第6話 プレイヤーに宿し魂・<強者>


「なんだ、あのふたり? 鬼ごっこでもしてるのか?」

「わかんなぁ〜い。楽しそうにおっかけっこして、ずるーい。私も君に追いかけられたいなぁ〜」

「もう、これだからお前は!!」

「えへへぇ」


 呑気だ。通りすがる人々は、全速力で走る俺と、追いかけてくる、首に数珠かけた女の子の関係が、ただの仲良しに映るらしい。


 実際は違う。


 俺がこのウォーリアーズ・オンラインで手に入れたアイテム<魔神の眼鏡ジーニーグラス>に宿ってる魔神・後藤ヴィネットを、彼女は消滅させようとしているのだ。話し合いもなしに攻撃されるなんて聞いていない。



「ヴィネット!! 俺はどこまで走ればいいんだ?」


(あと10分もしないうちに、<はじまりのむら>を抜けて<はじまりの草原>へと出られるはずじゃ。今、そこに人はほとんどおらん。とにかく急ぐんじゃ)


 とにかく足を動かす。VRの世界とはいえ、少しずつ疲労感が溜まる。果たしてこの貧弱な体は持つのだろうか?


 対する心子は、細かな足取りで前傾姿勢のまま追いかけてくる。まるで忍者のような走り方だ。体がブレることなくひたすら距離を詰めてくる。


「くそ、想像以上に速いじゃねえか」


 何どもスピードを上げ、どうにか追いつかれることなく走れている。


 なんとか<はじまりのむら>から脱出し、<はじまりの草原>の少し奥へと入ったところで、俺は急ブレーキをかけ、体を回して心子の方を向く。


「霊界堂!! お前はここまでして何がしたい? 詳しく説明してくれ。納得がいかないんだ」


 息を切らしながら訴えると、心子はいったん足を止めた。俺は、心子の目を捉え、様子をうかがう。


「あなたには魔神が取り憑いているんです。ゆえに<霊能者>たる私が祓うことで、己の責務を全うするだけです」

「『魔神が取り憑いていて』、『魔神を祓う』必要があることはもうわかった。俺が知りたいのは、その間にある理由だ。なぜ魔神が取り憑いているとわかるのか。答えろ、霊界堂」


 心子は、考えるそぶりを見せたのち、口を開いた。


「あなた、幽霊の存在って信じる?」

「『絶対にいない』とはいいきれないから一応信じてる」

「じゃあ、このウォーリアーズ・オンラインに霊や魔物といった異物が紛れ込んでいるっていったら、あなたはどう思う?」

「いない、とは否定はしきれないな」


 現にヴィネットという理解不能な存在を目の当たりにしているため、そういった事実があってもおかしくないだろう、とは思う。


「私の見解では、ウォリアーズ・オンラインというゲーム自体が、プレイヤーの心に新たな魂を発現させるものらしいと考えている。なんせ私はその魂のイメージを、見ることができるならな」

「だから、俺に別の魂、自分以外の存在が宿っているとわかったわけか」

「そういうこと。あなたとここで会った瞬間、不穏なオーラを感じ取った私は、その邪悪を祓わないといけないと思った。<霊媒師>は魂のイメージを見れるだけじゃなくて、それを祓うことができるから」


 いまいち心子の話を掴めそうにないが、ぼんやりとは分かってきた気がする。


「なるほどな」

「そして、発現する魂は、悪魔・神・伝承・魔物・霊…… そういった存在の複製らしいんだ。すべて、人を超える力を身につけている。私は、そんな魂たちを<強者ウォーリアー>って呼んでる。それらが、何らかの形でゲーム内に侵入している」


(ワシは<強者ウォーリアー>のひとりなんじゃよ。その呼び方は彼女に宿っているものからきいたのじゃろうよ)


「<強者ウォーリアー>、か。他のプレイヤーはその存在に気づいてんのか?」

「プレイヤーのほとんどが、<強者ウォーリアー>を認識していない。まだはじめて日は浅いが、ここまではっきりと認識している例ははじめてだ」


 魔神とコミュニケーションがとれるなんてそれはなかなかいないよな。プレイヤー以外はNPCしかいないはずの世界なんだから。


「お前がそんな存在ゆえに、やはり君を殺さないといけないと思っていたが…… 気が変わった。私とバディを組まないか?」

「へ?」


 心子の提案に、俺はつい素っ頓狂な声が出てしまった。話がつながらない。これから祓われるんじゃなかったのか?


「冷静に考えて、お前から禍々しいものを宿しているとはいえ、ここで<強者ウォーリアー>を祓うのももったいないからな」

「ずいぶん自己中ですね。追いかけ回されたこちらの身にもなってくださいよ」

「それは忘れろ。それより、ここで私の提案を飲んだほうが得策だ。ここで<強者ウォーリアー>祓われてしまえば、どんな目に会うかわからないからな」


(お主、この女を敵に回してはダメじゃ。頼むから素直に従ってくれ)


「悪くないです。あなたこそ正義です。従います」

「棒読みですか。では、バディになってくれますか?」

「わかりましたよ」


 すると、心子は拳を差し出してきた。


「友好の証だ。拳を重ねてくれないか」


 コツンと拳同士を当てる。


「ありがたい」


 そういって、心子は歯を見せて笑った。先ほどまで追いかけてきていた女とは思えない。


 現時点での目的はふたつ。


 まずは、とにかくメガネ代を稼ぐこと。


 そして。魔神・後藤ヴィネットをはじめとする人を超越した謎の存在、<強者ウォーリアー>とは何かを知ること。


 長い道のりになりそうだな。


「これからは仲間として、よろしくお願いしますね」

「はい!」



★★★★★★★★★★★★


〈あとがき〉


序章は以上となります。ここから本格的にVRMMOらしいバトルがはじまります。お楽しみに!!

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