現代・日本7

 転生していく皆を守るために、術を使ったのは判っている。言うように、亨介は真相を明かす。自分も使うつもりでいて、結果を判っていて唱えた、と。颯は言いかけて、やめる。自分は次代の主としての責務から、皆を守る術を使った。では、彼は?


 言葉に詰まる。颯の脳裏に浮かぶ。オルネリアンの姿。自分の右腕になりたいと望む。いきさつを知れば、亨介に嫉妬する。世界を統べる主。手を出すまい。


「あっ! 同情するなよ。バレーボールやっているし。朝飯食って、早弁用と昼用。夕食までつなぐ、おやつも持って来ているからな。颯よりも早く、成長してやる!」


 バッグを掲げる。ズザザと下がりながら、亨介は主張した。颯は渋い顔をする。透の何とも言えない顔が物語っていた。術の代償は、重いということを。隠しきれなかった。知ってしまった友人に、口止めするほどに。


「冗談は、さておき。解決する方法はある。ただ、オレたちから言えることじゃねえ」


 真顔になって、亨介は戻ってきた。現状の打開策があると示す。条件付きで。さすが、あらゆる世界を統べる主の右腕を務めた男。颯は心の内で、称賛した。比べると、オルネリアンは劣る。


「ポジションは?」


「……」


「セッター」


「透、てめえ!」


 ボソッ、と、颯は訊く。本人は、口をつぐむ。代わりに、透が答えた。亨介がすごむ。


「一年生で、正選手なんて、スゴイじゃないか」


 ケロッとして、透は純粋に褒める。ハーッと、ため息をつくように、亨介は説明した。


「父の啓介(けいすけ)さんが子ども嫌いで。スポーツをやらせておけば、非行に走らないと考えたらしい。一番上の兄の竜之介(りゅうのすけ)さんが、野球。二番目修介(しゅうすけ)さんが、サッカー。オレが……」


「バレーボール」


「本音は、仕事でたまったストレスを、ボールを打って解消したかったみたいだ」


「つまり、素人のレシーブを、素人のアタッカーに打ちやすいように。トスを上げているうちに。正選手になれるまで、うまくなった」


「当たり。監督から叱られるけど。もっと、身を入れて、練習しろって」


 聞いていて、颯は想像がついた。落ち着き払った、亨介の態度。親はなんでもできると錯覚した。理不尽な要求をしだしても、本人は嫌な顔をせず。努力した結果が、今、出ている。


「で、颯が本当に訊きたいことは、何だ?」


 隠し事をしている。見て取った亨介が訊く。思わず、颯は足を止める。勘と洞察力が鋭い。本人から切り出されて、訊きやすくなった。


「持ち色が変わることがあると思うか?」


「ある訳がないだろう。罪に問われる事をした存在を追えなくなるし。無実の証明も……」


 すべての存在の中で、最も視極める能力が高いと評された。転生した今も、健在な颯からの問い掛け。否定したものの。次代の主が、冗談を言うはずがない。


 持ち色が変わるとしたら……。亨介には心当たりがある。脈が速くなり、呼吸が浅くなる。脳裏に浮かぶ、かつての仲間。尋ねれば、裏取りが……。


「太古の存在の方々が、まっとうに答えてくれると思うか?」


「いや……」


 本人に切り出す前に、確かめてくるつもりでいたと颯は明かす。亨介も判っている。太古の存在と呼ばれるかつての仲間。大の宴好きで。己の罪を認めず、罰を受けていない人間や存在は別にして。宴に参加させて、うやむやにしてしまう。

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