シルフィア世界 3

 ふつふつと、怒りがわく。他の存在に横取りされたのは、明らかだった。せっかく、自分たちがやろうとしている事が認められて、人智を超える力を分け与えられたのに。


 脳裏に浮かぶ、嘲笑う誰かの姿。狭間で自分たちが、シルフィア世界の主を嘲笑ったように。愚かと笑われることは、嫌なものと知る。


「調べろ! 痕跡が残っているはずだ」


 怒りをこらえて、仕切る存在は命令をくだす。何とも言えない顔をして見守っていた、誰もが我に返る。手分けして、周囲を探った。


 運命の歯車のつむぎ手から配られる力。受け取れるのは、領域とも呼ばれる世界出身の存在だけ。


 全員に持ち色が割り振られる。力を使えば、使った存在の持ち色が場に残る。特定できるはず。


 痕跡がない。横取りした存在も、持ち色を隠す方法を知っていた。自分たちと同じく。行き場のない怒りは、シルフィア世界の主に向いた。


 侵入した存在たちは、揃って城と向き合う。日帰りで登れる、ひと山ほどの広さ。ただ、城は、要塞。攻めと守りに特化して、生活は二の次。複雑な作りになっているはずだ。


 横並びで佇む、存在たちの中。一名が前に進み出る。城を分析。振り返って、結果を伝える。維持するために、働いている人数が多いと判った。


 口を割りそうな者を選ぶ。戦いに向いた存在を先頭にして、城に向かった。一名だけ硝子が入っていない窓から中に入る。他の存在は、外で待機。


 通りかかった者の後ろに立つ。胴に回そうとした手。首筋に押し当てようとしたナイフ。宙を切る。


 標的にされた者は、一瞬の殺気を感知。歩幅を大きく取って、前に三つ分進む。向きを変えて、身構える。


 標的にされた者。拍子抜けした。誰もいない。辺りを見回す。慎重に気配を探る。


 働きかけてくる力。「揺らぎを感知した。何があった?」と、皆から問い掛けられる。


 元の位置まで戻った。標的にされた者は視つける。ほんのささいな異質な力。たとえれば、残り香をかぎとった。城内で働く人たち。全員に届くように、警報を発した。


「精鋭部隊に所属していた元軍人が、失敗とは」


「現役には、かなわないよ」


 出迎えた仲間がからかう。当の存在が肩をすくめる。弱い者を狙ったはずが。匹敵するほど強かった。同じ手は使えないと、別の仲間が告げた。


「人智を超える力による警報が鳴らされた。一定以上の力を持つ者が採用されるのかもな」


「脅して、主の元に案内させる計画は白紙に戻す」


 仕切る存在が決断した。新たな提案をする。効率良く、手分けして探す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る