手を前に組み姿勢を正し、45度にお辞儀する。
「うふふ、怒って無いですよ〜。社員さんみたいな謝罪ですね?責任はしっかり取ります!って言って辞職した方達みたいです……」
何しでかしたんだろ……一人でも辞められたら収益減りそう。
「社会人らしい謝罪の仕方を調べました。……吉川さんも大変だったんですね。」
「そうでしたか!それはもう大変でした。責任はしっかり取りますって言って直ぐに辞表を出したんですよ?そして次の日から来ませんでした。責任とって無いし、丸投げです……せめて自分の仕事くらい責任を持ってやり遂げてくださいよー……」
話しているうちにだんだん暗くなり、泣き出してしまう。社員は手に負えず、丸投げして逃げたのか。窮地に陥ったら気持ちは解らなくは無い。
それでも、自分の受けた仕事は真っ当するべきだと思う。
「俺はやり遂げますよ?」
「……え?」
「貴女を悲しませる真似はしません。」
吉川さんは呆けた表情をして固まっていたが口元を手で隠し笑った。
「うふふ、そうですねー!まずはその一歩として毎月しっかり家賃を納めて下さいね?」
「それではこちらの席にお掛け下さい!」
俺は学生で収入も安定してないから信用無いよねー……
「はい、必ず……!!」
失礼しますっと言ってから椅子に腰をおろす。
吉川さんから契約内容の説明を受け、これから書類作成だ。
「それでは北村さん、私と契約してください!」
「俺の人生を吉川さんにお預けします!」
即答だった。
「大袈裟ですよ!この書類に名前と印鑑をお願いします。その後、記載してある生年月日、住所、電話番号に間違いは無いかご確認してください!」
書類は思ったより多かった。こうして記入と確認は終わった。
「これで契約完了です♪」
「また、会えますか?」
「貴方が望めば、いつでも♪」
吉川さんの芝居がかった表情と声も一段と美しく、可憐だった。契約開始日は4月5日。3日後、つまり超スピード引越し。吉川さんと別れの挨拶を交わした後に、帰路につく。夕陽はとうに沈み、綺麗な星々とオリオン座が輝いている。また会えないかなぁ〜吉川さんに。
「北村さん!」
「うぉ!ビックリしたー!」
めっちゃビックリした。
「やっと追い付きました!忘れ物ですよ!この契約書は大切に保管してくださいって言ったではありませんか。」
ぅわわわー!仕舞い忘れてた!
「すみません、仕舞い忘れました。」
「気をつけてくださいね〜それと独り言、少し聞こえちゃいました♪」
頬を赤らめて、そうイタズラぽく言った。
「鍵は5日の朝、10時にお引越し先でのお渡しでよろしかったですか?」
「それで大丈夫です!」
鍵の引き渡し日時の確認を終え、微笑んだ。
「それではまた、近いうちにお会いしましょう!」
俺は頭を下げた後その場を後にした。家に着くと1歳違いの妹的存在である、従兄弟の
「それで契約はどうだった?」
「無事に終わった。4月5日から契約開始。」
「急だね〜荷物の整理早くやんなよ。追い詰められなきゃ動かない癖、治しな。」
「わかってる。」
そう、ぶっきらぼうに応える。すると咲が何か言い辛そうにしていた。
「どうした?」
「お兄ちゃんさ、時々帰って来るよね?」
「……照れるだろ?そろそろ呼び方変えない?」
俺達は兄弟では無い。学校も同じで親戚だ。
少しでも兄弟らしさが抜けてクラスメイトから兄弟認識を消さない呼び方が望ましい!何か無いのか?……あれ、様を付ければ他人行儀じゃね?
「お兄様とお呼び。」
「……呼び方の何処に照れてたの?馬鹿なの?」
「大して変わってなかったな。普通に
呼び方がどう変わっても周囲の兄弟認識はそう変わらない。
「わかった」
「時々、俺の部屋にも遊びに来いよ。」
「行けたらねー!」
咲はそう言い残して自室に戻った。行けたら行くは信用ならん。荷物は割と少ないし箱詰めして荷物を運んでもらうか。後、大人ぽいイケてる感じの服と髪染めのやつと日用品、箸やホーク、皿等の買い出しを明日で片付けるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます