第40話 女の子だけが居ない高校でエロい
ママってなんだ。
いや、ほんといきなりママってなんだ。
というかなんだよこの展開。
僕ってば過去で妻や女の子に襲われてばかりだけれど、女難の相でもあるの。
そもそも僕、こんなうらやまけしからん高校生活を送った覚えないんだけれど。
いや、スカしてた高校時代の僕のことだ。こんな目に会いながら「やれやれ。よしてくれよな」とか言ってスルーしたのかもしれない。けど、これはないよこれは。
こんな肉感的な女の子に迫られて、あまつさえ赤ちゃんプレイだなんて。
ラブコメじゃなくてエロ漫画的な展開だよ。
というか、こんなん高校二年生が耐えられるわけがないよ。
ラブコメだったらやれやれだけれど、エロ漫画だったら即ダイブだよ。
こんな人生で一度あるかないか、宝くじに当たるより珍しいエロい展開を前にして男子高校生が冷静な判断できる訳がないよ。そして、そんな男子高校生の心理を読み切って、エロ攻撃を仕掛けてくる志野さんってば何者だよ。
「……ねっ、ほら、こんな悪いこと、もうやめましょう」
「悪い、ことを、してるのは! 志野さんだろう!」
「ママに逆らうの? ダメな子ね? そんな子には……」
僕のカッターシャツのボタン。
まるで身体の敏感な部分で弄ぶみたいに志野さんの手つきが急に荒々しくなる。一つ一つ、弾くように僕のカッターシャツをつなぎ止めるそれを外すと、今度はその襟元にそのむちむちとした指先をゆっくりとかけた。
年頃の女の子の手にしてはその指先は太い。
だが、これがまた絶妙にエロい。
太めの女性の指というのは、性的なアピールにはならないように思えたが、彼女のそれは太い上に形が良い。黄金比のような名状しがたい美しさがあった。それがほのかな熱と共に僕の身体に触れれば、もうそれだけでどうにかなりそうだった。
だめだ、だめだこれ。
ただ、服を脱がされるだけで、いけない気分になる。
なんていう圧倒的な――ママ力なんだ! こんなのに迫られて、無事な男の子なんていない! こんなの、こんなの――!
赤ちゃんになっちゃう!
「バァーブゥー!」
「きゃぁっ!」
僕は渾身の力で身を捩り、志野さんの指先から襟元を引き剥がした。
そして、赤ちゃんのように寝返りを打って床を転がると、なんとか彼女の魅惑の指先とママエロスから逃げ来ったのだった。
危ない所だった、もう少しあぁしていたら、僕は彼女に甘えていただろう。
身も心も赤ちゃんになって、志野さんの子供になっていたことだろう。
千帆の前でよくなる赤ちゃんあーちゃんになっていたことだろう。
わかるさ、いつもやっているんだもの。(マヂ顔)
普段から赤ちゃんになっていたから助かった。
赤ちゃんの経験が僕を窮地から救ってくれた。
赤ちゃんになってる最中に、会社から電話がかかってきて、我に返るために身につけた技が、まさかここで役に立つとは。数奇な話もあったものだ。
千帆に普段からバブってオギャってなければ即死だった。
ありがとう千帆。
いつも酔った勢いで甘えさせてくれて。
実は三割くらい正気なんだ。ほんとごめんね。言えないけど。
おかげで僕は、この窮地に命を拾うことができたよ。
くっそ恥ずかしいけれど。
羞恥に耐えながらなんとか四つん這いの状態から僕は身を起こす。
志野さんを睨むと、彼女は相変わらずノーガード戦法でその身体をさらして、こちらに微笑んできた。ほらおいでとばかりに腕を開き、こちらに胸を曝け出してくる。
オープンスケベ戦法。
その豊満な体型と相まって視界的破壊力は抜群だ。
あと、密室なので女性の良い匂いが充満してくる。
つまりフェロモン忍術。
おそろしい。
まさか体術も忍術もここまで使いこなすなんて。
なんて男をダメにすることに特化したママなんだ。
微塵もつけいる隙がない。
なんとか脱出したが、次に捕まれば命はないぞ。
僕はぐっと腹に力を込めてエッチな気分になりそうなのを堪えて立ち上がった。少し前屈みになってはいたが立ち上がった。
「……どうしたの? ママのこと嫌いなの?」
「黙れ! 君はママなんかじゃない! というか、ママってなんだよ! 騙されないぞ! そうやって男をダメにして、君はいったいどうするつもりなんだ!」
「どうって。一緒に気持ちよくなって、こんなこと忘れてしまいましょう。いいじゃない、未来のことなんて忘れてしまっても」
「ふざけるな! 君にはどうでもよくても、僕には大切な未来なんだ!」
彼女に迂闊な点があるとすれば、ここが学校だということを忘れていること。
そして、僕をその身体で仕留めることができると慢心していることだ。
残念だったね。
僕はこれでも、豊満な女性の身体には耐性がある。
これもまた赤ちゃんプレイと同じで、妻のおかげさ。
その制服を脱ぎ捨てたことを後悔するといい――。
「とにかく、僕は未来をあきらめるつもりはない! 僕は妻と――千帆と一緒にこの過去から未来に帰ってみせるんだ!」
「……え?」
「その格好じゃ、廊下に逃げたら追ってこれないよな! また会おう志野さん! 次に会うときが、僕と君の決着の時だ!」
そう言って、僕は図書準備室の扉の端、上下にスライドさせてかけるタイプの鍵に手をかけた。そして、力をこめて思いっきり上にそれを動かそうとして――。
「固ぁっ! イタッ、いったぁーっ!」
盛大に手を滑らせて、その金属製の部分で指先をえぐったのだった。
なんだこれ、めちゃくちゃ固いぞ。
割と力を込めたのにびくともしない。
志野さんがかけるときは普通にかけていたはずなのに、どうなってるんだ。
ていうか、指、血が出てないよね。結構勢いよくえぐったけれど、怪我してないよね。うわっ、これ、真面目に痛い奴だよ――。
「……あの、ここの鍵、立て付けが悪くて。ちょっとコツがいるんですよ」
「えぇっ? そうなのぉ? それを先に教えてちょうだいよ、知らないから思いっきり力入れて動かしちゃったよ。うぅっ、凄く痛い……」
「大丈夫ですか? ちょっと見せてください?」
そう言って、僕の手を志野さんが握りしめていた。
待ってと言うより早く、彼女はその厚ぼったい唇で僕の人差し指にむしゃぶりついてきた。湿っぽい音が立つ。指先に伝わる舌使いが絶妙にエロい。それでなくても、慈しむように僕の指先を口の中で弄る志野さんの表情がもう反則だった。
ダメ、それはダメですよ、志野さん!
なんで君ってばそんな、年頃の男を確殺するようなムーブをするのさ!
体中の血液が下半身に集まっていくのを感じる。
腰を折り曲げる角度がまた少し鋭くなる。そんな僕の前で、志野さんはぬるりと僕の指を口の中から引き出し、満足そうな笑顔を向けてきた。
てらりてらりと彼女の唾液で濡れそぼった指から、彼女のピンク色の唇に向かって唾液が糸を引いている。
もうなんていうか最終回三振試合終了並みにアウトだった。
「大丈夫です。血は出ていませんよ。つばを付けておけば治ります」
「し、志野さん。君ってば、そんな、どうして、エロッ、エロエロ」
「それより、鈴原くんは天道寺さんを狙っているのではないのですか?」
「……え?」
なに、どういうこと。
ていうか、僕、捕まってるよね。志野さんに捕まってしまっているよね。
これもうゲームオーバーな奴じゃん。今度こそ本当に赤ちゃんにされて、未来修復失敗で、バッドエンドになる奴じゃん。
けどなんか志野さんにはエロさがなくて。
いきなり真面目な感じな表情になっていて。
いや、相変わらず上は裸で、僕の指は濡れそぼっているのだけれど。
それでもどこかちょっと今までと違う感じがして――。
「もしそうなら、貴方は私の敵ではありません」
「……敵って?」
「あの謎の空間――南茨木駅のような場所に呼び出されたとき。貴方たちの姿を見かけて、私は確信しました。きっとこの不可思議で不愉快な現象を引き起こしているのは、鈴原さんたちなんだって。けれども、それは私の――」
そこまで言い出した時だった、こちらを見つめる志野さんの真剣な表情が、急に歪んだかと思うと彼女は顔を僕から背けた。
どうしたの、と、口から出るより早く、彼女は頭に手を当てる。
そして、獣のようなうめき声を上げてその場にうずくまった。
どうしたというのだ。
いったい何が起こっているんだ。
分からないが、なにやら抜き差しならない状況には間違いない。
浮気がどうとか言っている場合じゃない。それに、どうやら志野さんは、僕たちの敵ではない感じだ。きっと何か、勘違いが僕たちの間にはあるのだろう――。
「志野さん! しっかりして志野さん! 大丈夫かい!」
僕は志野さんの肩に手をかけると、その豊満な身体を揺すった。
彼女の名前を呼び、そして、その意識を確かめる。
しかし、彼女のうめき声は激しくなるばかりだ。
どころか、その瞳の焦点も怪しくなっていき――。
「あぁっ! うぁあああっ! ぐぁああっ!」
「志野さん!」
彼女はついに白目を剥いてその場にのけぞると、仰向けになって図書準備室の床に倒れてしまった。分からない。未来では病気を患っているようには見えなかったが、過去の彼女は何か意識が混濁する病を抱えているのだろうか。
いや、きっとそんなことはない。
前のループで僕は彼女と半日ほど教室で一緒だったが、そんな素振りはなかった。
ならば、これは少しダイナミックな寝オチだろうか。
いやそれも絶対に違う。
ありうるとすれば――。
「また、黒幕からなにかしらの介入を受けているのか!」
志野さんが敵じゃない、あるいは、黒幕側に無理矢理協力させられているなら、僕との接触を危険と判断され、黒幕に強制的にコントロールされている。
あるいは何か罰を受けている。
そんな感じがする。
こんなことを、まさかいたいけな女子高校生にするだなんて。
天道寺さんをそっくり真似たあの存在といい、いったい黒幕は何者なんだ。
超常的な能力を持っているのは間違いないとして、僕たちをこんな目に合わせて、いったい何をするつもりなんだ。どうしてこんな事をするんだ。
誰かは知らないが、黒幕は杉田と結婚したいだけではないのか。
もはや、杉田と天道寺さんがくっつくなどという、そういうお気楽な話ではない。それこそ世界の危機のような、そういう背景でもあるのか。まさか、ターミネーターのように、天道寺さんと杉田の子供が将来世界を救うような救世主で、生まれないように結婚を阻止しに来ているとでも言うのか。
抜き差しならない異様な緊迫。
はたして、どうなってしまうのか。
なにが起ころうとしているのか。
僕が息をのむその前で。
「……え? 消えた?」
またしても、僕の前で人が突然消えた。
祇園祭、室町通り山王町、あの夕方――千帆が消えた時とまったく同じだった。
目の前の志野さんは、まるでこの世に最初から居なかったように、僕の前からその痕跡を少しもこの世界に残さず消失した。
どうして、志野さんが消えたのか。
やはり黒幕が僕たちに介入してきたということか。
いや、しかし、タイムリープと千帆の消失はどうも別の法則性に従っているようだと、つい先ほどのループで分かったばかりではないか。もし、タイムリープに関係する現象であれば、前回と同じくループの前に起こるだろう。
いや、この現象が起こった回数自体が少なすぎる。どういう条件で発生するのか判断するのは難しい。ループとの関係性の有無も、たった二回の現象から導き出しているだけに過ぎない。またそうであって欲しいとう希望的推論を含む。
そもそもなんで志野さんが消失するんだ。
やはり彼女が、僕たちと同じ未来人ということなのか。
ダメだ。どれだけ考えても、結論は出ない。
僕の頭ではこれ以上、ループとこの人間消失について整理することは難しい。
やはり――アイツの知恵を借りるしかない。
「……杉田! どこに居るんだ!」
僕は急いで図書準備室の扉を開くと外に出た。
目指すのは、友人の居る場所。
時刻的は五・六限目。前回のループと状況が変わっていなければ、僕たちはグラウンドでサッカーをしている頃だ。
杉田もまた、真面目に授業を受けていれば、そこに居るはず。
僕は授業中にもかかわらず廊下を駆け出した。
スニーカーの底が床のタイルを蹴って大きな音を立てる。
授業中の静寂にそれはとてもよく響いた。これは、すぐにも先生に見つかって、何をしているんだと注意されかねない。けれども迷っている場合でもない。
人がまた消失したのだ。
それでなくても、条件を満たしたはずなのに、また世界がループしたのだ。
タイムリープの開始時間は遅れ、志野さんというもう一人の未来人まで現れた。彼女は敵ではないかもしれないが、それでも、大きく事態は動いている。
すぐに図書準備室の横にある階段を降りる。二階、一階と駆け下りて、そのまま、普通教室の前の廊下を一気に駆けてグラウンドに出た。
グラウンドの真ん中――たむろしている男子学生たちの姿が見える。
この暑い中でサッカーだ。皆、そんなにやる気がないのだろう。授業が始まって十分以上経っているというのにひどくだらけている。
いや、というより――。
「あれ? なんだ? みんな何か様子が?」
「おい、どこ行ってたんだよ、鈴原! 大変だぞ!」
まだグラウンドには入っていない。校庭横にある木陰で僕は声をかけられた。
その声を、僕が聞き間違えるはずがない。
木陰の下に前のめりになっていたのは杉田。
その手には――なぜか双眼鏡が握られていた。
二つのレンズが向かう方角は間違いない。
「プールから女子が一斉に消えやがった! なんだこれ、怪現象か!」
「なに授業サボってプールを覗いてるんだよ!」
君、ほんと、こんな時でもスケベね。
というかなにやってんのさ。
それはほんと、許されない奴じゃないの。
割と抜き差しならない展開なのに、君のエロボケで一気に温度が下がったよ。
はぁーもう、なんでこー、シリアス展開だと思ったのに、すぐボケて返すかね。
どうなってんのよ、もう。
とほほー。
☆★☆ 執筆の励みになりますので面白かったら評価・フォロー・応援していただけるとうれしいですm(__)m ☆★☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます