第8話 朝からおしかけ美少女JK女房でエロい
7:30。実家のダイニングルーム。
まだ一緒にいちゃつくとあらぶる千帆に対して、「とりあえずこれから学校だし、話の続きは学校でしよう」と説得した僕は、ようやく彼女と別れた。
去り際、名残惜しそうにこちらを見る千帆。すぐ会えるからと諭したが、それでもいつになく物憂げなのが少しひっかかった。
いきなり過去にタイムリープして心細い気持ちは分かる。
けれど、もうちょっと周りに気を配ろう。僕らまだここじゃ高校生だ。ただの幼馴染だ。いきなり夫婦みたいにいちゃついたら不自然でしょ。
とはいえ元気がない妻の姿に、罪悪感を覚えるのはしかたなかった。
できるだけはやく会いに行こう。そうしよう。
制服に着替えて部屋を出る。
あきれて先に下に降りた母さんを追って、僕は一階のダイニングルームに降りた。
長い生活の中で固定化された僕の席に座ると、長岡京にある会社に出勤する父さんと、スーパーのパートに行く母さんに挟まれながら僕は味噌汁をすすった。
そう――。
とてもいたたまれない気分で味噌汁をすすった。
さっきの乱痴気からまだ十分ちょっと。
そりゃ気まずいですよ。
父さんも、母さんも、千帆を部屋に連れ込んだ僕に何も言わない。
あれだけ派手にはしゃいだら僕たちのやりとりはここまで筒抜けだろう。僕がおそるおそる父さんに視線を向ける。すると、彼は無言で新聞の中に隠れた。
隠れ際、ま恥ずかしいものでも見るような父の目が見えた。
父さん。息子をそんな目で見ないでよ。
ほんと、誤解なんだって。
信じて。
「はーまったく。どっかの誰かと同じで、息子もおっぱい星人とかやってられんわ」
「……父さん?」
「……ごちそうさま。今日は会議があったんだ。ちょっと早いが会社に行くよ」
「おーう、いってらっしゃいエロ遺伝子の片割れ」
なんですって。
食卓から立ち上がりざま、すぐに部屋を出ようとした父さんに、母さんがぼそりと声をかけた。普段はぶっきらぼうだけど優しい感じなのに、ちょっと不機嫌な感じで母さんが呟いた。あきらかに僕のせいでなんか揉めてる感じだった。
そして、その言葉に動揺して父さんが思わず脚をもつれさせたあたりから、母さんの言葉は真実らしかった。
え、なに、どういうこと?
父さんもおっぱい星人ってこと?
いや、両親の性的嗜好とか、夜の事情とか別に知らないし知りたくないけれど。
そういうことなの父さん?
僕がおっぱいにときめくのは、もしかして父さん譲りなの?
だとしたら、嫌な親子の絆だなぁ。
もっとこう似るなら違うものがよかった。
というか、おっぱい星人って。別に母さんのおっぱいは、千帆と比べれば普通だと思うけれどな。そんな言うほどでかいかって感じだけれどもな……。
「なに見てんだい?」
「……いえ、なんでも」
「幼馴染じゃ飽き足らず自分の母親までそういう目で見るとは、掛け合わせる遺伝子を間違えたかねぇ」
「うまれたことがつみみたいにいわないで」
だから誤解なんですって。別にそういう目で見ていませんって。
どういうつもりでおっぱい星人が母さんと結婚したのかなと考えただけです。
別にそんなやましい気持ちはございません。
じろりとこちらをねめつける母さんの前で僕は急いでごはんと味噌汁をお腹に詰め込む。僕も父に習ってダイニングルームをさっさと後にすることにした。
いたたまれないよこんな家族の朝食。
「待ちな、篤」
と、そこで母さんが急に僕を呼び止めた。
逆らっても仕方がない。僕はおとなしくその言葉に従う。
「……え、なに? まだなんかあるの? もうやめてよ、ほんと」
「別にアンタらが乳繰りあってようが、裸でまさぐり合おうが、ガキこさえてようがアタシは一向に構わないんだけれどな」
「そこはかまって。もんだいしして。かんだいすぎるおやもかんがえもの」
朝から親子の会話として生々しすぎません。
まぁ、母さんは元ヤンだけあって、こういうのズバッというところが昔からあるし、今もそんな感じだけれどさ。したってここまで踏み込むことなくない。
けど、冗談にしては、なんか妙に母さんてば真剣だな。
いつもしかめっ面でイライラしている母さんだけれど、今日はそこに混じって不審の色が見てとれる。何をそんなに疑っているのだろう。
「お前、いつのまにちーちゃんとそんな関係になった?」
「え、千帆のこと?」
母さんは千帆のことをちーちゃんって呼ぶ。
幼馴染で子供の頃からの付き合いだから、自然と愛称で呼んじゃうのだ。僕もお義母さん(千帆のお母さん)からあーちゃんって呼ばれてた。その流れで、千帆も僕のことをあーちゃんって呼ぶのだ。
こういう、小さい頃の愛称って意外と尾を引くよね。
つっても流石に大人になった今は、母さんも千帆さんって呼ぶし、俺もお義母さんから篤くんって呼ばれるけど。
だからだろうか。
なんか、あらためて聞くと懐かしいな。
ふむ。まぁ、それはさておき。
いつからか――。
それを正確に答えようとすると、未来について語らなくちゃなる。
それはまずいな。うん。説明しても問題ないけれど、絶対に信じてもらえないな。おっぱい星人に加えて、妄想未来人という二重属性を持つことになる。
それはまずい。
信じられないよな。
大学に入って、身長伸びて自信がついて、サークルの飲み会後のカラオケ帰りに、勢いで告白して付き合い出すとかさ。そしてずるずると同棲やら遠距離恋愛やらして、結婚するとかさ。幼馴染でも想像できないよね。
ダメだ、絶対に信じてもらえない。
だから誤解ってことにしておきたかったんだ。
どうしようこれ。どう説明しようかなぁ。
いい説明が浮かばず黙りこむ僕。
硬直したまま顔から汗ばかりでる。
完全に挙動不審。
さらに怪しまれる奴だ。
長い社会人生活で、こういう時にさっとなんでもない会話を交わせるようになったと思ったのに。状況が悪いのか、それともそもそも実力が不十分なのか、相手が悪いのか、その全部なのかは分からないけれど、とにかく僕は何も言えなかった。
「……まぁ、いいんだけれどさ」
「え、いいの?」
そんな困る僕に、どういうことか母さんが助け船を出す。
それまでの剣幕と裏腹、ほんとに心底どうでもいいという感じで、彼女は焦げ茶色に染めた髪をぼりぼりとかく。
聞いといていったいなんなのだろう。
うちの母さんってこういう所あるよね。
もっとはっきり追求してくれても――とは、この状況じゃ言えないや。
「別にちーちゃんなら問題ないかなって。アタシもよく知ってるし」
「おー、流石はうだつの上がらない息子に紹介した娘だけある。信頼感が半端ない」
「あ? なんだって?」
「なんでもないこっちの話」
千帆と母さんの仲は、嫁姑にしては割と良好。
二人とも、時々一緒に買い物に行ったり料理作ったり、実の親子みたいに交流している。息子に対してこの通り、悪態を吐く母さんだけれど、千帆にそういうことするのは見たことがない。ともすると、実の息子よりよっぽどかわいがっている。
うん。
もっと僕のことも可愛がって。
もしかして酔うと赤ちゃんになるのって、小さい頃に母親に愛されなかったのが原因なんじゃとか思っちゃうよね。
絶対違うけれど。
だからまぁ、千帆と付き合ってても母さんは文句言わないだろう。
流石にちょっと、朝からの乱痴気には苦言を呈するだろうけれど。
けどなんだろう、その割には妙につっかかってくる。
いったい何が気になっているんだ?
「もしかして、僕が千帆と付き合ってるのがおかしいの?」
「……おかしいっていうか。まぁ、年頃だから隠すもんだとは思うが」
それにしたってなぁ、と、母さんは歯切れが悪い。
どうしてはっきり言ってくれないのだろう。なんでそんな含みを持たせたような言い方をするのだろう。いつもはずけずけと言いたいことを言うのに。
まぁいいや、と、母さん。
彼女はまるで、この話題に飽きたとばかりに投げやりな言葉を放つと、目を伏せて手を振った。いったいどうして諦めてくれたのかは分からないが、どうやら追求はこれで終わりのようだった。
「ほれ、学校だろ。はやく支度しろ。家近いって言っても、油断すると遅刻するぞ」
「あ、うん。ごめんね、なんか朝から騒がしくしちゃって」
「そうだなぁ。アタシらもお前に遠慮してこそこそしてんだから、お前も親を見習ってそういうのは隠れてやるべきだな」
「やめておやのなまいはなし」
子供の頃、弟か妹が欲しいって駄々こねた僕だけれど、やめて。
それじゃ、学校行くねと僕はあらためて部屋の扉に手をかける。
「あと、篤。今日のお前、なんかちょっと変だぞ?」
「知ってるよ」
だって十年後から来ているんだもの。
当たり前のことを言わないでくれ。
母の言葉に今度は振り返らず、僕はダイニングルームを出ると、玄関に続く廊下の途中にある階段を登って自室がある二階へ登った。
自室入って正面。
窓の向こうに千帆の部屋が見える。
僕の実家は木造住宅、築三十年。父が僕が生まれるのに辺り、一括払いで購入した中古住宅だ。まぁ、家族三人慎ましやかに暮らす分には十分な家である。家をケチった分だけ、生活費に余裕があるのがメリットだろう。
対して、千帆の家は築浅の十五年もの。お義父さんが、こちらにある会社に栄転したのを切っ掛けに、土地から買って建てたものだ。西洋住宅。真新しい外装で、古い町並みが残る町の景観から浮いている。まぁ、あと数年もしたら、リフォームブームで、気にならなくなるんだけれどね。
そんな家の二階。
僕の部屋よりちょっと下の位置に、千帆の部屋はある。
窓からの距離は一メートルとちょっと。声のボリュームを大きくすれば、窓越しに話ができるくらいの距離だ。実際、中学生まではそうやって会話していた。
うん――。
「千帆の奴、よくこの距離を跳んできたなぁ」
バレー部で身体を鍛えているにしても跳躍力ヤバくありません?
ドアトゥドアならぬ、ウィンドウトゥウインドウ。するにしても、もうちょっと距離が短くないと、女の子には無理だよ。まぁ、全力で飛び込んで来た感もありましたけれど。それでも難しいと思う。
命がけのラブコメ演出じゃん。
やめようよ、ほんと。
千帆の身体の方が僕には大事だよ。
けど、やるんだろうな千帆は。
そういう娘だから、千帆は。
そして、それで出来ちゃうんだから、ほんと凄いな千帆って。
高校生時代の千帆の運動神経やら、当時の武勇伝やらがふと脳裏によぎる。
たしかバレーで県大会良いところまで行ったんだよな。身長あるとはいえ、それでもバレー部女子のメンツからしたら下の方だったのに、そこまでやれたのは間違いなく体格だけじゃなく運動神経のたまものだよな。
性格はぽややんとしてるのに、すごいアクティブなんだよな千帆って。
そんな彼女に当時の僕は――。
物思いにふけりながら千帆の暮らす部屋の窓を見る。窓に光は既にない。どうやら、彼女は既に家を出てしまったようだった。
後でと約束したけれど、さて、どうやって千帆と合流したものだろうか。
その時だ。
『ピンポーン! ピンポン、ピンポーン!』
朝から町にチャイムの音が響く。
それは間違いなく僕の家のチャイムの音。
なるほど、千帆め考えたな。
僕を朝から迎えに来るという訳か。
それなら自然に合流することができるものね。
うん。
たぶん絶対そこまで考えてないな。うかれてやって来ただけだな。
千帆ってば、頭もよくてスポーツも万能なのに、ときどき欲望に忠実過ぎるというか、バカっぽいことする所があるよね。
まぁ、嫁のそういうところが可愛くない旦那はいないさ。
『ピポピポピポピポーン! ピポピポピポーン! ピンポーン!』
「わぁ、ちょっと、いくらなんでも押しすぎだって! 近所迷惑だろ!」
あわてて僕は床に置いていた鞄をひったくる。
布団をたたむのは――まぁ、今日は諦めよう。どたばたしていたから仕方ない。窓だけ閉めて、急いで部屋を出て階段を駆け下りると、いってきますとダイニングルームの母さんに叫んで玄関の上がりを降りた。
よく手入れされたらナイキのスニーカーに慎重に足を通すと、僕はピンポンミュージックを朝の町に響き渡らせる悪戯娘を成敗するべく扉を開く。
こら、千帆。なにはしゃいでるんだよ。
そう言おうとしたのに、声が急に出てこなくなった。
なぜか。
それは家の前に立っていた人物が、僕が想像していた女性と違ったからだ。
僕が将来結婚する妻ではなかったからだ。
けれども、僕のよく知っている女性だったからだ。
くせっ毛でボーイッシュなショートヘアー。
低身長、スラリとした華奢な体躯に、その白さがまぶしいカッターシャツ。黒々とした無地のスカートは、適度に織り込まれていて、性的ではなくけれども活動の邪魔にならない高さ。絶対領域を意識した絶妙な塩梅だ。けれども、足下はワンポイントソックスに紅色のコンバースという、色気よりも活気を感じさせる感じ。
背中には、カラフルなパステルカラーのリュックサックを背負った彼女は、パーソナルカラーだろうか赤いリストバンドを着けた右手をパッと開いて、僕に微笑んだ。
「おはよーございますセンパイ! 冴えないオタクくんなセンパイの所に、とってもかわいい美少女後輩が朝からお迎えに来てあげましたよ! さぁ、うじうじと漫画の主人公みたいにしてないで、今日も元気に学校に行きましょう!」
「相沢!?」
朝から僕を迎えに来たのは、チャイムを鳴らしていたのは、僕の後輩――相沢郁奈であった。
「そーですよ! うちの高校の隠れたアイドル! 天使相沢郁奈ちゃんです! 朝からあたしと一緒に登校できるなんて、センパイは三国一の幸せものですね!」
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