最強装備【魔神の眼鏡】ならVRMMOで全サーバー1位は余裕です〜Warriors Online〜
まちかぜ レオン
プロローグ ゲームの世界に神は宿る
第1話 気晴らしにVRゲームをはじめます。
「なんでだよ!」
日が沈みかけた夕方、ひとり暮らしのボロアパートの中。
俺は、激しく怒り狂っていた。なぜなら、自分のメガネをトラックに轢かれたからである。
コンビニからの帰り。
レンズの汚れが気になったので拭こうとしたところ、手を滑らせてしまい、たまたま前を通りすがったトラックに轢かれてしまったのである。
いわばメガネは異世界転生を果たしたというわけだ。お前のことは忘れないからな。
ソファに座り、レジ袋の中から取り出したメガネの残骸をながめる。目も当てられないくらい、そいつはボロボロに砕けていた。
それをながめていると、なぜか俺はつい感傷的になって、ソファを思い切り拳で殴りつけてしまった。
「くそったれが…… 」
自分の不注意とはいえ、メガネがこんな姿になってしまったことが許せなかった。
いや、そうじゃない。それ以上に俺の未来に対しての不安が渦巻き、イライラしてしまっていたのだ。
さて。俺の今後を考えると、ふたつの懸念すべき事項が出てくる。
ひとつ、まともにモノが見えないこと。
コンタクトレンズや替えのメガネをいっさい持っていないため、生活に大きく支障が出る。高校生の俺は、メガネなしだと授業もまともに受けられない。しばらく学校にいっている場合ではなくなるのだ。
ふたつ、メガネの修理代がかかりすぎること。
このメガネのフレームは両親からの貰いもので、数十万はする超高級品だった。
もし壊したことがバレれば一大事だ。ともかく、そのフレームを使って、メガネを作り直してもらわないといけない。するとどうだろう。
数十万以上かけて、メガネを作り直さないといけない。さて、その修理代はどうすればいい?
__________
・バイトして資金調達
……却下。そもそも、高校でバイトが禁止されている。
・買いためていたゲームを売却
……却下。いつも遊んでいたのは、すでに生産終了した、何世代も片落ちのマイナーゲームばかりだった。高く売れるはずもない。他に金目のものなど持ち合わせていない。
・お年玉・小遣いから前借り
……却下。最新のフルダイブ型VRゴーグルと<ウォーリアーズ・オンライン>のカセットを小遣い前借りできのう買ったばかりだ。月5,000円の2年分は飛んでいる。すでに相当な金欠状態だったのだ。
なお、両親に包み隠さずメガネのことを言おうものなら、<ウォーリアーズ・オンライン>とVR機器は絶対に売り飛ばされるに決まっている。絶対にそれは避けたい。
__________
もはや、絶体絶命だ。ベターな選択肢は、<ウォーリアーズ・オンライン>の売却だろう。だが、そうしてしまえば小遣い2年分が無駄な出費となってしまう。
華の高校生活、半分以上小遣いなしは辛いモノがあると思う。コンタクトをつくるにしても、両親と一緒にいかないといけないので、その時点でバレる。
なお、両親は海外を転々としていて日本に帰ってくることはそうそうない。それゆえ俺はひとり暮らしなのだ。
「これからどうしようか……」
ピーンポ―ン♪
「はーい」
「宅配便で〜す」
のんきな声で、宅配のお兄さんはインターホン越しに応える。気楽そうで羨ましい。手探りで印鑑を探す。よく見えないものだからかなり苦戦した。慣れない足取りで玄関までいき、ドアを開ける。
「
「はい」
「ここに印鑑をお願いします」
箱の大きさの割に、そこまで重くはなかった。これは、もしや……
「ありがとうございました」
早足で居間へと戻る。きっとこれは、待ち望んだあれだろう。
ハサミで丁寧にダンボールを包むテープを破き、出てきたのは。
「ウォーリアーズ・オンライン……!!」
フルダイブVRゴーグルと、ウォーリアーズ・オンラインのカセットケースが、姿を見せた。
プチプチに巻かれているが、派手なデザインがぼんやりながらも見える。
ゆっくりとプチプチをハサミで裂き、生のパッケージに触れた瞬間。もう胸が高まって、メガネのことなんか忘れそうだった。
これまでの俺は、人気ゲームにいっさい食指が伸びなかった。
しかし、このゲームは違った。広告動画を見た瞬間から、「やってみたい」と心のそこから思える作品だったのだ。
それも、“お小遣い2年分前借り”という暴挙に出てまで、欲しかったゲームソフトなのである。
「もういい、ゲームして一旦忘れよう」
正直、自暴自棄だった。この絶望的を目の前にしていると、ゲームをしないとやっていけない。
いや、そんな理由づけがいらないくらい、期待で気分が高揚している。メガネがなくて何もかもがよく見えない今、本当に、これが届いてくれてよかった。
コンビニで買った炭酸水で喉を潤し、トイレや着替えなどを済ませた後。俺は、カセットを差し込んだゴーグルを顔に取りつける。
小説やアニメの世界でしかなかった、VRに触れられた喜びや感動が、ぐっと押し寄せていた。
ベッドの上に寝転んだ後、
俺は<ウォーリアーズ・オンライン>にダイブするための合言葉を、口にしようとする。
何度もネットで記事や動画を見まくっていた自分なら、当たり前のように知っている言葉。
「〈ムーブ・イン〉!!」
俺の視界は、VRの世界へと続く虹色の光に包まれた。
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