現代・日本6
門扉を開く。一歩、颯は外に出る。ビリッ、と、静電気にも似たものが流れる。門を形作る屋根。突き出た軒までも透かし視ようとする、強い力。分析しようとする存在たちの見当はついている。事態が落ち着いた。来る頃と、読んでいた。何食わぬ顔で、向きを変える。門扉を閉じた。右手に学校指定の鞄を持ち直す。左腕に捕まらせるフレイムに、無事か訊く。ワイシャツを汚さないように、厚手の布を挟んでいる。傾いたが、バランスを取っていたとの答えがあった。
「おせーよ。何に手間取っていたんだ?」
左側から、亨介の声。不満げな。寄りかかっていた塀から、身を起こす。傍には、黒須 透(くろす とおる)が立っていた。やや、表情がこわばる。亨介に教えられたと思われるが。軽い緊張は、会うまで続きそうだ。
「招待状が届いた」
「今なのか?」
亨介は知りたがる。虹がいるのに、時間がかかった理由を。短い言葉で、颯は伝えた。驚いて、訊き返す。
「いくら、光と闇の原始にあたる両存在でも、どうにもならない。司る力以外の時空間のねじれは。ましてや、自然が淘汰しているなら」
「万能をおしまいにした力が働くんだったな」
一緒にいる透のためと判っている。颯の説明に、亨介は言葉を添えた。揃って、歩き出す。
「そういえば、スズメが配達してくれた」
「え!?」
「吸い込まれたか? 移動が下手な奴がいるからな」
いたずらを思いついたという顔で、颯は言う。透が驚く。サラッ、と、亨介は流す。見送りに出た亜理紗の頭の上。まったりしたスズメの姿が、颯の脳裏に浮かぶ。飛び込んだにせよ。巻き込まれたにせよ。スズメが満喫しているのは、確かだ。
「そういや、透の所のスズメは、どうしてる?」
「江藤(えとう)さんちでの生活に慣れて、家と庭を我が物顔で飛び回っていたよ」
思い出した亨介が訊く。颯は口をつぐむ。異世界の絶滅危惧種を、スズメにしちゃった、あれか。時々、様子を見に行っている透が答えた。連れてきてしまった責任からだ。
「晃(こう)の家は、山の中にあるからな。天敵は……」
「カラスが追い払ってくれているって」
電線から見おろすカラスを、透は指差す。感心したように、亨介が見上げる。カラスは胸を反らす。褒美くらい、出してやろうという気にはなる。思い上がらなければ。
大きく踏み込む。颯は間近に寄る。持ち色について、訊こうとした。振り返った亨介と、目が合う。誰よりも、早い。視線の高さが等しいのだ。新鮮だった。今まで会った面々を思い出す。見上げるか、仰ぎ見るかが多かった。
開きかけた口をつぐむ。颯の脳裏によみがえる。転生前の自分。術を使った。手に余るほど、高度な。支払った対価は、転生後に現れる。成長が遅れるという形で。術が苦手なことも、自覚している。バク、バク。心臓が早鐘を打つ。悪い予感がして。隠すために、颯はとぼける。
「次代の主に、忠誠を示すのは判るが。背丈まで、合わせなくて良いんだぞ」
「そんな器用な真似、できるかー!!!」
思わず、亨介は叫ぶ。颯が隠そうとしているのに気づいていても。道を行き交う人たちの視線を集める。透がなだめた。ご迷惑をおかけしたと、亨介が謝った。フウッ、と、息をつく。
「術にうといくせに、手を出すとは。颯が使った術は、二人同時に唱える必要があった」
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