【SS】京都純喫茶でアフターヌーンティーを(ほうじ茶)
1巻・1周目の京都デートでのお話。
◇ ◇ ◇ ◇
京都東側の散策スポット『ねねの道』。
その途中にある高台寺(豊臣秀吉とねねの菩提寺)へと向かう石段。
デート開始から一時間。真夏の京都の暑さにすっかりへばった僕らは、両脇に青々とした木々が生い茂るそこに涼を求めて駆け込んだ。
「やっと涼しい所に入れたわ」
顔を手で扇ぎながら妻が呟く。
汗に濡れた頬。瞳と前髪が木漏れ日の中にきらめいている。
白いシャツがぴとりと妻の肌に吸いつけば、高二とは思えないシルエットが浮き上がる。隠せない大人の色気に僕は思わず目を伏せた。
このエッチさはちょっと困るな。
熱中症も心配だ。
「千帆、疲れたしどこかでお茶しようか?」
ちゃんとした所で涼もうと僕は妻に提案した。
すると「いいの?」と妻が目を輝かせる。その食いつきに僕が引き気味に頷くと、彼女はすぐさま僕の手を引いて木陰を飛び出した。
誘われるまま京都の裏通りへ。
どこまでも石畳と板垣が続く古風な街並み。まるで気分は時代劇か和風ファンタジーに迷い込んだ気分だ。
京都の趣を味わいながらしばらく進み、僕らは小洒落た純喫茶に入った。
「いらっしゃいませ。あら、かわいらしい修学旅行カップルさん」
「あはは」
外装は街並みに合わせて和風。
けれども内装は洋風のカフェ。
窓から見える庭は枯山水のようで、微かに水琴窟の音が聞こえてくる。けっこういい雰囲気のお店だ。客もそこそこ入っている。
気の良いお姉さんに案内されて窓際のテーブル席へ。
席に着くなり、妻は鼻歌交じりにさっそくメニューをめくりはじめた。
「何をたのもっか、あーちゃん?」
「僕はわらび餅のホットほうじ茶セットにしようかな」
「あ、いいね。私も気になる。半分こしようよ」
「いいよ、千帆はどれにするの?」
「このデラックスお抹茶パフェかな」
「好きだね、抹茶系デザート」
「まぁね」
お冷やを持って来た店員さんにそのままオーダー。レモンシロップと塩が入ったお冷やを飲みきるよりも早く、注文の品がテーブルに届いた。
黒蜜ときなこのわらび餅と熱々のほうじ茶。
抹茶ソフトにあんこや白玉、砕かれた焼き八つ橋がグラスに詰まったパフェ。
嬉しそうなため息と共に千帆がパフェに手を伸ばす。漆塗りのスプーンで抹茶ソフトと白玉をすくうと彼女は大きな口でそれを頬張った。
千帆の顔に幸福感があふれる。
「あぁ、火照った身体に甘さと冷たさが沁みるわ」
「それはよかった」
ひょいパクひょいパクと抹茶の山を崩していく千帆さん。
いい笑顔と食いっぷりだ。
とても微笑ましい。
けれども、油断大敵。「もぐぐっ?」と、うなり声をあげて千帆が突然固まった。
心配する僕の前で彼女は背中を丸める。スプーンをパフェの下皿に置くと、妻は空いた手で眉間を押さえて青い顔をした。
「……キーンときちゃったぁ」
どうやら冷たいモノを急いで食べすぎたらしい。
たいしたことなくてよかった。
そして、本当にしょうがないんだから。
震える妻に「落ち着いて食べなよ」とお小言を言うと、彼女は子供みたいにすねてそっぽを向いた。自業自得だけれども――それで放っておけるなら、僕らは夫婦になんかならなかっただろう。
潤んだ瞳をこちらに向ける妻に、僕は熱いほうじ茶を差し出した。
「ほうじ茶、飲む?」
「……いいのあーちゃん?」
まぁ、半分この約束だからね。
ほうじ茶も仲良く夫婦でシェアしましょう。
すぐに千帆は湯飲みを手に取ると、くぴくぴとかわいらしくすする。ほっと白っぽい息を吐けば、その顔色も機嫌もすっかり元通りだ。
僕まで思わず温かい気分になった。
「ありがとうあーちゃん。助かりました」
「どういたしまして」
「ごめんね、まだ口をつけてなかったのに」
「いいよ気にしないで。別に夫婦なんだから気にすることないでしょ?」
「そうだね。えへへ」
「それに、こういうのはもう僕も慣れっこだし」
「ちょっとそれどういう意味?」
妻の追求を適当にはぐらかして、僕はほうじ茶を返してもらう。
少し減ったそれをすすると、クリームの味と焼き八つ橋のニッキの香りがした。
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