シルフィア世界・5

 紫色が混ざった赤のつつじ色が場を譲る。暗い青色の濃紺色が範囲を広げた空の下。城を源にする警報の音が響き渡った。戦いが始まると知らせる。前触れを感知した民は、避難を始めていた。キセラが広げる七色の羽は、際立って誰もが気づく。でも、会釈する程度。ありがたかったが、気になることが一点。皆、楽観視しているところだ。いざ、という時。世界から外に出すのが難しそうだ。


 突如として、風に煽られる。玉ころからキセラへの警告と、ほぼ、同時。左の羽が大きく曲がった。体が右へ持っていかれる。続いて、右の羽が大きく曲がった。体が左に持っていかれる。回転させられて、上に弾き飛ばされた。


 端から羽が崩れていく。慌てたキセラは、球体状に形作った障壁の中に収まる。ホッ、と、一息ついた。大丈夫か? 手の中にいる玉ころが訊く。大丈夫と答えた。外では、風が吹き荒れていた。水色と青緑色に染まった。


 キセラは視線を下げる。建ち並ぶ塔の下。土台になる建物。全体を染めていた藤紫色の光。一点に集まっていく。玉ころが嘆く。残っていれば、力の持ち主に会えた。


「不純物が混ざった力が尽きて、純粋な力に戻った方が良いじゃろう?」


 キセラが尋ねる。まったくだ、と、玉ころは同意する。混ざった力は、まずい。人間の味覚と同じ意味と伝わってきた。侵入者に奪われないためもあるが、黙っていた。


 白いもやがかかる。引き返せ、と、働き掛ける力。思考能力の低下。興味本位で、壁に近づくのを防ぐ仕組み。作った一人のキセラは、全力で抗って進む。方向感覚も狂っているが。侵入者が穴を開く際に使った力が、赤系の光として残る。目安になった。


 色が混ざって、歪んだ箇所の前。たとえれば、白いホイップクリームに、イチゴジャムを加えて、ほとんど混ぜずに絞ったような。大きな円で囲うように、切れ目を入れる。外側に吹き飛ばす。


 興味を持って、列から外れた玉ころ。先行した玉ころの力の跡。軌跡を通り、シルフィア世界の壁の前まで辿り着いていた。入り方にまどう。吹き出る液体。開かれた穴。喜んで、降下。覗き込んだ穴の先。先行した玉ころと、情報通りの者。キセラが迎えに来てくれた、と、思い違いする。


 一気に、高揚。陰らせる気配。玉ころは気づく。自分と同じ大きさの玉状の物が、隣にいることに。形は、いびつ。相手も気づく。先に、穴に向かう。トンネル内で、競い合って進む。真球体の玉ころは、鼻先に。いびつな玉ころは、頬にくっついた。いびつな玉ころは、負けを認める。世界内に進んでいった。


 見送ったキセラは思う。シルフィア世界の民は、幸運だ。運命の歯車の前身にあたる、花からこぼれ落ちた至高の宝石が訪ねてきて。


 契約を急かす、玉ころを待たせる。キセラは開いた穴と向かい合う。自分が有する七色の力の塊で埋める。たとえれば、ホイップクリームに、七色の色素で混ぜた物で埋めた。応急処置に過ぎないが。フェウィンが次の主の座に就けば、壁を作り直す。それまで、保てば良い。

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