第3話 〈新人狩り〉のバーン


「ここが、ウォーリアーズ・オンラインの世界……」


 再度虹色の光に包まれた俺は、もう白い空間にはいなかった。そして、先ほどまですぐそばにいたはずの、魔神・後藤ヴィネットはいなくなっていた。


 周囲を見渡す。きっとここは、<はじまりのむら>と呼ばれる場所だ。石畳で地面は埋め尽くされ、レンガからつくられた建物が立ち並んでいる。その中のとある場所に、俺は配置されたらしい。


 ここは、魔法使いから剣士まで、ありとあらゆるジョブを持った人々で埋め尽くされている。


(そういえば、キャラメイクはしないでいいのか?)


 ふいに、脳内から語りかけるような声がきこえた。


「だ、誰ですか」


 つい驚いてい大きな声になってしまったので、周りから冷たい視線を送られてしまう。


(わしじゃ、魔神・後藤ヴィネットじゃ。おぬしキャラメイクはしなくて良いのか?)

まさに神様のイメージそのままの魔神・ヴィネットか。

「びっくりさせないでくださいよ」

(驚かせた覚えはない。ともかく、キャラメイクはどうするんじゃ?)


 自分の体をすみずみまで見渡す。俺の格好は、ログイン前にに着ていたジャージ姿のままだった。明らかにこの場から浮いている。


「もちろんしたいですよ、こんな姿ですから。あなたとのやりとりで自分の服装なんてすっかり忘れてましたよ」


 今度は小声で語りかける。


(では、体の前に指を伸ばしてみるとよい。ウィンドウが開くはずじゃ。そこに<アイテムボックス>があるじゃろ)


「こう、ですか」


 ウィンドウが開く。いくつか項目のある中から、俺は指示通り<アイテムボックス>を開いた。


 現在、<アイテムボックス>に入っているのは以下のもの。


 __________


 ・ぼうけんしゃのふく


 プレイヤーがはじめから持っている服。

ズボンには剣をおさめる鞘がついている。


 ・はじまりのけん


 プレイヤーがはじめから持っている剣。魔法を込めることはできない。

耐久度はそこまで高くない。


 ・かいふくのくすりLv1×3


 体力を少しだけ回復する。体力がゼロになっても使うことができる。


 ・なぞのたま


 ??????

 _________



 <なぞのたま>が気になるところだが、何の意味を持つかわからないのでスルー。


 さっそく、<ぼうけんしゃのふく>・<はじまりのけん>を装備してみる。近くの建物がガラス張りだったので、自分の格好をよく見てみた。


「まさに冒険者、って感じだな……」


 ついうれしくなってジロジロとガラスを覗き込んでしまう。ふと我にかえると、建物の中にいる人たちから嫌な視線を向けられていることに気づき、すっと目を逸らした。


 ダメだ、かなり浮かれてしまっている。はじめてのVRMMOというだけでテンション爆上がりなのだ。


 ネットでみた情報が実際どうなのか、俺はここの探索をはじめることにした。


「ふっふっふ〜」


 聞こえないくらいの声で陽気に口笛を吹き、小刻みにステップしながら歩いていく。すごい、現実世界と感覚があまり変わらない……!!


 なんてことに感動しながら歩いていると。



 ゴンッ。



しっかりと前を見て歩いていたはずなのに、俺は何かが肩にぶつかったような感触を覚えた。


「おい、今この俺様とぶつからなかったか、初心者プレイヤーくん?」


 大柄なスキンヘッドの男が、俺に話しかけてきた。上半身はタンクトップで、腰には大型の剣を携えている。横幅も刀身も相当長かった。威圧感が相当すごい。


「ぶつかり……いや、ぶつかってないと思います……」

「あぁん? なんだよ、素直に認めればいいんだよ、ガキが。まさか、剣聖と呼ばれるこのバーン様のことを知らないとでもいうわけじゃあないよな?」


 剣聖…バーン……そうだ。あいつか……


「なあ初心者、<新人狩り>のバーンていえば、アニキのことがわかるんじゃあないのか?」


 取り巻きの、弱そうな細身の男がいう。


 <新人狩り>のバーン。


ネットでも悪名高い新人潰しだ。何かしらの言いがかりをつけて、初心者プレイヤーに決闘を申し込む性根の腐った野郎だ。


 目的は、プレイヤーの装備の強奪。初期装備は上級プレイヤーと十分に渡り合える性能を持つため、モノがよければ喉から手が出るほど欲しい、というモノだっているはずだ。


 どうも、彼らは奪った初期装備でどんどんランクを上げていっているらしい。そのうえ、強奪したアイテムを転売して儲けているという話さえある。


「わかりますよ、腐り切った人間もどきですよね? そんな腐った性根、自身の魔法で焼き払ってへいかがですか?」


俺は、喧嘩腰にいう。


「テメェ、兄貴になんてことを……」


 別の取り巻きが、すかさず口にした。


 たとえ俺がどう立ち振る舞おうと、問答無用で勝負になることは、前例からとっくにわかっていた。


 それなら、この俺があのバーンに雪辱を味合わせてやりたい。人の大事なものを理不尽に奪われることがどんなに腹立つか、あいつにわからせてやりたい。


 俺は、自身の轢かれたメガネの境遇と、強奪されたアイテムたちの境遇とを、勝手に重ね合わせていたらしかった。


だからこそ、とめどのない怒りが湧いてくる。喧嘩をふっかけられる。そういうことだろう。


「いいだろう、どうせ我が聖剣、<灼熱地獄バーニングインフェルノ>を前にして、勝てたものなどいないからな」


「じゃあ、もし僕が勝てたなら。バーンさんにお願いがありますり『許してください』っていいながら土下座してもらいたいんですけど、いいですかね?」


「もちろんだ。そうやって図にのっている奴を倒すのが、一番気持ちがいいからな」


 いつの間にか、俺とバーンの周りには人だかりができていた。予想はしていたが、やはりバーンはかなり有名らしい。やりすぎだっただろうか。いまさら後悔しても遅いが。


「まあいい、ついて来い!!」


 ***


 バーンたちと距離をとりながら、俺は歩いていく。そう、ヴィネットに相談するためだ。


「なあ。ヴィネットは、俺に勝ち目があると思うか?」


(何を今さら言うんじゃ。お主が戦うと望んだのじゃろう? まさかいまさら「不安だ……」とか言わないじゃろう?)


「それもそうだけど……」


(いいか、このわしを信じるんじゃ。お主には<行動予測><敵の行動停止><魔法のコピー>という、凄まじい力が備わっているんじゃ。安心して挑むとよい)


「もし、それでもダメそうだったら?」


(その時は最終手段じゃ。わしは「最大3回までならどんな望みを叶えられる」という力を持っているじゃろう。本当に大事だと思うのなら、使うと良い)


 たった3回とはいえ、どんな望みもヴィネットは叶えてくれる。もはやチート級だ。これはあくまで最終手段だろうが。


「なんだかいける気がしてきました」


(頑張るのじゃぞ)


 しばらく歩くと、戦いの場へとたどりついた。そこは、テニスコート一面分ほどの広さを誇る、真っ平な<バトルゾーン>だった。


 線だけで囲まれたような、簡易的な作り。そこにすでに群がる、多くの人。これは実に厄介そうだ。


「さあ、ここで終わるといい、イキリ新人!!」


 <バトルゾーン>へと入り、バーンは聖剣<灼熱地獄バーニングインフェルノ>をこちらの方へまっすぐにつきつけ、そういった。


「僕は、負けませんから」


 こちらも<バトルゾーン>に入り、視線をはっきりと捉えていった。


「では、戦おうか!! 新人!!」

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