現代・日本5

 見上げていたフレイムが、少し、頭を下げる。要求は、虹も判っている。冠状に生えた羽根を指で弾いた。問うように、フレイムが見返す。


「颯をつっついたから」


 済まして、虹は答えた。物言いたげなまなざしをフレイムは向ける。颯が見ていた夢に、ケチをつけたのは自分。会った時のことは、デリケートな部分に当たると知っている。全面的に悪い。降参した。


 リスの姿に変わった、玉ころが虹に撫でられる。うらやましそうに、フレイムが見守った。


「この子は?」


 颯の指先に止まる、小鳥に視線を移す。訊きながら、虹は小指を伸ばす。スズメの求めに応じて、そっと、触れた。


「スズメ。お偉方々のお使いをしてくれたんだ。褒美をやる約束をした」


 事情を、颯は話す。一瞬、虹は目を見開く。裏を推測したと判る。説明がいらず、助かった。


「何を食べるの?」


「米?」


「ご飯?」


 褒美は食べ物に限ると、虹は訊く。昔話を思い出しながら、颯と亜理紗は答える。


「一つ、問題がある。スズメは飼ってはいけないんだ」


「いろいろ用意して、好きな物を食べてもらえば?」


 スズメに頼む。虹の指先に移ることを。離れたところで、颯は踏み台を用意する。新しい雑巾で拭く。揚げ終えた、亜理紗が小皿を並べる。それぞれ、米、ご飯、果物を盛った。


「お好きな物を、どうぞ」


 様子を伺っていた。スズメが向きを変えて、仰ぎ見る。かがんで、目を覗いた亜理紗が伝えた。スズメが感激したのが判る。迷う日が来ようとは。翼を広げて、台に移る。


「私の推測によると、咲也(さくや)が術を解いたね。妥当なところだね。居場所がばれて、攻撃を仕掛けられても、受けて立てる」


 さすが、虹。専門学校を首席で卒業。修羅場をくぐって、場数を踏んだ。屈指の術師。内心、褒め称えた颯は理解する。人智を超える力で作られた障壁に、町は包まれていた。虹に匹敵する術師の亨介の仕業だ。転生した皆を隠すように、咲也も力を使って障壁を張った。咲也は祭り上げられていた。考えが異なる連中に。本人は望んではいなかったのに。今回の件で、咲也も術に詳しいと判った。


「術……か。うといと、思考に穴が開くな」


「仲間が補ってくれる」


「ああ、そうだな」


 アレキサンドラから、術を掛けられていた。知ったセフィットから、術を学ぶように勧められた。御大層な本も差し入れられる。一応、開いたが。専門用語が読解できず、投げ出した。颯からいきさつを聞いている虹が慰める。術に詳しい人が、三人もいる。必要になったら、頼ろう。


「朝食を弁当箱に詰めてくれるか? 亨介と話しながら行く。持ち色が変わった」


「ピンポイントで、手を打っているよね。おかげで、味方も感知が難しい」


 話題に出て、思い出した。颯は頼む。朝練に遅れる、と、亨介に嫌みを言われると想像した。過去を振り返った虹が言う。本人から裏取りすれば、決定だと思った。


「自覚があると思うか?」


「ないと思う」


 思いついて、颯は訊く。虹は否定した。対立している連中にとって、亨介……キョウは脅威だ。本人を撃つことはできないが。周りにいる家族を人質に取って、行動を制することはできる。考えを巡らせて気づく。亨介も近所に住んでいるのを知らなかった。他にも、障壁を張った人がいる。


「着替えてくる。……スズメをよろしく」


「うん」


 褒美を取ったスズメが、亜理紗の頭の上にいた。頼んで、颯は食堂を後にした。

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