現代・日本3
床についていた。颯は両手と膝を。亨介と話してはいた。意外に近い所に住んでいるかもね、と。住所を聞くこともせずに、別れた。つないでくれたカラスに感謝する。窓越しに顔を合わせるまで、思い出しもしなかった。
さっきの光景がよみがえる。颯は眉根を寄せた。過去の記憶を辿る。立ち上がって、窓から下を覗く。ようやく、身を起こして、立ち上がる。亨介を人智を超える力を通して、視る。
違和感の正体。亨介がまとう光が違う。転生前は、白に針先ほどの黒を混ぜた、白銀色。今は、淡く黄色に染まった、卯の花色だ。顔を引き締める。本人が自覚しているか。まず。裏取りを。彼のかつての仲間の太古の存在に尋ねるか悩む。ランセムやキセラという伝もある。迷いながらもやめる。思い出したからだ。全体的な性質を。結果は、見えている。直接、訊いた方が早い。
「驚かせて、ごめん。今、初めて、亨介が近所に住んでいると知ったんだ」
振り返った颯は教える。止まり木にいるフレイムに。ふ~ん、といった様子。
「持ち色が変わっている。自覚があるか、判らないけど」
颯は話を続ける。パカッ、と、フレイムはくちばしを開けた。共に説明を聞いている。
持ち色は、変わらない。持ち主が、自然に還るまで。力を使う__働かせれば、空間が持ち色に染まる。罪に問われる事を仕出かした場合。他の存在が、痕跡を追う。調べて、証拠を固める。法に則って裁く。無実なのに、裁かれることがあってはならない。
窓の方を向いて、開く。風が吹き込む。外から室内に、影が動く。後ろで、フレイムが声を上げた。小さな気配。悪いものじゃない。判断した颯は、後回しにする。身を乗り出す。
下にいる亨介は、人差し指を口の前で立てた。持っていたがスマートフォンを指差す。まるで、行動を予想していたみたいだ。声を張って、伝えようとするのを。颯は顔の前で、右手を立てる。謝る仕草。話がある。待っていて欲しいとメールを送った。
脇にある。窓の方を向いて置いた、机。上にスマートフォンを置く。傍らに、白い封筒。スマホを手にする前は、無かった。鋭いまなざしを向ける。雰囲気の悪化。頭の上で、軽い羽ばたく音。怯えさせたと、颯は判る。深い呼吸を繰り返して、静めた。
封筒に書かれた宛名は、転生前のフェウィン。差し出し人は……。今朝方、見た夢当時と同じ物なら……。裏返して、確認。内容は、想像できた。見るのは、後回しにする。
「スズメ!?」
何が入ってきた? 気配を辿って、颯は見上げる。電気の傘の上。下を覗く、なじみの姿。茶色と黒、白の。スズメだ。窓を開けておけば、出て行くか? 考えるが、小刻みに震えているのが伝わってきた。
「おいで、怖くないよ。……どうした?」
指を曲げて、颯は手を伸ばす。笑みを浮かべて、優しく声を掛ける。スズメは首をかしげる。自分を傷つけるか、つけないか。人間を見極めようとしている。
しばらく、動かずに颯は待つ。思い切った様子で、スズメは下りてきた。指に止まり、さえずり出す。堰を切ったように。訳せば、カラスに追われて逃げてきた。偶然、飛ぶ方向が同じだったとも考えられたが。怖かったの、と、鳴く。小鳥に言えなかった。
「怖かったんだね」
共感する。ちょん、ちょんと跳ねて、スズメは首元に移動。ピタッ、と、くっつく。どうするか? 颯は悩む。鶏は飼えるが、スズメは飼えない。
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