第2話 チュートリアルと、魔神との契約
虹色の光を超えた先は、もう現実世界ではなくなっていた。何も見えない、真っ白い空間。地面の上に立っているらしいが、奥行きも高さも把握できない。
今のところ、キャラメイクをしていないので現実の姿かたちはそのままだ。感覚もさほど変わらない。
ーーウォーリアーズ・オンライン!! さあ、勇敢なる戦士たちよ。君の力をここに示せ!!ーー
ふいに女性の勢いづいたアナウンスが入った。目の前にスクリーンのようなモノが現れ、<Warriors Online>というロゴが表示される。
騎士・魔法師・銃士・魔王…… 次々とキャラクターが画面を埋め尽くす。そう、<Warriors Online>の魅力のひとつは、キャラクター多さである。はじめに自身のキャラクター、つまり<ジョブ>を決めさせられる。その種類は数万にも及ぶらしく、なかなか被らないらしい。
<ジョブ>というのは<Warriors Online>内での自分の役割のことだ。なんでもありのこのゲームでは、剣も魔法も銃も呪術もごった煮状態。それぞれの<ジョブ>には固有の特徴がある。
そのうち「ゲームを開始する」というボタンが現れたので、押してみた。すると画面は閉じて消えてしまった。
「ウェルカムトゥー・ウォーリアーズ!!」
今度はダンディーな声が、上から聞こえた。これからチュートリアルがはじまるという合図だ。誰が説明してくれるかはランダムらしい。
目の前に、パッと男性が現れる。しわくちゃになった顔、そして白髪と長い顎髭。頭には輪っかを浮かし、しかも杖をついている。
「あなたは、神様?」
「ほほぅ、ほとんど正解じゃ。わしは後藤ヴィネット、そう神や人々は呼んできた」
NPCにもたいそうな設定があるものだな。しかし、神様が現れるチュートリアルなんて聞いたこともない。もしや全サーバー初なのか? いやいや、まだ多くの人には知られていないパターンなだけかもしれない。
「僕は、
「よろしく頼むのう。では、このゲームに関する簡単な説明をするが、よいか?」
はい、と答えるとマイケルは話をはじめた。
大体の話を要約すると。
<Warriors Online>は国内でも名高い戦闘系VRゲームである。プレイヤーたちはRPGゲームのようなクエストに挑戦したり、プレイヤー同士の対決、つまりPvPをしたりといった様々な遊び方ができるとのこと。
なお、このゲームには<特性>と<スキル>という概念が存在しているらしい。
<特性>は各自のジョブ特有の能力で、変更不可能、<スキル>は戦ったり何かするための技だとのことだ。<スキル>は条件さえ満たせば強化・変更が可能だという。
そして、今から<ジョブ>をマイケルは授けてくれるらしい。<ジョブ>はプレイヤーの個性が大いに反映するという。果たして自分のものは、何なのだろう。
「では、
ゴクリ。このジョブが、今後を大きく左右する。立ち振る舞い方も分かれていくのが、このタイミング。いいやつ、こい……!!
「<
そういうと、僕の胸からマイケルの胸へと一筋の光が出てきた。数秒すると、<
「お主の<ジョブ>じゃが…… どうやら激レアなものらしい」
「本当ですか?」
いや、そんなの知っていた。なぜかって? このゲームにおいては、出てくるジョブはすべて激レアだからだ。それぞれの能力がはじめから強く、初心者でもうまくいけば上級者と渡り合えるこのゲーム。「君のジョブはSSS級だ……」とNPCにいわれる展開は予定調和なのだ。
……激レアがポンポンでるなら、激レアじゃなくね、は禁句だぞ。
「君の<ジョブ>は……」
「何、ですか」
「<
俺の脳内は、クエスチョンマークで埋め尽くされた。
剣士とか魔術師とかじゃなく、
「神目金矢、どうやらお主がメガネに対する執着が強いらしく、こういうジョブになったらしい」
そうだ。俺はメガネをトラックに轢かれ、だいぶ気を病ませていた。その思いが、伝わってしまったというのか。
「よくわからないんですが、<
「仕方がないのう、説明してやるわい。その前に、これをつけてから説明した方が早いじゃろうから、ほい」
僕の手の中に、メガネが現れた。
<
目の前にウィンドウが出てきたので、すかさずタップして説明文を読む。
__________
<
太古の時代、人間が魔神を封印したとされる呪具の残骸がふんだんに使われ、つくられたメガネ。これを装備したプレイヤーは<攻撃予測><敵の行動停止><魔法や剣術のコピー>をおこなえるようになる他、条件を満たせば魔神の力を授かれる。
__________
なかなかすごそうだ。馬鹿にしていたが、かなり強そうじゃないか。特に、魔神の力というのが気になる。
「マイケルさん、魔神の力というのは何ですか」
「わしの力じゃよ」
「わしの、力?」
「そう、わしこそ。過去に人類に危機を及ぼす存在として恐れ慄かれた魔神、
ただのチュートリアル用のNPCにしては、どこか設定が込み入り過ぎている。
「汝に問う、このわしと契約しないか? 契約すれば、お主は我が魔神の力を得ることができる。全サーバー一位も夢じゃないぞ。強くなれば、換金システムによって、お主はの金欠問題も解決しよう」
なぜ、NPCがこちらのリアルの事情までも知っている?
<ジョブ>の決定は、プレイヤーの感情やある程度の思考を参考にしているものの、細かな事情までもがわかるわけではない。
そして、契約とは何だ? そんな設定、きいたこともみたこともない。チュートリアルでこんな展開があるなんて初耳だ。絶対に、これは何かが変だ。
ヴィネットは、いったい何者なんだ?
「もう一度聞こう、汝はこのヴィネットと契約するか? しなければ、このメガネは無かったことになるが、どうか?」
こんな揺さぶりを、現段階の技術のNPCができるはずもない。パターンに従って答えていない。あいつは、NPCじゃない。ほとんどこちら側だ。
未知であるが故の恐怖もあるが、それ以上に好奇心が高まっていた。これほどまでによくわからないものは、かなり気になる。
「今、答えないといけませんか」
「もちろん。わしと契約すれば、お主を全サーバー一位にまで押し上げ、金欠問題を解決すると約束しよう。どうだ、答えてみよ」
金欠問題は、正直かなり大きい。差し迫った問題で、解決の糸口は見えてこない。換金システムというのはすっかり忘れていたが、もうこれしか残された道はないだろう。
怪しいが、俺はこの道しかないんだ。たとえ怪しい人物でも、縋れるものには縋るしかない。
「契約します、ヴィネットさん」
「よかろう、では、<ウォーリアーズ・オンライン>の世界へ、いくぞ!!」
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