神話の始まり 4

 カチッ。闇と光の柱が伸びていった先。鍵が開く音。目覚まし時計の役割を果たす。


 あらゆる世界を挟んだ両側。ほぼ、同時に。闇の柱の中を、光の柱の中を、降下してくる影があった。


 一点に集まっていた、闇と光。限界まで圧縮された。壊れると想像させる。影と重なり、柱を縦に割って出てきた。人間の姿をした存在が。


 滑らかな青白い肌。長い手足。適度に筋肉がついた、胸。腰にかけて締まる。長い首。面長の顔。まっすぐな青みがかった黒い髪がかかる。


 足を踏み出す。クンッ、と、後ろに引かれる。毛先が柱に引っかかっているのが、感触で判る。面倒くさそうに、右手を下から上に動かす。


 切られた髪を引き込み、柱に開いていた穴が閉じた。


「闇を司るダークコアさま。お召し物です」


 足元から声を掛けられた。脳裏をよぎる。自分の名前がダークコアだったか疑う。記憶がよみがえる。目覚めるたびに、名を変えてきた。新たな名を考えたものの、思いつかず。面倒になったため、受け入れる。


「うむ」


 切れ長の目を開く。一瞥する。眷属と呼ばれる自分の支配下にある存在。両膝と額を床につけ、長方形の盆を掲げる。畳まれた服を載せた。


 ダークコアは屈んで、手を伸ばして掴む。広げて、着る。円く開いた襟に頭、袖に腕を通して終わりという。非常に簡素な作り。


 太古の存在として、奉られているにしては、あまりにも質素。模様もなければ、染めてもいない。


 他の方々に見さげられる、と、考えた存在たちが盆を差し出す。冠、ネックレス、イヤリング、ブレスレットを載せた。すべて、ダークコアは断る。


「せめて……」


 眷属から差し出されたマントを羽織る。暗い色味が、ダークコアの好みに合う。前で重なった襟元。楕円形をした金の留め具で留めた。


「感謝する」


「もったいなき、お言葉」


「出掛ける。留守番を頼む」


「はっ!」


 眷属に言い置く。ダークコアは狭間に出た。

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