第10話 完全ノックアウト言葉責めマシンガンで後輩がエロい
うん、言ってない。
まったく未来の僕の記憶にない。
相沢のことを郁奈なんて言ってないし呼んでない。
相沢のことをそんな彼氏みたいに呼び捨てにしてないよね。
ねぇ、高校生の頃の僕。
だって、こんな登校中にこれみよがしにいちゃついて、おまけに下の名前で呼んでたら、それほぼ百パーセント付き合ってる奴じゃん。
自分たちがどう思ってるかとか関係なく、周りからカップル認定される奴じゃん。
そうでなくても、高校生時代を思い返して、僕たちはあの頃、告白はしてないないけれどカップルだったな――って、懐かしんじゃう奴じゃん。
告白できない男子と女子の甘酸っぱい青春の奴じゃん!
むしろ、ラブコメの王道展開的な奴じゃん!
付き合ってる彼氏彼女より、よっぽど需要ある奴じゃん!
そういう関係じゃなかったでしょ、僕ら!
ていうか、それをタイムリープでやったら浮気になっちゃうじゃない!
当時の状況的にそうするしかないにしても、浮気になっちゃうじゃない!
僕一人でタイムリープしてきたなら、まぁこれも物語のエッセンスかなって感じになるかもだけれど、大きな視点で見たら浮気になっちゃうじゃない!
そして、妻が一緒にタイムリープしているんだから、間違いなく浮気じゃない!
今こうして、二人で登校しているのも、限りなくグレーに近い黒だよ!
いや、真っ黒だよ!
しっかり浮気だよ!
他の女に色目使って案件だよ!
千帆が知ったら、激おこでなにされるかわかんない奴だよ!
捨てられることはないと思うけど、代わりに愛の確認行為と称して、いやらしいこといっぱいされる奴だよ!
そして、今、千帆は高校生だから、いやらしいこといっぱいしたら犯罪だよ!
手詰まりになっちゃう奴だよ!
手詰まり!
もう、手詰まり!
詰んじゃったよ!
ちくしょーっ!
そんな僕の動揺と裏腹、なぜか相沢は妙に冷静。
むしろ、さっきまでのからかいは本当にどこに消えたのかというくらい、真面目な顔をしていた。ほんと、相沢じゃないみたいに真面目な感じだった。
「センパイ? ほんと、今日のセンパイなんか変ですよ? どうかしました?」
「どうかしたって! どうかするでしょ、朝からこんな風に迫られたら! どうかしない方が変だと僕は思うよ!」
「それ! まずそれですよ!」
なにがそれなの?
僕、別におかしなこと言ってないよね?
いたって健全な男子の反応してたよね?
まさか高校時代の僕って、これくらいのこと涼しい顔で流すようなスケコマシだったりするの? まったく身に覚えがないけれど、そんなキャラだったの?
やだ、ついさっきまで、相沢との関係を忘れてただけに、不安になるんだけど。
「いや、センパイって、一人称『俺』でしたよね?」
「……あ、あぁー。あー、そうだったかもー」
「そうだったかも?」
「……そうだったね」
そんな心配をよそに指摘された内容は意外と細かいことだった。
そして確かに違和感を感じるポイントとしては納得できるものだった。
あぁ、そう、そうね。
一人称ね。
高校の頃は確かに僕、自分のことを『俺』って言ってたなぁ。
確か大学卒業後数年――前の会社を辞めるくらいまで『俺』だった。
今の会社に転職するのを機に、周りに与えるイメージって大事だよなって思い直して、それで『僕』って使うようにしたんだった。あと、言葉もちょっと丁寧な口ぶりになるように、千帆に付き合って貰って直したんだ。
これもまた肉体改造と同じで苦労したんだよ。
なかなか、二十年近く貫いてきたしゃべり方を変えるのって、意識しても難しいものがあるからね。けどまぁ、そのおかげで、今の会社では上司ウケも後輩からのウケもよくなったんだけれど。
そんなセコいことで人間としてどうなのって話だけれど。
言っててちょっと悲しくなるけれど。
ただ、人間こういう地味な所で人生躓いたりするんだよな。
で、それを忘れて、僕は今まで話していましたと。
そりゃ確かに違和感あるよ。
「あと、しゃべり方も、いつもは自意識こじらせ少年的な感じですし」
「自意識こじらせ少年」
「おかーさんに対しても、いつも反抗期真っ盛りみたいな態度ですし」
「反抗期真っ盛り」
「ぶっちゃけ私には勘違い根暗王子みたいなしゃべり方する時ありますし」
「勘違い根暗王子」
「漫画の感想も、俺は分かってる系ウザ自己解釈オナニー読者ですし」
「俺は分かってる系ウザ自己解釈オナニー読者」
「……どうしましたセンパイ? 青い顔して俯いて? お腹痛いんですか?」
お腹っていうより、高校時代の僕が痛いかな。
なにそれなにそれ、僕ってばそんなんだったの。
周りからそんな風に思われてたの。
全然気がつかなかったよ。
気がつかなかったから、改めることができなかったよ。
そりゃ社会人になって苦労するよ。
そんなクソみたいな人格を抱えたまま、社会に適応していったら、どこかで一回挫折するのは火を見るより明らかだよ。
高校時代から、僕のクソ野郎人生ってはじまっていたんだなぁ。
うぅん、軽い気持ちで死にたい。
タイムリープしてねじ曲げられてしまった運命と闘う前に、自分の過去の暗黒面と闘うなんて斬新な展開あります?
想像しなかったわこんなもん。
そして、想像以上に強敵だわこいつ。
かてるきがしない。(絶望)
過去の自分がクソ野郎すぎてほんとつらいですわ。
「まぁ、それでなくっても、こんな可愛い後輩に懐かれて、熱烈ラブコール受けているっていうのに、涼しい顔して今の関係から踏み出そうとしない、童貞の極みなクソ雑魚メンタルなめくじだから、数え役満でクソ男ですね!」
「いっそ殺してくれー!」
「いや、冗談ですよ、流石に最後のは」
そう相沢は言うけれど、ちっとも僕は大丈夫じゃなかった。
冗談と受け止めることができなかった。
相沢は冗談にしてくれているようだけれど、客観的に言えば事実まったくその通りでございます。こんなに後輩に迫られていたのに、くっつかないどころか他の女と結婚して、あまつさえ今も友人関係とか、クソ以外のなにものでもないでしょ。
肉体関係が伴っていたら、もはや慰謝料取れるレベルで有罪だよ。
それでなくっても有罪だよ。青春を返してってレベルの有罪だよ。
お願いだから慰謝料払わせてって気持ちになっちゃう。
ていうか今まさになってる。
長い月日の中で、相沢との最初の出会いとか完全に忘れちゃったけれども、思い出したらもう擁護できないよ。
この熱烈ラブコールをなかったことにするのはあり得ないでしょ。
脳に障害があるレベルの物忘れだよ。
細かい所は忘れたにしても、せめてもう少し、昔はいろいろあったねって匂わすような関係になるか、あるいはすっぱり関わり断つのが人情ってものでしょ。
なのになに笑顔で常連客になってんだ、僕のバカ!
そりゃそんなことしてたら相沢も、懲りずにことあるごとになんか匂わせモーションかけてくるわけだよ! あきらめもつかなくなっちゃう訳だよ!
未来のこいつ、まったくもって未練たらたらだよ!
少しも僕のこと諦めきれてないよ!
人のモノになっても、まだ可能性を模索してるよ!
ちょっと怖いよ!
けど全部、僕が鈍感だったせいだよ!
僕が悪いに結論は落ち着くよ!
そして、なんか彼女は冗談にしたけれど、この先十年の付き合いを知ってると、冗談とは受け止められなくなっちゃうよ!
これから先の未来の光景が、重しとなってずしりと僕にのしかかってくるよ!
ごめんよ相沢!
ごめんよ千帆!
全部この無自覚浮気クソ野郎がはっきりしなかったのが悪うござる!
「まっ、けど、センパイの良いところはちゃんとあたしは知ってますから。そういうクソな所とプラマイで、センパイのことが……」
「ごめん、ごめんね、ごめん、相沢、ほんとごめんね」
「え、ちょっと、なんでお金を差し出してくるんですか?」
「これ、今の僕が出せる全財産。これから先、毎月五千円ずつ納めるから、それで許して。バイトして、なんとしてでも納めるから。だからお願い」
「いやいや! なんのお金ですか! 受け取れないですよ!」
「いいから受け取って! お願いだから! そして許して! こんなバカな僕を許して! 君を無自覚に傷つけ続けた、愚かな僕を罰してくれ!」
「自意識過剰過ぎませんかセンパイ!?」
僕は叫んだ。
お札を持って叫んだ。
まだこの頃流通していた、夏目漱石のお札を持って叫んだ。
千円って。
バイトしてないにしても高校生の僕ってば財布の中身貧相すぎません?
「ちょっと怖い! 怖いですって、センパイ!」
「おねがい! 相沢! これで許して! これで勘弁して!」
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