第9話  9、ラさん

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 翌朝目が覚めて朝食、そして少しの横になった休息。

ホムンクさんに会ってから既に数日経った。

老人の一日の進行は壮年の時のそれと違う。

数日しか経ってないのにずっと前のような気がする。

日記をつけているとそれを感ずる。

ずっと前に行ったと思っていた作業がほんの一週間前なのに驚く。

今日はインターネットに「川本千本発明商店」のホームページを作らなければならない。

いよいよお披露目である。

 商売の経験など全くない千本ではあったが、商売をしなければならない。

利益を求めない商売、技術を普及させるための商売、この世の技術を遥かに超えた技術を日本国民に提示し、文明の発展の進行を加速させる商売である。

文明を発展させる技術革命、異星の技術の種を今日蒔(ま)き始めるのだ。

千本は自分の役割を楽しんだ。

 ホームページの作成は容易だった。

目立つ必要はなかったので壁紙は単純な模様を使った。

見出しは「川本千本発明商店」とした。

入金先と連絡先とが必要と気がついたので近くの郵便局に行き、「川本千本発明商店代表川本千本」の口座を開設し、電話会社に行き、新しい携帯電話を購入した。

メールアドレスは以前作って、その後一度も使用していない「定年生活」というアカウントを利用した。

個人商店だし個人名は屋号から明らかなので問題はないと判断した。

 ホームページはマさんに示した事項の他に次のような文章を加えて掲載した。

『川本千本発明商店

目的:当商店は文明の進展に寄与する発明品の販売と貸出しを行います。

連絡先電話番号:・・・-・・・・-・・・・

注文先メールアドレス:・・@・・・

料金振込先:・・・-・・・川本千本発明商店代表川本千本』

 人々は提示された性能を信じることができるであろうか。

常識からかけ離れている。

電話が先かメールが先かと千本はわくわくした。

応答はうまくできるのか、変な電話がかかって来ないか。

千本は職員を置くことにした。

とびきり美人のロボット秘書がいい。

電話の応対とメールの対応をしてもらえれば気分を害して一晩中イライラすることもないであろう。

美青年のムンクさんはおそらく別の仕事がある。

保安業務だ。

 千本は車庫に行き、ムンクさんを呼び、秘書のロボットを作ってくれるように頼んだ。

体重50㎏型で女性の美人秘書、スーツは紺のタイトスカートと白のブラウスとスカートと同じ紺の上着、禁制事項と停止事項の解放、そして電話対応とメール応答のための知識、マさんより少し低めの声色。

少し恥じらいながら千本は頼んだ。

しかしながら電話の対応は女性の声がいいし、雑多な問合せや要求がされるであろうメールでの対応は疲れを知らない秘書がいい。

それに、第3階でコーヒーを飲む時は美人秘書に淹(い)れてもらった方がいい。

第3階には自然の水とコーヒーとコーヒーメーカーを設置しようと考えていた。

ムンクさんは3時間ほどで作れると言った。

 千本はムンクさんにホームページをインターネットに掲載したことを伝え、彼女のために第3階に事務机と椅子とインターネット端末を用意するよう頼んだ。

「新たに購入した携帯電話の応対とメールの対応は彼女にお願いしたいと思います。パソコンの回線をこの工場には繋げないでそのようなことはできますか。」

「できます。千本さんのパソコン及び携帯電話と完全に同じものを作ります。接続は空中配線します。パソコンには防御攻撃機能を付加しておきます。」

「空中配線とは何ですか。それに防御攻撃機能とはなんですか。」

「空中配線とは電波ではない仮想の配線です。防御攻撃機能とは防御の原因となる相手の端末を消滅させることで防御する機能です。実際には当該コンピュータとコンピュータに直近のサーバーが発火し消滅されます。そのルートからは以後攻撃はできなくなります。」

「今回の発表でいくつのコンピュータが壊れることか、想像できないですね。この防御方法を記載しておくべきでしょうかね。一段落したら警告文を記載しておきます。説明の最後に、『警告:当ホームページは防御攻撃機能を持っております。攻撃したコンピュータ及び直近のサーバーは消滅します。』としておきましょう。」

 千本は第1階のマさんの前に行き簡易ベッドを作った。

そしてマさんに「ローレライ」を歌ってくれるように頼み、秘書ロボットができたら起こしてくれるように頼んで眠りに入った。

気が休まる雰囲気を感じながら千本は直に眠りに入った。

周囲全てが眠りを誘うような環境になっていたのだろう。

マさんの優しい声で目が覚めるとムンクさんと美人秘書が並んで立っていた。

美人秘書は完璧な左右の対称性を持つ美形であった。

申し分ない。

 「ムンクさん、この人が秘書ロボットですか。」

「そうです。50㎏タイプで作動時間は30年程度です。」

「わかりました。ロボットさんこんにちわ。私が川本千本です。貴方の名前は『ラ』です。スペルはRaです。エジプト太陽神の名前です。ラさん、仕事の内容は聞いておりますか。」

「携帯電話の対応とメールの応答と聞いております。」

「当面の仕事はその通りです。しばらくの間、それらの方法を私が教えます。その後は一人で行って下さい。その他にいくつかの仕事をしてください。貴方の役割は私の秘書です。秘書の仕事を学んで下さい。携帯電話とメール用のパソコンはムンクさんが用意してくれます。共に使用できるようになって下さい。今日、川本千本発明商店と言う名のホームページを立ち上げました。その内容を学んで下さい。その他、私が担っている仕事とムンクさんとホムンクさんの関係、そしてホムンクさんの命題を知っておいて下さい。ただし、ホムンクさんのことは決して口外してはなりません。この工場の詳細も口外してはいけません。知りたい事項とは異なることを質問して知りたいことを知ることはよくあります。そのような誘導尋問には気をつけて対応して下さい。解りましたか。」

「解りました。」

その声はマさんの声よりも音色を構成する高調波が少ないかわりに長振動の音が重なった少しバイブレーションを含む声に聞こえたが、それはそれで美しい声であった。

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