PART2
そこから後はヨーコが自分の口で話した。
彼女は長年日本に住んでいるので、すっかり日本びいきになってしまい、ゆくゆくは日本人と結婚して、永住してしまおうと考えている。
しかし、いざそう思っても、なかなか適当な相手が見つからない。
特にこれと言ってルックスや収入などにこだわりはなく、性格がまっすぐで、暮らしてゆくに困らないだけのものがあればそれでいいという感じだ。
そうしているうちに、今から二年ほど前の事。同じ病院で看護師をしている同僚から、
”合コンに行かないか”と誘われた。
何でもその同僚が、別の職場で働いている友人から声を掛けられたのだという。
相手の男性はある中堅の商社に勤めていて、彼がインターネットのあるサークルで知り合った男性四人を連れてくるらしい。
合コンなるものがどういう性質のものであるか、ヨーコも薄々は知っていたが、しかしこれまで男性と付き合ったことがなかったから、ひょっとしてこれがいい機会になるかもしれないと考え、参加を承諾した。
会場は青山にあるフレンチレストランの個室ダイニング。
彼女の側は同僚、そして同僚の友人三人とヨーコの計五人。
相手側もやはり同僚の友人、それから同じネットのサークルの仲間、やはり五人。
彼女はラテン系の血が入っているとはいえ、決して情熱的だったわけではなく、恋愛に関してはどちらかというと奥手のほうだったという。
その中の一人が”彼”だった。
縁なしの眼鏡をかけていて、タートルネックのセーターにグレーのジャケットというカジュアルな服装をしていたが、風貌は知的に見えた。
決して”冷たい”という印象は受けず、むしろ快活で、それでいてソフトな、
そんな印象だった。
名前は“
某私立大学を卒業し、五年間日本有数の商社で働き、その後起業。
小さな事務所を振り出しに、今では年商約一億円は稼ぎだすほどの優良企業に成長させた。
だが、生活ぶりは質素で、車の国産のハイブリッド車に乗っている。
住んでいる家はマンションだが、それほど高級でもない。
酒も嗜む程度しかやらないし、煙草も喫わない。
ギャンブルにも興味はないという。
”贅沢をする趣味もないので、金の使い道がなく、困っている”と、まるで子供のような笑みを浮かべて頭を掻いていた。
ヨーコにはそれがとても謙虚で新鮮に感じられ、気が付くと彼と連絡先の交換までしていたという。
それから、二人の交際が始まった。
”交際”といっても、映画を観たり、ドライブに行ったり、少し遠出をして、日帰りで温泉旅行をする程度だったという。
彼女の方は、当然速水青年が”何か”を求めてくるものと思っていた。
”何か”
つまりは”彼女の肉体”という意味である。
だが、彼はせいぜいキス(フレンチキスではない。額や掌に軽く)をしたり、手を握ったりした程度で、それ以上のことを要求することは全くなかった。
”僕にとって貴方はとても大切な人になるかもしれない。それなのに即物的なことを求めるほど、僕はガツガツしていないつもりだ。”
速水はそう言って、爽やかな(少なくとも見かけだけは)笑顔で笑ってみせたという。
ヨーコはそんな彼の姿に、ますます惹かれていった。
結婚を意識するようになったのは、初対面からそれほど経ってはいなかったという。
彼の方から言い出したわけではない。
ただ、自然とそういう約束が出来ていたと言った方が早いだろう。
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