現代・日本4

 飛んできたフレイムが、腕に捕まる。スズメが手紙を運んできたと、伝えてきた。見返した後、颯は仰ぎ視た。天井、空、宇宙を越した先へ。首元にいるのは、ただのスズメじゃない。領域に入っちゃったスズメだ。大方、扉を作って移動する……。自分たちの責任と気づく。国固有の小鳥だからだ。知られるのは、時間の問題。方々から、叱りの言葉が届けられる。


 差し出し……存在たちは、判った上で、スズメに運ばせた。人智を超える力を使い、招待状を小さくして。


「褒美をやらなきゃな。一緒に来るか?」


 颯は誘う。首元から、スズメは指先に戻る。行くよ、と言うように、右の翼を挙げる。現金だな。笑って、部屋を出た。


 まっすぐ伸びる廊下を進む。階段を下りる。玄関を視界に捉えた。そのまま出て、亨介と話をしたいところだが。スズメに褒美をやる約束を優先する。下りきったところで、回り込む。背を向けて、廊下を歩き出す。


 開いたドアから聞こえてきた。今日の天気を知らせる声。颯は足を止めて、右の部屋を覗く。真ん中に、低い長方形のテーブル。囲うように、並ぶ、黒い革張りのソファー。間に立つのは、パジャマ姿の祖父。着替える前に、真剣に見いるのは。大きな画面のテレビ。


「おはよう。今日の天気は?」


「おう! 颯か? 一日中、良い天気だぞ。熱中症に気をつけろってさ。水を持って行くのを忘れるなよ」


「悟さんも、な」


 朝の挨拶と会話を、祖父の悟(さとる)と交わす。テレビを見ながら、着替え始める。見つかったら、祖母の花菜(かな)に叱られると想像した。忠告はしない。颯はドアの前から離れた。


 物を揚げる音。醤油の匂い。嗅いだ颯の腹が鳴る。食堂の入り口に立つ。手前のテーブル。上に並ぶ、大皿。脇から覗き込む。頭と手足を出した、丸い物体。艶がない銀色の。虹が組み立てた携帯端末のラナンだ。


 ラナンに倣い、颯も見やる。大皿に盛られているのは、俵形と三角のおむすび。海苔は、脇にある皿の上。深めの皿には、山を形作る煮物。ニンジンのオレンジ色と、インゲン豆の緑が栄える。うまいのは、味が染みたジャガ芋だろう。肉は……。


「おはよう」


「あっ! おはようございます」


 挨拶して、颯は入る。奥にあるガス台の前。立っている女の子が、肩越しに振り返る。すぐに、前に向き直る。菜箸が挟む、狐色に揚がった丸い物。次から次へと、脇の銀色のバッドに移す。お弁当の定番、唐揚げを作っている最中と判った。


 彼女の名前は、本田 亜理紗(ほんだ ありさ)。動物に例えると、ウサギ。かわいい外見とは裏腹に、意外に狂暴な。本人も言いたいことは、はっきり言うが。誰かの後ろに隠れて、顔を覗かせて言う場合もある。


 亜理紗は、プロの料理人を目指している。目標を聞いた時、颯は何とも言えない顔をしてしまった。瞬間、グッと、眉根を寄せたが、何も言わなかった。


 洗った手を、タオルで拭きながら来る。天宮 虹(あまみや こう)。「こう」と呼ぶのが正しいが。皆、まんまの「にじ」と呼ぶ。動物に例えると、ハリネズミ。もっとも小さい種類の。


 颯は言ってやりたかった。今は亡き、学友に。羽を分け合う相手が、自分にもいた。未来に。彼女・彼らは、翼と言っていた。翼の方がカッコイイという理由で。


 初めて会った時、勘が働いた。彼女・彼こそ、羽を分け合う相手だ、と。今は、本能が訴える。同じことを。互いに、目を合わせる。どちらともなく、笑みを浮かべた。揃って、実感がわかない。虹は、羽がないまま育つ。颯は、二枚ともあった。当のシルフィア種族によると、常に、欠落感があるという。いずれ、判る時が来る。話し合った結果だ。

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