第12話  12、トンネル掘削

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 開墾以外の最初の問い合わせはトンネルの掘削だった。

長さにしておよそ200mの短いトンネルで、海岸沿いの曲がりくねった山道を直結するトンネルであった。

工事総費用は一億円だと依頼主は言った。

千本は少し安いなと感じたが、百万円で受け入れた。

なにしろ相手にしては百万円を個人商店に先払いしなければならないのだ。

当日、千本はムンクさんと共にロボットを連れて福井県の海沿いの現場に向かった。

使用した車はハイエースではなく、ハイエースと全く同じ形をしたムンクさんが作った車であった。

 操縦法は前のハイエースと同じだった。

「ムンクさん、この車は前の車とどこが違うのですか。」

「スピードと安全性が向上しております。スピードは時速150㎞から1万㎞にしました。マッハ8程度ですか。安全性としては防御バリアを設置しました。前は空気貫通型幕バリアでしたが今度のは不貫通型のバリアで、4次元時空間の物質は通しません。車の周囲全体を覆う防御バリアのため宇宙でも水中でも問題は生じません。原爆でも深海でもどんな圧力も車に影響を与えることはできません。運転の方法は同じです。自動車の軽油燃料や空気は自給するようになっております。この車は空中や水中を走ることを想定しておりますから地表や山に激突するのはお避けください。バリアの位置は車の表面からおよそ1mに設定してありますから走行中に扉を開けて外に出るのはお避けください。」

「すごい性能ですが、これで車検は通るのですか。」

「車自体は前と同じに作ってありますから通ります。荷台に小さな装置が取り付けられて、運転席に小さなノブの飾りが付いているだけですから。」

 工事現場には数人が待っていた。

真上から降下したが相手は驚く顔ではなく発注が正しかったことを確信した安堵感を表わしていた。

「川本千本発明商店です。ロボットをお届けにあがりました。場所はここですね。どのような工事ですか。」

「来ていただきありがとうございます。ここに200mのトンネルを掘ります。どのようなお手伝いをしていただけるのでしょうか。」

「ムンクさん、説明してあげて下さい。」

「ロボットは穴をあけ、土砂を消去します。穴をあける方向と断面と深さをロボットに口頭で指令して下さい。例示したいのですが、この山肌に10m程度の穴を開けてもよろしいですか。」

「この辺りはトンネルのアプローチ部分ですから穴を開けても問題ありません。危険はないですか。」

「やり方によれば危険を生じますから、やり方を考えて下さい。方向はあちらでよろしいですね。ロボットさん、この方向に断面が5mx5mの矩形の奥行きが10mの穴を掘って下さい。分子分解銃を使ってもよろしい。熱線銃も必要ならば使ってもよろしい。」

「了解しました。」

 ロボットは空中に浮遊し、山肌の5mに近づき指先を前方に差し出した。

すぐさま草木が無くなり岩石がむき出しになった。

ロボットは5mの矩形になるまで山肌を整形した後、奥に向かって進んだ。

1m掘り進むのにおよそ1分がかかった。

そして10分後には正確に5m矩形の奥行き10mのトンネルができた。

ロボットは浮遊したまま出て来てムンクさんの横に降りた。

「完了しました。」

 ムンクさんは発注当該者に言った。

「ロボットには今言ったように指令して下さい。切り取った山肌を見て下さい。表面は切り取ったままのむき身で表面加工してありませんから崩落の可能性があります。もちろん熱処理して表面を溶融することも出来ます。そちらではコンクリートを打たねばならないでしょうからその分を考慮して命令して下さい。ロボットさん、入口から2mの奥まで土を溶融して表面処理して下さい。」

「了解しました。」

 ロボットは入口に浮遊して行き壁に指先を向けた。

壁面は黄色に輝き土壁は流動性を得た。

5分後にロボットは作業を終えてムンクさんの傍らに立った。

「完了しました。」

「今のが表面処理です。土や石は融解し溶岩状になってから固まります。おそらく崩落の危険性はむき身のものより少なくなるでしょう。ご理解いただけましたか。」

「見ました。すごい性能のロボットですね。工事に何の問題もないでしょう。助かります、ありがとうございます。」

 「満足いただき光栄です。ロボットの仕事はトンネル用の穴あけです。それ以外の使用は控えて下さい。貸出し期間はトンネルの穴が貫通するまでです。それから、ロボット作業中には人を近づけないで下さい。危険です。ロボットには触れないようにして下さい。攻撃と見なし防御します。ロボットが邪魔なら空中に浮遊させておいて下さい。必要な時は呼びかけて下さい。『ロボットさん』と呼びかければ降りてきます。作業の指令は口頭で行って下さい。ご理解できましたか。」

「よくわかりました。ありがとうございます。」

「それでは我々は帰ります。ロボットは穴の貫通後に自動的に帰還します。」

千本はムンクさんとハイエースに乗り上昇した。

場所は福井県であったので数分の内に金沢に到着した。

千本は音速を初めて超えた。

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