シルフィア世界・7

 止めを刺す! 敵の叫びをかき消すほどの音。間近で立つ。重さを感じさせる。木をすり合わせたような種類の。フェウィンの視界の左端に、茶褐色の物体が入る。右の頬を地面につけたまま、視線を上げていく。手前に弧を描いて、出っ張る板。隙間に見える。ねじれながらも、奥に伸びる尖った物。指し示す先端の先。白い花のような物。本来なら、一つの世界を挟んだ向こう側に浮かぶ、オブジェと間違われる物。かすかに、紫色の光を放つ。目を見開いた。


 やった! もう一つの歯車が、逆回転した! フェウィンは意表を突かれる。自分自身の思考に。運命の歯車に関する知識は、わずかだった。今なら、断言できる。あたかも、豊富に持っていて、切り札として使おうとしていた自分もいることを。


 パリン。フェウィンの身の内で立つ、音。脳裏に浮かぶ、青系の色の円。内側に描かれた、変わった模様。注意は、真ん中に向く。青緑色の刃が刺さっていた。ひびが入り、割れる。


 待ちかねていた。言わんばかりに、人智を超える力の放出が始まる。背骨と肩甲骨の間が熱い。円を描いて、背中に戻る。地面が藤紫色の光で照らされた。


 まずいな。フェウィンは両手をついて、体を起こす。せき止められていた時間の長さ分。本来よりも、量が多い。世界内の自然に、大きな悪影響が及ぶ。自然災害や天候不順、地形の変化はまぬがれない。適応できない種族は、滅ぶ。次代の主として、避けたかった。


 意識的に、呼吸を深くする。段々、脈が落ち着いてきた。あったはずの痛みが引いている。身と術が交換されて、戻りが早かった。立ち上がり、大地を踏みしめる。フェウィンは顔を上げた。


 宙に佇む、敵が二名。ひどく驚いた様子の。妙な印象を受ける。注意深く、観察する。向かって左は水色、右は青緑色の光に包まれている。胸の真ん中、心臓の辺り。藤紫色の光。一撃の効果は続いている。もっとよく観察すべきだったと思う一方で、否定する自分がいた。自分の力の色を見落とすはずがない。確かに、と、どちらの自分も納得する。問い掛けられて、答えに詰まった。正面に居る物たちは、何物で。今まで戦った奴らは、どこに行った?


 改めて、敵に視線を向ける。人智を超える力を、両目に集めた。視力の強化を期待して。額が熱を持つ。間近に現れた、二つの玉。指の先くらいの大きさ。向かって左が水色、右が青緑色の。どちらも、線の模様が入っている。拡大を望む。ひびと判る。藤紫色の。


 あらゆる世界の頂点に立つ世界内には、魂を宿せる実がなるという。肉体の代わりになる。運命の歯車の前身から、こぼれ落ちた物を模したとも言われる。ただし、強度が足りない噂も広まっていた。得々として、説明する自分がいて。へえ~と、感心する自分もいた。傷の深さまで測れないが。配下に任せて大丈夫との意見で、一致した。

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