第1話 異物(いぶつ)

シルフィア世界 1


 行方、知れず。


 花からこぼれ落ちた玉。歴史を揺るがす事件だったが。あらゆる世界で、神話に分類されるほどの時を経て。皆から関心が薄れる。


 大地から掘り起こされた鉱物がもてはやされる。人々は磨かれた輝きに魅入られた。


 切り方や色、透明度が判断基準になる。大きければ、大きいほど、価値が高いとされた。


 色が付いただけの玉ころには、太刀打ちできなかった。しかも、砂粒ほどの大きさ。


 世界最大の砂漠に落としたと、たとえられれば。捜す前から、誰もがあきらめた。


 血まなこになって、捜し回るのは。少しばかり、後の話。模した珠が、裏の市場に出されてから。


 兆単位で稼いでいた者が言い放つ。すべての資産を引き換えにしてでも、模した珠が欲しい。


 本物なら、いかほどの価値があるのか。ようとして、見つからなかった。


 玉は狭間を進んでいた。列を成したままで。落ち続けていたと、言い換えても良い。


「おや?」


 先頭を進む、藤紫色の玉ころ。すうっと、真横に引っ張られる。黒い霧の中に影。


 複数ある影の向こう側。世界を隔てる壁が丸く出っ張った所。穴が開かれていた。


 見え隠れする、藤紫色の光。惹き付ける、輝き。玉ころは、列に戻るのをやめた。


 世界内と狭間。気圧の差で、吸い込むように。引く力が働き、玉ころは近づいていく。


 影から発する人智を超える力。玉ころの中心から力を引き出す。触れた瞬間、相殺する。針でつついた大きさで、黒い霧が晴れた。


 人間の姿形を作った、複数の存在。それぞれが異なる色のマントを羽織る。人智を超える力で作った。


 玉ころは親近感がわく。最後尾にいる存在の真後ろに、佇んだ。


「シルフィア世界の主が、代を経るごとに劣化している噂は、本当だったんだ」


「だからこそ、つけ入る隙がある」


「しぃ~!」


 ささやき合う。他の存在に知られたくない思いはあった。揃っての含み笑い。嘲って聞こえた。


 玉ころは思う。正面にいる存在たちとは、共鳴できない。壁の向こうに住まう者に期待する。何せ、自分と同じ色の力の持ち主。共鳴できるはず。


 先頭の存在が、手を挙げて前へ。順に、穴をくぐり抜けていく存在たち。最後尾に居る存在に、玉ころは引っ付いて入る。


 白い星がまたたく。藍色の空に飛び出す。異様にうるさい。侵入した誰もが驚いた。昼が主役の生物が眠りにつく頃を見計らう。主の気配が鎮まるのを待った。


 たとえるなら、眠る猛獣の脇で、物事を起こそうという。


 夜が主役の生物が予想以上に、多い。眠りを妨げるのでは、指摘したいほどに活発だった。


 自分たちの古里を基準にして、計画を立ててきた。異なる世界に来たと、印象付けられる。望むものを手に入れられないと、悲観した。

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