第13話 僕の妻のバレー部ユニフォーム姿は素直にエロい

 千帆が高校時代に所属していた女子バレー部。

 そのレギュラー用のユニフォームは、僕の大好物であった。

 服なのに大好物であった。


 別に深い意味はない。

 頭が悪いだけ。


 なぜか。


 それは、高校時代にそのコスチュームをお目にかかる機会がなかったから!

 千帆とくだらないことで絶交した僕は見られなかったから!

 千帆が女子バレー部に入部しているという情報だけを頼りに、そのコスチューム姿を何度も妄想していたから!

 それはもう脳裏に焼き付くくらいに妄想したから!


 三角関数の加法定理や二次方程式の解以上に何度も何度も思い描いたから!


 そんな姿を僕が拝めたのは、まさしく奇跡だった。


 大学四年生。同棲二年目。

 さらなる刺激を求めて、いろいろな格好やシチュエーションを僕たちは試していた。そんな中、ある時僕が「もしかして高校時代の女子バレー部のユニフォーム持ってないかな?」ってダメ元で聞いてみたのだ。

 その時、即時に千帆は「えーっ! それはぁー、流石に変態だよぉー!」って言ったんだ。それで、「じゃあ、ダメか」って、冗談にして一度は諦めたんだ。

 いや、そうよね、これは変態よねと諦めたんだ。


 そんなやりとりの一週間後。

 千帆がちょっと用事と言って実家の方に帰ったんだ。


 そうしたら――。


「もーっ、しょうがないなぁー、あーちゃんってばぁー。ホントにぃー、どうしようもないほどぉー、エッチなんだからぁー。今回だけなんだからねぇー?」


 って、帰って来るなり着替えて、はにかみ赤面顔で風呂場から出てきたんですよ。

 千帆が高校時代の女子バレー部のユニフォームに着替えてくれたんですよ。


 わざわざ実家に帰って持ってきてくれたんですよ。


 高校時代の女子バレー部のユニフォームを!


 そんなんされて好きにならない訳ないでしょ!


 もうその時は思わず両の目から涙が出ちゃってましたよ。

 気がついたら、滝のように涙を両目から流していましたよ。

 人目もはばからず――そもそも愛の巣ことただれたアパート四畳半――号泣してしまいましたよ! 人生に三回しかない、男が泣いていい時を使いましたよ。


 嫁が高校時代のユニフォーム着てくれた時に使ってしまいましたよ!


 そして今、二回目の男泣いていい時を使ってしまいましたよ。


 気がつくと僕の頬を熱い涙が伝っていた。


 親が死んだときどうするんだよって後悔する間もない。


 仕方ないでしょ。

 だって大好物なんだから。

 それでなくても、高校時代のバレー部のユニフォームを、高校時代の妻が着てくれているんだから。奇跡のようなことが、今、目の前で起こっているんだから。


 うん。


 僕はこのために、タイムリープしてきたと言っても過言じゃないよ!


 過言じゃないよ!(迫真)


「えぇーっ! ちょっとあーちゃーん! なんで泣いてるのぉ-!」


「ありがたくって、せつなくって、エロくって。もう、死んじゃいそう」


「死んじゃだめだよぉー! あとぉー、ちょっと引いちゃうー!」


 なんでさ。君がその格好してきたんじゃないか。

 君から仕掛けておいて、なんで引いちゃうのさ。意味がわからないよ。


 僕を喜ばせたいのか、悲しませたいのか、どっちなの?


 いや、イチャイチャしたいだけなんだろうなぁ……。


 けど、ありがたさは何も変わらない。


 ありがてえ、ありがてえよ、千帆。


 やっぱり君は僕のエンジェル。

 高校生でも、アラサー奥様でも、変わることないオンリーワン。

 きっと四十歳になっても、五十歳になっても変わることなき永遠のビーナス。


 そしてエロス。

 ほとばしるエロス。

 震えるほどのエロス。


 もう、どうにかなってしまいそう。このまま、千帆の誘惑に負けて、彼女と昼休みいっぱい、にゃんにゃんしてもいいかなって、そんなことを思ってしまう。

 にゃんにゃんしちゃおうかなって、ちょっとクラって来ていた。


 だが、耐えた。

 ギリギリの所で、僕の理性がこの場はなんとか勝った。

 いや、理性というか常識だった。羞恥心とも言った。


「やっぱダメだよ! ここどこだと思ってるのさ! 学校だよ学校! 体育館の倉庫だよ! 人が来ちゃうじゃないのさ! 見られたらどうすんの!」


「あー、それにぃー、きづいてぇー、しまいますかぁー」


「気がつくよ! こんなん普通にダメでしょ! アウトでしょ!」


 生徒に見つかっても、教師に見つかっても、その時点で人生ゲームオーバー。

 責任とって退学的な展開に絶対になるからダメ。というか、学校でそういうことしちゃいけないっての。


 学校は勉強をしに来るところ。

 イチャイチャする場所じゃありませんから。


 強い意志と理性で、千帆の誘惑をはねのける。


 見た目はJK、中はどスケベ人妻な、僕の妻にいいようにはさせない。

 というか、お互いの未来のためにここは快楽に身を委ねちゃいけない――とか、僕が苦悩しているのに、千帆はなんだか怪しげにふっふっふとか笑いだした。


 企み顔。これはなんかあるわって表情。

 見たことある。具体的には、つい最近、ビールと称してスペシャルドリンク飲まされそうになった時に見た。


 うわぁー、やばそー。


「けどぉー、だいじょうぶぅー、なんだなぁー! じゃーん、これをみよぉー!」


 千帆はそう言って彼女のユニフォームのポケット――じゃなくて、襟元からえぐいくらいによく見える、でかくて深い谷間に手を突っ込んだ。


 そんなところに物を入れるなよ、漫画じゃないんだから。

 絶対に千帆ってば狙ってやってるよね。もうっ。


 激しくユニフォームとたわわを揺らす。

 さっき思いがけず触れた時、明らかに下着を外している感じだった。だからだろうか、ちょっと鍵を取るだけなのに、おっぱいがもう揺れる揺れる。


 ブルンブルンであった。

 もう、ブルンブルンであった。

 そのダイナミックさを表現するのには、僕の語彙力が足りない。

 悔しいくらいに、ブルンブルンであった。


 それでバレー出来るのかな。何もしなくても分身魔球打てそう。


 しばらくそうして胸の谷間をまさぐっていた千帆。やがて彼女は、その胸に突っ込んだ手に――銀色の鍵を握って、高々とそれを天にかかげた。


「じゃじゃーん! 倉庫のぉー、スペアキィー!」


「わー、すごーい! どうしてそんなの持ってるのー?」


「この学校でねぇー、体育館の鍵をー、持ってるのはー、女子バレー部のぉー、部長さんだけなんだよぉー。頼んでぇー、貸してぇー、もらったのぉー」


「へー、なるほどー。それじゃぁ、その鍵を持ってたら」


「そうだよぉー! 職員室にぃー、鍵をもらいにいかない限りぃー! 誰もぉー、ここにはぁー、入れませーん!」


 やったね、密室完成!

 これで中で何が起こっても誰も止められないし分からない!

 完全犯罪の成立だ!


 って、うぉい!


「なんでそんな手際がいいのさ! おかしくない! ねぇ、おかしくない!」


「あー、それにぃー、きづいてぇー、しまいますかぁー」


「気づくってなに! ちょっと、どういう意味!」


「それはねぇー、まぁー、簡単に言うとぉー」


「いやちょっと待って! やっぱり心の準備が!」


「この体育館の倉庫はぁー、女子バレー部のぉー、ヤ」


「あーっ! わーっ! きゃぁーっ! 聞きたくない! 聞きたくない! 我が校の一部の生徒に連綿と受け継がれる、闇の文化なんて聞きたくなーい!」


 そんな話、僕は知りたくなかった。

 まさか女子バレー部員たちが、そんな生いことをしているなんて。


 割とこう、クリーンな部活のイメージがあったんだけれど、その話を聞いてちょっとおやってなった。千帆がそんな部活に所属していたのも不安になった。


 うぅん、割と本気で頭が痛い。


「部長が代々管理してるからぁー、基本的に申請制なのぉー。私は当時ぃー、意味が分からなかったからぁー、チームメイトの子がぁー、部長に借りに行くのぉー、いつも不思議に思ってぇー、見ていたんだぁー」


「妻の情操教育に悪いそのチームメイトって誰さん? 今も交流あるなら、夫権限でお付き合いを考え直したいんだけれども?」


「意味が分からなかったといえばぁー。トスの練習時にぃー、もっと彼氏にぃー、またがる時みたいにぃー、優しくってぇー、言われてたんだけれどぉー」


「その練習ひどくない?」


「ミスを連発するとぉー、彼氏の名前をー、チームメイトが呼ぶんだぁー」


「最悪じゃないか!」


「それでぇー、アタシはぁー、彼氏いなかったからぁー、あーちゃんの名前をー、勝手にぃー、使ってたんだぁー」


「そして勝手にお相手にされてたっ!」


「ごめんねぇー。当時は意味がぁー、分からなかったのぉー。てへぺろぉー」


 複雑ぅ。

 うれしいやら、恥ずかしいやら、感情が整理できなくて複雑ぅ。


 それに選んでくれたことで、千帆が僕のことを意識してくれていたのは分かるし、高校時代に彼氏がいなかったのは確信できるけど、それにしたって複雑。


 というか、千帆の居た女子バレー部ってばいったいどんな練習してるんだよ。


 こんなの完全にセクハラじゃん。

 女性はこういう下ネタ、割と同性相手だとズバズバ言うらしいけど、それにしたって酷いよ。そりゃ男性がドン引きするってもんですよ。


 ていうか、練習でやってたってことは、教師も公認してるってことだよね。


 なにやってんだよ、バレー部顧問。

 社会科担当の女教師。当時二十七歳。

 クールビューティーで、割とクラスの男子に人気があった先生。


 こんなん男子が知ったら、人死にが出るぞ。


 男の子の思い出を、雑に壊さないで。


「さー、というわけでぇー、まだまだ時間はあるからぁー、いっぱいイチャイチャしよねぇー、あーちゃーん。昼休みはぁー、これからだよぉー」


「せぬ! そんなことはせぬ! それよりやることがあるでしょう!」


「えー、ちょっとぉー、イチャイチャだけのつもりだったのにぃー、そっちもしたいのぉー? それはちょっとぉー、変態さんだよぉー?」


「イチャイチャの範囲について双方の合意が取れてない状況でそういうこと言うの卑怯だと思うの! あと、普通に状況整理! タイムリープの状況整理だから!」


「んふー! 大丈夫ぅー、まだぁー、その日じゃないよぉー!」


「だからそうじゃないって言ってるだろ、もぉっ!」


 ダメだぁ、僕の妻ってば舞い上がってる。

 予期せず高校生の頃に戻って舞い上がってる。


 完全にこの第二の青春を楽しむ気満々だ!

 大人になってから獲得した、悪い知識と遊び方で楽しむ気満々だ!

 なんでこんなのタイムリープさせたんだよ! もっと無垢な人材いなかったの!

 どスケベにしといた僕が言うのもなんだけれどもさぁ!


 ちゃんと仕事しようよ、人は選ぼうよ、神様!


「あー、そうそうー。バレー部の先輩達がねぇー、共同で使ってる道具がぁー」


「やめなさいよバッちぃから!」


「えー? ゴムとかー、生理用品だよぉー? なに勘違いしてるのぉー?」


「ち! く! しょ! う!」


 女子バレー部ぅうう!

 僕もアレだけど、女子バレー部ぅうう!


 人の妻に、こっそりと業の深い知識を植え付けるな、女子バレー部ぅうう!


 女子バレー部って真面目そうでちょっといいなと思っていたのに!

 当時の僕がこの秘密を知ったら間違いなく恥ずか死するよ!

 青春の憧れを返して! 今からでいいから返して!


 もうっ!


☆★☆ 執筆の励みになりますので面白かったら評価・フォロー・応援していただけるとうれしいですm(__)m ☆★☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る