現代・日本8

「なあ、訊いても良いか? オレの新しい持ち色は、何色だ? 先入観があるせいで。自分の持ち色を、視分けられないんだよ」


「淡い黄色。卯の花色だよ」


「へえ~。真冬から、一気に、初夏か」


 まぶたを閉じて、亨介は訊く。受け止めると、態度で示す。颯は教える。軽口を叩いた、亨介の声は湿っていた。透は事情を聴いている。入れない雰囲気に、黙って聞いていた。


「ところで、颯は、飯、食えているのか? 術とは、別の意味で」


 思い出したついでに、亨介は訊く。異世界・氷の花での侵入者との対決。神経をすり減らす、過酷なものだったと知っている。食べることが苦手になるほどに。


「本田さんが作った料理なら。……虹に、納得がいかないと叫ばれたけど」


 亜理紗が作った料理なら、平気と颯は答える。今朝も作ってもらい、弁当……。力が抜けて、座り込む。


「どした?」


「貧血を起こしたんじゃない?」


「亨介と透と話すために、朝飯を弁当箱に詰めてもらったんだけど。昼の弁当を忘れた」


「あ~あ」


「説教だな」


 亨介は推察したが、とぼけた口調で訊く。見当をつけて、透が言う。颯は自分の情けなさを白状した。透が呆れる。亨介が言うとおりで、颯は小言を食らうのを覚悟した。


「主に、料理を作ってもらっているの?」


「元、な。俺は次代の主だから、良いだろう」


 気づいた透が驚く。声に非難が含まれていた。気づかなかった振りをして、颯は自慢げに語る。


「候補であって、決まってねえだろう。今のままじゃ、票が集まらねえよ」


「判っているよ」


 冷ややかに、亨介が訂正した。颯は認める。中立の存在たちの票が、亜理紗に流れるという読み。颯の読みと一致していた。事件に巻き込まれた同情論が根強い。ただ、崩壊した世界の主が、次代の座に就くのを縁起が悪いと反対する存在たちもいる。


「農園に預けるの? アルバイトしているんでしょう?」


「クラスが違うから、知らねえか。フレイムも立派な高校生だ。学生証もある」


「ええっ!?」


 治療の一環として、農園で働いていると予想した透が訊く。似ているフレイムなら、鶏の群れにまぎれ込める。入学試験に合格して、一緒に通っていると颯は明かす。フレイムは威張る。別室で、選択する問題のみであったが。人間と同じ水準の知能があると示した。


 フレイムの写真が付いた、学生証を見せられた。うーわ、という顔を亨介はする。教師の苦労がしのばれた。


「先生の受けは良いんだよ。火を見つけるのは、得意だからね」


「ああ」


 厳しいと生徒から恐れられる、教頭と生活指導の先生から、フレイムはかわいがられていると颯は教える。聞いた透と亨介は納得した。


「判断材料は、足りると思うか?」


「どうかな。相手次第だしな」


 近寄って、颯は耳元でささやく。亨介も小声で返した。人智を超える力による、監視と分析は続いている。降りてこないところを見ると。決定づける情報が足りないと思われた。


「ん? どうした? 透。言葉に出さないと、伝わらないぞ。問題児が控えているからな」


「片割れが記憶を持っていってしまった。納得もしている。でも、昔の話を聞くと、自分が居ても良いのかって考えてしまう」


「俺たちの信念、覚えているよな」


「領域の道義を守る」


「外れたら?」


「戻ろうと、努力する」


「忘れない限り、透は俺たちの仲間だ」


 颯に促される。思い切って、透は抱える不安を口にした。気持ちを言葉にすることで、落ち着きを取り戻す。まっすぐに見返して、颯は訊く。教えられた信念を、透は話す。亨介が加わる。透の答えに、満足そうに二人が笑う。揃って認めた。

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