現代・日本9

 公園を中心にして建てられた。閑静な住宅街を抜ける。ひっきりなしに、車が行き交う。広い通りに出る。視界が開けた。平行して流れる幅広い川の向こうに、小高い山。頂には、江藤 晃(えとう こう)の家がある。コウかぶりで、虹がまんま「にじ」と呼ばれるゆえんの。川向こうの一帯は、江藤家の持ち土地だったが。手放した歴史がある。


「運動部は、川向こうまで走りに行くよ」


「山も登らせてもらって」


「私有地に?」


「許可はもらっている。晃が所属している応援団部も使っているから。取りやすかった」


 山を指差して、透は言う。亨介が付け加える。驚いた颯は訊く。体を鍛えるのに、手頃な高さの山と判った。


 交通量が多い、広い通り。整備された歩道を進む。しばらくすると、私有地に入ってしまうと思ってしまう狭い道を見つける。学校への近道。緩やかな坂を上る。半ばに、二人、立っていた。


 手前は、セルザラナーク・カイザイク・サクヤ。異世界にあるカイザイク国出身だ。現在、江藤家に滞在して、同じ高翔学院・高等部の制服に通っている。江藤 咲也(えとう さくや)と、名乗って生活している。


 奥に立つのは、源 頼子(みなもと よりこ)。同じ高校に通っているが、女の子なので制服が違う。左胸に校章が描かれた襟付きの白のシャツ。黄色のリボンタイ。色は、選べるという。下は黒のひだスカート。白の靴下と黒の革靴。


「おはよう」


 挨拶の言葉。ほぼ同時に、発せられる。透は気後れした。頼子と咲也の王者の雰囲気に。


「よく、認めたな」


「色々あったんだよ。聞かないでやってくれ」


 咲也は覗く。颯の腕に止まるフレイムを。下げた頭を撫でてやりながら言う。関係を知るからこそ、言い争いしたと予想する。恋人と認めるか、否か。察してやってくれ、と、颯は答えた。


 いきさつを虹から聞いた。頼子はなんとも言えない顔をする。ひと騒動の後、買収した。フレイムの望むまなざしに、撫でてやった。


「キラさんは、元気?」


「訪問客」


 咲也の養母にあたる、キラについて颯は訊く。咲也は短く答えた。彼と話をするには、パズルを解くような難しさがある。正直、面倒くさい。


「事情は判っているけど、はしょるなよ。難易度が上がるから」


「……」


 切れた透は怒る。傍らで聞いていた頼子が頷く。まじまじと、咲也は見返す。読み取れるほどの能力はあると思ったが、と言いたげだ。透は思い出す。颯が問題児と、評したのも。言い得て妙と、声を出さずに笑った。


 ムッ、と、咲也はする。会う前に、話題になったのは想像がつくが。人の顔を見て、笑うことはない。珍しいものを見たという顔を透がする。表情の変化が顔に出たと意味した。環境が変わったことが大きいと、咲也は分析した。


「キラさんにとって、無下にできない相手が訪ねてきたのかな。命の恩人の。そういえば、人間じゃないんだっけ? 過去を伏せていると、頭が痛い問題だよな」


 思い返しながら、亨介が訊く。笑みを浮かべた、咲也が頷いた。信じられないといった顔で、透は見返す。単語だけで、よく、言い当てた。キラの過去を聞いているからこそ判ると、颯は考える。落ち着いた今だからこそ、昔馴染みが訪ねてきた。


「精神的な負担はありそうだけど、元気だってことだな」


 颯が言い添える。透と頼子が衝撃を受けた。愚かなのは、自分たちだけか。情報量の違いと、颯は訂正した。

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