シルフィア世界・10

 風が頬を撫でる。ゾクッ、と、する。体温が二~三度、下がった。フェウィンは思い出す。敵は全部で、六名いた。襲撃と推測。勢いよく、体を起こす。目の前が真っ暗になった。手探りで、寝台の端に座る。風を切る音。顔を上げた。額に当たる。鋭い痛み。瞬間、全身を包む、温かさ。視界が戻る。体の辛さも消えた。


 正面の白い壁。開かれた、握り拳ほどの大きさの穴。七色に縁取られた。キセラか、ランセムの仕業と判る。閉じていくのを見て、感謝の言葉を届けた。


 フェウィンの視界に入る。ラフィッツとルシアが、穴に向けていた槍の穂先、鎌を天井に向けるのを。護衛の鏡、と、褒めそやそうと考えた。


 何が起きた? 玉ころは問い掛ける、自分に。はしゃぎ過ぎたのを反省する。弾かれたのを思い出す。すっ飛んで、何かに当たったのも。瞬間、持っていた力を、すべて吸い出された。怒りに震える。淡い橙白色の柔らかい壁。全体を捉えようと、下がった。


 玉ころはかたまる。純粋な藤紫色の光をまとう、人間。人智を超える力が体に収まりきらず。背中側の左右で、二枚の円を描いている。まるで、羽を広げているみたいだ。キセラに引き合わされる想像とは、違ったが。会えたのだ、本人に。中々、実感がわかなかった。


 玉ころは、腹が減る(人間風に言えば)。純粋な藤紫色の光は、おいしそうに見えた(人間風に言えば)。よだれが出ている(人間風に言えば)。力が底を尽きた。割れてしまう恐れがある。契約まで、待っていられなかった。


「いっただっきま~す!」


 玉ころの一声(?)。円が切れる。端が目掛けて飛んでくる。藤紫色の人智を超える力を吸い始めた。


 ピリッ。立った音。まるで、布に刃物を当てたように。切れ目が入る。フェウィンは驚いて、正面に捉え直す。円を描く流れが、上下に分かれた。下から上がってくる力が、正面の壁の方に引き上げられていく。流れの先が判りにくい。もっと、視極められる目が欲しいと願う。


 外から差し込む光が反射。砂粒ほどの大きさの玉ころを見つける。色が付いた液体を飲むように。見る間に、藤紫色に染まっていく。体内から出た力を吸収している。もしや……。


 ピカー!! 小指の先の大きさ。藤紫色の光を放つ、玉ころが現れた。


「我は、魂核(こんかく)。力を譲ってくれて、ありがとう。おかげで、砕けずに済んだ」


 目の前まで、光の玉ころが降りてきた。感謝の言葉が伝えられる。譲った訳じゃない。フェウィンは思う。理由を聞いて、助けられたのなら、いいやと思い直した。空を飛べるほどの力を失っても。


「譲ってくれた礼だ。良いことを教える。我と契約を結べば。そなたは、いつでも我から力を引き出せる。道義から外れた行動を取らぬ限り、永遠の命をやろう」


 魂核からの申し出。フェウィンは特典付きの商品を、紹介された気がした。


「ただし、転生の輪から外れて、子孫を望めなくなる。それでも良いなら、我に名乗れ」


「拒否は、ありなのか?」

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