第㯃章 魔女の王

 大僧正様専用の馬車は六頭の馬が引くだけあって、怪盗フォッグ&ミストのアジトまであっという間に到着することができた。

 道の前方に陣幕を張っている冒険者ギルドの面々が見えたので一先ず合流する。


「ギルド長! クーアさんは?」


「シャッテか! 今更、何をし……どうやら昨日までのテメェとは違うようだな」


 ギルド長は今の私の変化に気付いたらしく、ニヤリと笑った。


「ここから二キロ先でクーア君が一人で戦っている。戦闘開始からまだ三十分しか経ってねぇが、多勢に無勢だ。いくら防御力の高い結界を張っているといってもそろそろヤバいかも知れねぇ」


 流石のギルド長の顔にも疲労と悔恨がはっきりと浮き上がっていた。

 本当は今すぐにでも助けに行きたいに違いないのに、聖帝陛下からの命令には逆らえない為、無力感も感じているのだろう。

 否、普段のギルド長なら、自分一人だけだったなら躊躇うことなくクーアさんを助けに行っているはずだ。

 しかし、相手はあの聖帝である。戦闘後にどんな難癖をつけてくるか分からない。

 下手をすれば国家に逆らったとしてその場にいる冒険者達にも累が及ぶ可能性がある。

 だからこそギルド長は冒険者達を守る為に血を吐くような思いで撤退命令を受け入れたのだろう。


「状況は理解できました。それではクーアさんの救出に向かいます。今の私は一介の武芸者。冒険者ではありませんから陛下の撤退命令を聞く道理がありませんからね」


 ギルド長は私の言葉に少し元気が出たらしい。


「ああ、頼ンだぜ。不甲斐ないボスで悪かったな。だが、云わせてくれ。必ず生きてクーア君と一緒に帰ってこい。どちらかが死ぬのは勿論、双方共に死ぬ事は絶対に許さねぇ。もし死にゃあがったら、地獄の果てまで追いかけてぶん殴ってやるからそう思えよ?」


 ギルド長らしい激励に私は笑顔で頷いた。


「事務長! これをお持ち下さい!」


 一人の青年が私に小さな筒のような物を手渡した。

 確か若いながらもAランクとして登録されている凄腕の火術遣いだったはず。


「これは我が一族秘伝の炸裂弾『スイートハニー』です。着火は不要。下から出ている紐を引き抜いてから五秒後に爆発する仕組みです。敵は大砲を持っています。撤退前、幸か不幸か敵の方から大砲を撃ってきたので自己防衛と称していくつか大砲を潰しましたが、まだ生き残っている物があるかもしれませんので」


 流石はAランクの冒険者だけあって自作出来る武器が違う。


「ありがとう。有事の際には遠慮無く使わせて貰うわ」


 私は懐に炸裂弾を押し込むと、クーアさん救出作戦を再開した。









「いた! あの竜巻からクーアさんの魔力を感じる!」


 戦場へ到着した私は大きな屋敷が半分以上焼け焦げ倒壊している様を見て戦闘の凄まじさを悟った。

 そうこうしている間に魔力の竜巻は勢力を弱め、徐々に小さくなっていく。


「へへ、手こずらせてくれたが、もう身を守る竜巻は起こせないようだな」


 竜巻が消え、肩で息をしているクーアさんを取り囲む盗賊達を見た私は、馬車から飛び降りて全力で駆けだした。

 我がシュナイダー流棒術が百姓武術と云われる所以は農夫の畑を耕す仕草や草を薙ぐ動作などをヒントに編み出されたところにある。

 得物の棍は約二メートル、それを全身でもって振り回す姿が正統の剣術を学んだ者達の目には滑稽に映るらしい。

 しかし、不細工な田舎武術と侮った剣士達のその悉くは脳天を割られてあえなくこの世を去る事となる。

 私は走りながら棍を横に構えると、今まさに剣を振り下ろさんとしている盗賊の胸へと先端を突き出した。

 踏み込みつつ突いた先端は盗賊の胸骨を粉砕し、心臓を破壊する威力があった。


「な……ん……」


 我が身に何が起こったのか分からないまま盗賊は絶命する。

 確かに気分の良いものではないが、今の私はクーアさんを守る使命感に突き動かされていた。


「弱者から金品を奪い、命を踏み躙り、婦女を犯す盗賊共! 同じ人といえども生きていては世の中の為にならない。この『幻惑』のシャッテが成敗致す!」


「しゃらくせぇ!」


 剣を振り上げ迫る盗賊に対し、私は足下を払った。

 剣士同士の戦いにおいて足下を攻撃される事はまずない。

 故に無防備に足を砕かれ無様に転げ回ることになるのだ。


「や、野郎共! 一斉にかかるんだ!」


 左右から襲いかかってくる盗賊共に私は棍の中ほどを両手で支えて待ち受ける。


「死ねぇ!」


 一対多の状況こそが我が棒術の真骨頂!

 私は間合いを自在に伸ばしたり縮めたりしながら棍を振り回して盗賊共の脳天や横鬢、肩口を痛打していった。

 戦闘の終了を感じた頃、足下には四肢のいずれかを砕かれた盗賊達の呻き声と、割られた頭から血と脳漿を垂らしている者達の死の気配が渦巻いていた。


「事務長? ギルド長から今回の作戦から外れたって聞いていたけど……」


 盗賊達の返り血と自らの血で赤黒く染まった顔は、可愛らしいだけに余計凄惨な有り様だったが、表情を見る限り深刻な傷は負っていないようで安心した。


「副ギルド長……いいえ、クーアさん、ご無事で何よりでした」


 私はクーアさんを抱きしめる。愛しい想いを唯々込めて。


「ありがとう……大砲を使用不能にしたまでは良かったけど、多勢に無勢だったから守りに徹していても限度があってさ。魔力が尽きていたから助かったよ」


 抱擁を解くと、もうクーアさんには『浮遊』する力も無いのか地面へと座り込んだ。


「はは、いやはや、鋳造技術が進んだのか昔と比べて最近の大砲って頑丈だねぇ。連続して撃っても自壊しないし、炎系上位魔法の一発や二発じゃ砕けないんだもの。もう攻撃魔法よりも兵器が幅を利かせる時代が来たんだろうね……結局、館の方を破壊するのが手っ取り早いと判断してさ、ちょっと無理して魔力が尽きかけたところに増援が何度も現れてさっきの有様だよ。戦力の逐次投入は愚策というけど、今回に限って云えば有効だった」


 魔法使いの時代は終わりかな、と寂しげに笑うクーアさんに私は首を横に振った。


「少なくとも現代医術はまだ魔法からは後塵を拝します。クーアさんはまだまだ世界から必要とされますよ」


 むしろたった一人で一時間近くも戦闘を続けながら、敵にこれだけの痛手を与え、巨大な建造物をも破壊したクーアさんの戦闘能力の高さとそれだけの事をして漸く尽きた魔力の強大さは、流石は伝説の魔法使いなのだと畏敬の念を覚える。

 そこで私は重要な事を思い出した。


「ところでフォッグとミストは? 神像は何処です?」


「少なくともフォッグと名乗った盗賊は倒したよ。ほら、あそこで石化して首が取れた女性がそうさ。けど、ミストの方には逃げられた。フォッグの首を持ってね。神像は……これからゆっくり探そう……壊れてなければ良いけど」


 クーアさんは半ば倒壊し、焼け焦げた屋敷を見渡しながら頬を引き攣らせる。

 その時、多数の馬蹄が地面を踏み抜く音と馬の嘶きが近づいてくることに気付いた。


「やれやれ……漸く軍の到着か。本当にろくでもないんだから」


 夕闇迫る時刻でも砂塵が確認できるようになり、やがて銀色に輝く鎧を身に纏った騎士達が見えてきた。数は……ざっと百くらいか。


「あれ? なんか殺気立ってない? って云うか、僕達を目指してるよね? 斥候も出さずにどんどん来てるし……あれ? 抜刀してるのもいるよ?」


 あれよあれよという間に私達は騎士達に取り囲まれてしまった。


「魔女クーア! 神像強奪の首謀者め!」


 クーアさんが神像を盗むですって?

 一体全体、何をどう考えればそのような結論に行き着くのか理解に苦しむ。


「ふふふふふふ……」


 不気味な嗤い声に私は戦慄した。

 見ればクーアさんは今まで見たこともない妖艶な笑みを浮かべているではないか。

 姿こそ幼い少年だが、その身からはサッキュバスの如く禍々しくも抗いがたい色香が滲み出ており、気を抜けば呑まれてしまいそうだった。


「今回の事件はさ。深い霧の中にいるかのようになかなか全体が見えなかったけど、漸く……漸く敵が見えてきたよ。いやはや僕も相当にお人好しだ。嗤っちゃうくらいにね」


 クーアさんの髪が風もないのにざわめき、見る見るうちに伸びて血でドス黒く染まったローブに絡まっていく。色も鮮やかなライトグリーンからダークグリーンへと変わり、さながら古城に絡みつく蔦のようだ。


「クーアさんの姿……まるで絵本の中に出てくる魔女のお城みたい……」


「無駄な抵抗はよせ! 大人しく捕縛されるのならば、聖帝陛下も慈悲を賜わるとの仰せだ。陛下のお心にお応えせよ。あの御方は罪人となった今も尚、貴様を友とおっしゃっているのだ。これ以上、陛下を哀しませてはならぬ」


 隊長格の男が口上を述べながら向けるサーベルの切っ先を、なんとクーアさんは無造作に掴んだ。


「き、貴様! 何をしている?」


「そう、友達だよ。出会ってから早半世紀、色々あったけど僕はパテールを友達だと思っていた。宮廷治療術師とは名ばかりで宮殿の地下に軟禁されていたのだって、ある意味、僕を守ってくれていると思えばこそ耐えられた」


 クーアさん?

 泣いていた。嗤いながらクーアさんはぽろぽろと涙を零していた。


「フォッグとミストは云っていたよ。『魔女の王』と戦うなんて聞いていない。割に合わないにも程があるってね。つまり、フォッグ達は雇われていたんだよ、何者かに……」


 クーアさんが掴んでいるサーベルが軋み、騎士の隊長は愕然とした様子で自分の手を見ていた。

 同様に周囲の騎士達も、何故か自分の足を掴んで揺すったり、剣の柄に手を掛け必死に踏ん張ったりと、明らかに様子がおかしい。


「彼は分かっていたんだ。前段階でフォッグ達にせこい盗みをやらせていたのは依頼のランクを下げさせる為、星神教会が冒険者ギルドに依頼するのも想定の内。もしかしたら例の冒険者達も無謀な依頼を受けた時には既に彼の手がついていたのかも知れないね。そして、僕の性格を知っていたからこそ、僕が責任を取る為に出張ることを読んでいたんだ」


 そうだったのか。

 的は星神教でも冒険者ギルドでも、況してや王宮でもなかったのだ。

 初めから的に掛けられていたのはクーアさん。


「そしてクーアさんを狙っているのは……」


「聖帝パテール……五十有余年前、共に戦った戦友。戦後は、“民衆が笑って暮らせる国作りを手伝ってくれ”、と云いながら僕を軟禁し続けた男……」


「ひ、ヒイイイイィィィ! 手が、手が離れない?」


 隊長が焦燥に駆られたように叫ぶと同時に騎士達の体がほのかに発光を始めた。


「悪いけど君達の魔力と精気を貰うよ。少し虫の居所が悪いから加減はできないけど、何、心配は要らない。精々十年か二十年そこら寿命が縮まるくらいだからさ……『エナジードレイン』!」


 騎士達の体から放たれている光が強まったかと思えば、それらは一斉に飛び出してクーアさんの体へと入っていった。

 光が収まると、後に残ったのは力無く倒れ伏す騎士団の姿があるばかりだ。

 かろうじて生きてはいるようだけど、兜の隙間から覗く肌はカサカサに渇き、目は落ち窪んでいるような有り様だった。


「男の身でも魔女は魔女。迂闊に怒らせると火傷じゃ済まないからね?」


 これが、かつて聖都スチューデリアを恐怖のどん底に陥れ、勇者様とも互角以上に渡り合った『魔女の王』の力の片鱗か。

 この容赦の無さ故にクーアさんは怒りを抑えるようになったのだろう。

 しかし、私の心に去来するのは恐怖ではなく、憧憬にも似た熱いものだった。

 そこで、ふと疑問が湧いてきた。


「あのぅ、騎士達から魔力を奪えるのなら、どうして盗賊達からも魔力を奪いながら戦わなかったのですか? そうすればあそこまで追い込まれることもなかったでしょうに」


 するとクーアさんは気怠そうに顔をしかめたではないか。


「そう簡単にはいかないよ。魔力とはこれ即ち精神力。だから警戒している相手からは奪うことはできないし、況してや戦闘中なら尚更さ。発動中はこっちも無防備になるしね」


 なるほど、奪わなかったのではなく奪えなかったのか。確かに魔法の発動もかなり時間を掛けていたようだし、敵愾心を剥き出しにして次々と襲いかかってくる盗賊達から魔力を奪うのは無理というものだろう。


「この魔法の肝は、何と云っても相手の虚を衝いて心を空白にしてやることにあるんだ。だからさっきは突きつけられたサーベルを素手で掴んで見せる事で軽く驚かせて、後は足の裏を地面に吸い付かせ、剣を鞘の中に固定することで相手に恐怖を与える演出をしたってわけさ」


 クーアさんは肩を竦めながら続ける。


「僕が女だったら、裸になるなり誘惑するなり、もっと簡単に相手の心を乱せたんだけどね。実際、母様も、“いくら時代が変わろうと色仕掛けが有効なのは変わらない”って云ったものだよ」


 クーアさん曰く、数千人規模程度の軍ならば魔女が三人ばかり一晩裸踊りでもしてやれば、みんな骨抜きになって戦闘にならなくなってしまうのだそうな。


「流石は魔女……戦う前に勝つ事など造作もないのですね」


 と、珍しくクーアさんが意地悪げな笑みを浮かべていたことに気付いた。


「君も良く云うね。現役時代はその可愛いお尻で対戦相手の目を奪って勝利を得てきたと見たけど?」


 その言葉を受けて、私の顔が熱を帯びてくる。

 咄嗟にお尻を手で隠しながら私は思わず叫んでしまった。


「わ、私の棒術は本物です! それに今の発言はセクハラですよ!」


 しかし、クーアさんは愉快そうに笑うばかりだ。


「失敬、失敬。褒め言葉のつもりだったんだけど、やっぱり魔女と普通の人とでは感覚が違うのかもね。魔女は人から好色の目で見られてナンボだからさ」


 そういう意味では少年愛趣味の人の視線は心地が良いよ、と宣う。

 個性派揃いの冒険者ギルドの中にあって比較的常識人だと思っていたクーアさんもやはりどこか常人とは違うのかも知れない。と云うか、そういった視線を感じるのならば、私が時折、クーアさんのうなじやローブの胸元から覗く鎖骨に劣情を催し妄想に耽っているのを実は気付かれているのではないかと気が気では無いのだが……


「さあ、そろそろ行こうかな?」


 奪った騎士達の魔力が体に馴染んだとかで、クーアさんの体がやおら浮かび上がった。

 同時にクーアさんの髪が再び明るさを取り戻しローブから離れていく。


「エメラルス、お願いね。『スラッシュウインド』!」


 風の刃がクーアさんの髪を短く切り裂くが、元通りというよりはローブに絡まって癖がついたのか、所謂ゆるふわヘアとなって前にも増して可愛らしくなっているのはこの人の宿命なのだろうか。


「と云うか、エメラルス、いえ、エメラルス様ってまさか……?」


「うん。『風』と『運気』を司る『龍』の神々の筆頭だね。堕天使で魔界軍の総司令官やってる人の紹介で会ったことがあってね。以来、気に入られたのか、風属性の魔法を遣う時は消費する魔力が軽減されたし、どんな苦境でも土壇場で道が開ける悪運に恵まれるようになったんだよ。さっき君に助けられたようにね。そういう義理もあってさ。星神教は嫌いだけど、エメラルスだけにはたまにお酒や手料理を供物として奉納してたりするんだよね」


 何でこの人はそんなオソロシイ事をさらっと云えるのだろう?


「あの……シチュエーションが全然思い浮かばないのですが……」


「簡単に云うと昔、エメラルス配下の天使が何をとち狂ったのか、僕には世界の救い主を産む聖母としての宿命があると云ってしつこく付きまとってきてさ。僕は男だって云っても、“なら天界の技術で女の子にして差し上げましょう”、だよ?」


 クーアさんはげんなりとした顔となった。


「こりゃ話にならないと魔王様に相談したら同席されていた総司令閣下が、“そいつは知り合いかも知れん。堕天する前は自分もエメラルスに仕えていたから、その伝手から抗議してやろう”って請け負ってくれてさ。で、お任せして次の日だよ。先方が会って詫びたいって申し入れてきたと閣下に呼ばれてのこのこと出向いたらいたんだよね、エメラルス」


 いやいや、いやいや、堕天使が未だ天界に伝手があるっておかしいでしょう?

 しかも人間相手に、部下の失態を謝罪しにわざわざ降臨される神様がどこの世界におわすと仰せなのですか、エメラルス様!


「あ、でも天界土産の銘菓・星サブレーと天使のひよこ饅頭はお茶と合ってて美味しかったよ。結構人気でなかなか買えないんだってさ。誰が買うんだって話だけどさ」


 しかも天使のひよこって何? 天使って卵から孵ってひよこを経て天使になるの?

 あ、いや、もういいです、もういいです。お腹いっぱいで胸焼けがしそうなので、後生ですからもうこの話題は終わりにして下さい。

 かつては勇者様の仲間であり、魔王の寵愛を受け、星神教を憎みながらも、その神の一柱を気安い感じで名前を呼ぶ……やはり大物なのだろう。見た目は小さいけど。


「それに見て? 切られた髪がいつの間にか消えているでしょ? 女の髪に宿る霊力は神様にとって良い供物になるみたいでね。僕の場合も男でありながら魔女である事から髪にかなりの霊力があるらしくて、髪が伸びると、ああしてエメラルスに切って貰うんだ」


 神様と持ちつ持たれつの仲の魔女か。差別主義に凝り固まった古い宗教家が聞いたら発狂しそうな話である。

 事実、私は胸焼けと胃もたれを同時に味わう事となったわけで……


「ところで先程の、行こうとは?」


 クーアさんはポンと手を叩くと、私に向き直る。


「ああ、事務長? 悪いけど帰ったらギルド長に辞職するって伝えてくれないかな? これから僕がする事は冒険者ギルドにとって不利益にしかならないからね」


 不利益……つまりクーアさんがこれからしようとしていることは……

 止めても意味は無いと悟った私は黙って頷いた。


「ありがとう。それじゃ達者でね」


 クーアさんが影の中に沈み込もうとするその一瞬を私は逃さなかった。


「事務長?」


 クーアさんが驚きの声をあげるが構わない。

 私は沈みゆくクーアさんから離れないようにきつくきつく抱き締めた。


「真面目一筋かと思ってたけど、魔女を騙すなんて中々やるね」


 クーアさんはいつもの、ほにゃっとした苦笑いを見せた。

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