第11話 11、荒地の開墾
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現場は山裾だった。
指定された時刻に指定された位置に到着し、下を眺めた。
同じ作業服を着た二人の男が辺りを見回しながら佇(たたず)んでいる。
時々時計を見ているようだ。
上には注意を全く払っていないようにみえる。
千本はハイエースを垂直に降下させ、正確な時刻に着地した。
作業衣の一人は地面に伏せ、もう一人は唖然(あぜん)とした顔をしてハイエースを見ていた。
千本はハイエースのエンジンをかけたまま窓を開けて言った。
「川本千本発明商店です。ロボットを運んで来ました。ここでいいですか。」
二人はゆっくり近づいて2回うなずいた。
「ムンクさん、つれて来てください。」
ムンクさんとロボットは車を降り、運転席から降りた千本の横に立った。
ムンクさんは紺のスーツ、ロボットは作業衣を着ていた。
「ロボットは作業衣を着たものです。外見は自由に変えることができます。もしお望みならロボットらしい金属光沢にもできます。作業するのはどこですか。」
「目の前の荒れ地です。この荒れ地を耕作可能に開墾するのが目的です。広さは100mx200mのおよそ2ヘクタールです。」
「開墾の深さはどれくらいですか。」
「パワーショベルでは2m程度ですから、それでお願いします。」
「草や木は除去しますか、それとも埋め込みますか。」
「除草してから開墾していただくと大変助かります。」
「土の粒度はどの程度にしますか。」
「細かい方がいいのですが無理は言いません。」
「わかりました。ロボットさん作業は理解できましたか。」
「理解できました。可能です。」
「ムンクさん、ロボットに作業に必要な道具を与えて下さい。それから、2mの深さですから作業できる機能を付加して下さい。」
ムンクさんは車からスコップを一本取り出してロボットに与えた。
「これで十分です。」
「皆さん、開墾地から少し離れて下さい。危険かもしれません。ロボットさん作業を開始して下さい。」
「了解しました。」
ロボットはスコップを持ち、草地に入った。
スコップを左右に振りながら草地を進んだ。
ロボットの左右1mの草は土ごと根元で切られ左右に積畳まれていった。
5分もしないうちに20m先の境界まで進み、草を刈り払いながら戻って来た。
ロボットが戻ってきた時、千本は言った。
「ロボットさん、今日は初めてなので行程を見たいのです。これからの行程を今行った場所で先にやってくれますか。」
「了解しました。」
ロボットは空中に浮遊し、積み畳まった草の帯を分子に変えていった。
ロボットの指に発する分子分解装置は土の表面ごとみるみる分子の塵に変えていった。
ロボットの通ったあとは平らなむき出しの土になっていた。
1分もしないうちにロボットは戻って来た。
ロボットは次に穴を掘り始めた。
スコップは土に抵抗無くめり込み、土は真横に積まれていった。
穴が深くなるとロボットは浮遊装置を使った。
みるみるまに土の山が出来、ロボットは土を細かく砕きながら埋め戻した。
5分もしないうちに4mx5m四方は開墾が終了した。
「20㎡で長くて6分、1時間で200平米ですか。開墾面積が2万平米ですから終了まで百時間ですか。およそ5日が必要となります。少し長いですが今回は初売り大サービスですね。お二人さん、作業の完了までおよそ5日かかります。それでよろしいですか。それと土の粒度はこの程度でよろしいですか。」
「驚きました。丁寧な開墾法です。これをたった一万円でして下さるとは感謝しきれません。もちろん異存はありません。作業が終わったらどうしましょうか。」
「何もしなくてけっこうです。作業が終わればロボットは自動的に帰還しますから問題ありません。それでは我々は帰ります。何かあったら知らせて下さい。それと、見学は自由ですが、ロボットの作業中には近寄らないでください。ロボットは妨害者と認識し、自衛行動を行います。」
「ロボットさん、作業を継続し、完了してください。完了後はムンクさんに連絡し、指示に従って帰還して下さい。」
「了解しました。」
千本とムンクさんはハイエースに乗り込み、そのまま3千mまで上昇し、帰還の方向をとった。
帰りはムンクさんが運転していた。
免許証は無いのだが千本の免許証と全く同じ偽造の免許証を持っている。
顔は瞬時に変えることが出来るし、空を飛ぶような自動車に取り締まりはできようはずがない。
いよいよロボットの噂が広がる。
千本は疲れて眠ってしまった。
ムンクさんは干拓地の木立の中の道にハイエースを着地させ、安全運転で道路を通り、千本の車庫横の駐車スペースに停車させた。
ムンクさんは静かに千本を起こし、第三階につれてゆき、ラさんにコーヒーを頼み、ベッドに寝かせた。
1時間ほどで千本は目が覚めた。
足側にラさんが立っていた。
美人はいい。
「お目覚めですか。」
「ラさん、洗面所とトイレを作って下さい。老人になると痰がでてくるのです。」
部屋の隅に洗面所とトイレが見る間に作られた。
うがいをして、痰を吐き出し、トイレに行って小便を出した。
配水管が見えないので、排泄物は直ちに分解されるようだった。
この部屋全体がナノロボットで出来ているはずなのだから、そうなのだろう。
「ラさん、どんな注文が来てますか。」
「多くの問い合わせが来ております。どのような種類の問い合わせをお望みですか。」
「高額な問い合わせを見せて下さい。」
「かしこまりました。表示します。」
眼前にディスプレイが出現し、名前と内容及び金額のリストが表示されていた。
スクロールは目の動きにあわせ自動的に行われた。
あまりめぼしいものはなかった。
あと数日経てば開墾のニュースが伝わり、注文は殺到するであろう。
大きな事業をしている機関が無名の商店の宣伝に疑問を持つことは当たり前である。
今日行った荒れ地開墾の問い合わせが2件あった。
事業規模は一千万円台だった。
十万円の仕事である。
「ムンクさんを呼んで下さい。」
ムンクさんが来ると、千本は2件の荒地開墾の仕事を受けるように指示した。
「ムンクさん、今日の開墾の仕事ではシャベルが道具でしたが、少し格好が悪いと思います。荒地開墾用の道具か機械を作ってみて下さい。耕耘機程度の大きさで除草、土起こし、整地の作業が一度に出来るようにして、ロボットのみが操作できるようにして下さい。できそうですか。」
「容易に作れます。それを次からの開墾に使用してよろしいですか。」
「そうして下さい。見た目がいいと思います。その機械はロボットの回収と同時に回収して下さい。」
「了解しました。」
「今日、これまで無かったような未来の技術が日本に登場しました。噂は直(ただち)に広まるでしょう。それと同時にこの工場の周囲に調査のため知らない人が集まってくる蓋然性が高くなります。保安には十分に注意を払って下さい。でも、人に危害を与えてはいけません。」
「了解しました。」
開墾の申し込みはその後飛躍的に増大した。
食料の自給という日本の必要性と高年齢化による労働力の不足に対して川本千本発明商店は千体あまりのロボットを常時派遣して貢献した。
高性能ロボットの存在を日本は受け入れつつあった。
ロボットの高性能が確認され、そこで使用される道具が既存の装置からの類推では不可能なことを認めた人々は川本千本発明商店の提示する性能をいまだに心に残る疑問と共にとりあえず信用することにした。
そして千本は困難な作業にロボットの投入を試みた。
それは依頼工事の見積もり金額の低い順にとも言えないことではなかった。
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