第5話 魔神の宿敵!!<霊能者>のクラスメイト、霊界堂心子

「やリすぎたかな…… でも、よしッ!!」


 勢いのままにログアウトした俺は、ベッドの上で思わず本音が漏れてしまった。


 聖剣<灼熱地獄バーニングインフェルノ>の使い手で、<新人狩り>と悪名高いバーンを、俺はこの手で負かした。


 それから俺は、これ以上正体を知られる前に、あの場から立ち去ろうと咄嗟にログアウトをした。我ながらいい判断だったと思う。


 バーンを打ち負かしたとき、こちらから挑発したとはいえ、俺はどこか喜んでいた。形はどうであれ、悪人を罰した快感というものは、体を駆け巡るらしい。証拠に、今は高揚感から気分がいい。


「それにしても、初っ端から色々ありすぎだろ……」


 初期装備がメガネ。しかもいわくつきな魔神までハッピーセットで仲間になって。ついてきたのはチート能力と謎の契約。


 そこから自信が湧き上がり、有名な悪どいプレイヤーを初心者ながらに打ち倒す。


 何だかどっと疲れが溜まってきた気がする。メガネの案件でただでさえ精神が参っていたのだ。ちょっと今日は無理をしすぎた気がする。



 さてと。コンビニでついでに買っていたカップ麺に慎重に湯を注ぎ、実食する。


食いつつ、電話で学校宛に「しばらくメガネがないんで休みます」という旨をはなすと、「よくわからないけど事情が事情なら仕方ない」といわれた。許してくれてまじあざす。危なかった。


 しばらくとはいったが、せいぜい10日といったところだろう。そうすれば夏休みがやってくる。帰宅部のこの俺は、何にも縛られることなくウォーリアーズオンラインを楽しめるのだ……!! 学校を休み心配もない。


 ウォーリアーズ・オンラインに話を戻すと。


 ちとバーンとのことで顔が知れすぎた。次回からのログインしたときには、身なりを変えておかないとな。


(その通りじゃよ)


 ん? 魔神こと後藤ヴィネットの声? まさか。ここはゲームの外だ。きっと聞き間違いだろう。疲れて幻聴が聞こえただけだ。


 麺を啜り終わった俺は、空き容器を床に投げ捨て、ベットの中に潜り込んだ。今日はもう疲れたからな。





 そして、次の日。課題を渡されることもなく、ひとりの時間をめいいっぱい満喫していた午前中。昼はまたカップ麺を啜った。


ウォーリアーズオンラインに対して乗り気じゃなかったので、スマホで動画を垂れ流して怠惰に時間を潰していた。そんなこんなで、現在時刻は午後の三時を回っている。


 ピンポーン♪


 今度は誰だ? もう宅配便で頼んだものなんてないんだが。このボロアパートに誰がなんのようだ? ドアを半分ほど開け、俺は応答する。


「はーい」

「こんにちは、神目金矢さん」


 外にいたのは、黒い衣を羽織った女の子。


蚊の鳴くような小さな声で、よどみなく無愛想にはなしかけてくる。住職のような格好で、首もとと手首に数珠が巻いてあった。


少し小柄で、短髪で前髪はぱっつんに揃えているらしい。呆然とした、どこか虚無を見つめたような目つきで俺のことを見つめている。


「あなたは……??」

「学級委員のクラスメイト・霊界堂心子れいかいどうこここです」


 こんなやつ、クラスにいたか? 正直記憶にない。影が薄すぎるからだろうか。とはいえ、彼女は学級委員だ。ふつうなら、知らないはずがない。


「心子さん、これはどうも。どうして僕の家なんか?」

「今日、あなたが理由もなく休んだようなので、少し叱りたくて」

「僕には僕なりの事情が……」

「動画なんて見てるようですけど、それが学校より大事とは、あなたどうかしていますね。じゃあお邪魔しますよ」


 彼女は勝手にうちに入り込んだ。どうやら草履を履いてきたらしい。ホンモノの住職か何かか?


「あの、お前が左脇に挟んでるその風呂敷、それはなんだ?」


 緑色で白い柄の入った、いかにも泥棒が使っていそうな風呂敷を、彼女は脇に抱えていた。


「お恥ずかしいのですが…… あなたを叱りつけるという名目で」


 風呂敷の中から出てきたのは、なんとVRゴーグルだった。


「私、寺の子でして。こういった遊戯は禁じられているのですが…… 運試しに申し込んでみた抽選キャンペーンに見事当選してしまって…… ウォーリアーズ・オンラインが付属していたので、試しにやってみたらやめられずにいたんです」

「だから、ここでプレイさせろ、ってことですか」

「左様です。あまり関わったことのないあなたに頼むようなことではないのに、あっさり受け入れてくださるなんて」

「僕もウォーリアーズのプレイヤーですから。今日から始めたばかりなんですけどね」

「それなら、一緒にやりましょうよ」


 思ったよりいい子そうだ。共通の話題が見つかると、仲が深まりやすい。


「じゃあ、霊界堂さんはここのベッドで寝転びながらやってください」

「ありがとうございます」

「じゃあ僕から入りますね」


(やめろ、あの女は危険じゃ、やめるんじゃ、金矢……!!)


 また、魔神の幻聴がきこえた。気のせいだろう。だって、ありえるはずがないのだから。まあいい、霊界堂さんはいい子そうだし、問題ないだろう。


「<ムーブ・イン>!!」


 俺は、VRMMOの世界へと潜り込んでいった。






 しばらく待っていると、霊界堂さんはやってきた。メガネをかけて心臓に手を当てて待っている男を探して、といっておいたのだ。


「霊界堂さん、ここではどんなジョブやってるんですか? 現実と似たような、住職職みたいな格好をしていますけど」

「そうですね。人はこう呼ぶそうですよ。<霊能者>と」

「<霊能者>、ですか。かっこいいですね」


 そういうと、なぜか霊界堂はクスクスと不気味な笑みを浮かべた。


「あなた、愚かですね。自分に魔神が取り憑いていること、知らないんですかね? 迂闊にのこのこと警戒もせず、私と雑談を交わすなんて」


(金矢、逃げるんじゃ!! ヤツはワシを祓おうとしている。急いで逃げるんじゃ!!)


 ヴィネットのいう通り、俺は駆け出した。何かわからないのだが、危険な感じがする。


「ようやく気付いたようですね。ここで会ったが何代目。わが因縁の魔神、祓わせていただきましょうか!!」

「アイツが、くる……!!」


 なぜアイツはヴィネットのことを知っている? 因縁の魔神? ここはゲームだろう?


(やつらとは、相当長い間、ワシと敵対していた仇敵じゃ。はよ逃げよ)


 ヴィネット、お前はNPCではないのか? 

 無関係のはずの霊界堂が、なぜゲームの中のヴィネットを祓おうとしているんだ?

 長年、といったがそれはどういうことなんだ?


 今はただ、迫り来る敵から逃げるだけだった。

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