神話の始まり 3

 花が闇に還って、三つの時代が過ぎた。


 あらゆる世界の上。狭間に浮く。三角錘の物体。側面に、影。闇にまぎれる濃藍色の服を着た男。垂直に跳ね上がる。天辺の平らな所に足をつく。砂埃が立つ。どこかの崖を切り取って浮かべたと、感想を抱く。


 向きを変えて、男は見下ろす。ケースの中に整然と並べられた卵みたいに見えた。あらゆる世界内の光が足りず。狭間の闇に負ける。どれも、灰色をしていた。伝承の通り。


 足裏から伝わる感触。目の前の光景。男に実感を与える。身を震わせた。来てしまった、ここまで。


 後ろで立つ、地に足をつける音。振り返り、笑みを浮かべる。自分が召喚した、不可能な事を補ってくれる。人外の物。


「生者の中で、狭間から世界を捉えたのは。先にも後にも、自分だけだね。ありがとう。連れてきてくれて」


「どういたしまして」


 誇らしげに言い、男は感謝する。くぐもった声が答えた。当たり前と言うように。


 男は引き締める。心身を。見えていたあらゆる世界に、背を向ける。


 自分の背丈の三倍はある、堅牢な扉と向き合う。素材は、木。両開きの形。今は柱にも使えそうな横木で、閉じられていた。


 どこの世界にもいる。禁じられている事を試したくなる人間が。叶えてやろうとする存在も。


 閂を外す。扉を開く。満たしていたのは、罪の意識か? 背徳感か?


 開いた男も、助けた存在も、闇に呑まれる。闇の柱が立った。


 ほどなく、光の柱も立つ。あらゆる世界を越えた反対側。まるで、光と闇が対極にあると教えるような。


 感知した存在がつぶやく。


「鍵が開いてしまった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る