第3話直人とふうちゃんと呼ばれたい女性しかいない

俺は、歩道を歩いていた。隣には寝ているところを起こしてきた女性がいる。

いまだに彼女以外、見かけない。車もタクシー、トラックも車道を走っていない。

頭上ではカラス、知らない鳥の鳴き声がたまに聞こえるだけ。

俺達が向かっている場所は乃生兎(のうと)公園。遊具が多くあり、子供に人気があるそこそこ広い公園。

「都市伝説とかって興味ないの?なおちゃんは」

「面倒事は避けるでしょ、普通。運が悪ければ、死ぬことにわざわざ関わるのは嫌です。付き合えずに死ぬなんて」

「一度もないなんて意外。なおちゃん、可愛いのに。あいつとは大違い」

「可愛くなんかないですよ。あいつって誰のことですか」

「弟。なおちゃんと近いとしなんだ。いつも、ブスブスとか言ってくんの。ひどいと思わない?なおちゃん、隠す気ないの?聞くたびに胸を見てくるの、気づいてるよ。うち」

低い声で言う彼女に小さく謝る。

「すみません。いけないこととは思ったんですけど、つい。ブスではないですよ、ふうさん」

「ありがとう、なおちゃん。素直に謝ることは良いことだ。いつものことだから気にしてないよ、それにふうちゃんだよ。電車でおかしなことに遭遇したことある?」

「電車ですか、あまりないですね。数回しか乗ったことありませんから」

「うちはあるの。一番怖かったのはあのとき。夜、電車に乗ってたの。乗客が何人かいたんだけど、瞬きをした直後にだれ一人いなくなっていたの。駅に着いていないのに。一睡もしていないのに、意識がとんでもないのに。見たことがない景色が流れてた、窓の外は。運良く、スマホで通話ができたこと。なんとか生きている、こうして」

「それがきっかけで、こういうことを調べるように──」

「それより前から興味があったの。なおちゃんは隣の県で数人の高校生があの噂に出くわしたかもって話、わかる?高崎倉高校のこと」

「同級生をいじめてた久保木という男子ととりまきの男子、品不川という女子ととりまきの女子が行方不明の事件、ですよね」

「そう。まだ謎なの、高崎倉高校ではあの噂が関係あるとか思ってるって。在校生の数人に聞いたの」

行動が早い彼女だ。

「早いですね、調べるのが。大学に行ったんですか、その日」

「あはは、それは置いといて。乃生兎公園で噂のアレに出くわした情報が多いの」

笑う彼女。大学に行ってないらしい。

なぜ俺を乃生兎公園に連れていくのか、さっぱりわからない。


死ぬのではないか、俺。



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