神話の始まり 2

 宙に浮かぶ。固く閉じられたつぼみが、一つ。黄色の花びらが、緑色の萼に支えられた。どちらも、くすんだ色。日ごとに膨らんでいく。


 ポコ、ポコ、ポコ。耳を澄ませば、聞こえてくる。舟形の花びらが幾枚も包む、内側。詰まる無数の玉。一粒、一粒が、異なる色。鮮やかに染まる。


 押し上げられた、一粒。藤紫色の。併せて、緩む。ねじれていた先端。回転して、ほどける。できた隙間。隔てられた花びらの向こう側。狭間が見えた。自慢げに、教える。


 無数の玉。さざ波のように、広がる。端まで辿り着く。返ってくる。本当か? 問いかける気配。本当と返す。


 自分たちも見たい。一枚の花びらに押し寄せる。負荷がかかり、支えきれなくなった。尖った先の所が、外側に折れる。


「あら?」


 狭間に飛び出す、一粒。藤紫色の。後を追いかけるように数粒が、列を成して落ちていく。


 花が開く。似ているのは。しいて言えば、蓮の花。黄金色の光を放つ。恒星に匹敵する強さで。


 視力では、捉えきれない。人智を超える力を使う存在も、感知が遅れた。光に力がまざり、まどわされた、と後に語る。


 照らす、光の中。すべての玉ころが、狭間に落ちていった。


 光が消える。花びらが一枚、一枚と外れる。あらゆる世が形作られていく中。隔てる壁に当たる前。崩れて、狭間の闇に還る。最後に、支えてきた萼さえも。


 世界の始まりが告げられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る