第2話ふうちゃんと呼ばれたい女性
9月上旬の休日。
周りには人の気配が一切ない。外はまだ夏の暑さがあり、出かけたくないのはわかる。だけど、人にでくわさないのは不自然だ。この辺りで、何かあるのだろうか。
多少の恐怖を感じるが眠気が襲っている現在では、眠気にはかてず、ベンチに寝そべり寝息をたてながら寝ていく。
「ベンチで気持ち良さそうに寝ているそこの少年。起きなさい。鞍多、直人君」
額に小さな痛みを感じ、目を覚ますと目の前に華奢な身体の女性がいた。
まわりは薄暗い。どれだけの時間──。
「誰ですか、あなた?」
寝ぼけた声で女性に訊ねると、女性が小さなため息をつく。
「大学三年のふうちゃん。ふうちゃんって呼んでね、鞍多直人君」
「何で名前を、てか名前を聞いてるんです。あなたの名前を。ふざけてんの、あなた?」
「口の聞き方がなってないなぁ。なおちゃんは。うちはふうちゃんって呼ばれたいの。厄介なことに巻き込まれるかもよ、なおちゃん。それでもいいの」
「馴れ馴れしいな、こいつ」
そう吐き捨てると女性が頭を小突いてきた。
「お姉さんに向かって、こいつ呼ばわりとはいけないねぇ。躾ないといけないかな、なおちゃん?」
XLサイズにみえるTシャツを着ている女性が怖い表情を浮かべる。
「すみません。生意気すぎました。えっーと、ふう...さん」
「ふうちゃんって呼ばないと。あの噂を一緒に調べようと思って、なおちゃんに声をかけたの。クラスメートで気になる子がいるでしょ、なおちゃん?」
「興味ありません。噂やクラスメートなんて。勝手に──」
ベンチから立ち上がり、歩き出そうとしたら腕を掴まれ、女性はこう言う。
「うちは、なおちゃん、いや、直人君の助けが必要なの」
自分から厄介事に巻き込まれるからと言ってきたのに、結局巻き込まれるのか。
鞍多直人は、あの噂に近づくことになる。
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