第17話 清水の舞台の件について③
「覚えてくれてたん? おおきに」
「
「あ、ああ。昔な」
多分昔に合っているがそのことを正直に言ったらだめな気がしてならない。もっとも、隠し通せるとは思っていないので、タイミングを
「そ、昔に色々とあったんやけど、それよりあんた」
「ん? 俺か?」
美紅が
「そう、あんたや。亮君の呼び方やけど『亮祐』はあかんのとちゃいますか? それやったら『亮』って呼ばへんと」
「どうしてだ? それに俺は『あんた』じゃなくて、
「あら、うちとしたことが自己紹介がまだでしたな」
そう言って美紅は和傘を閉じて、
「うちは
へぇ、そんな名前だったっけ? 美紅っていうのもなんとなく聞き覚えのある名前を言ったつもりだったから当たってびっくりしてんだよな。俺って運がいいのか? いや、
それにしてもパッとしないな。頭の中に
って言うのはいったん置いておいたとして、やっぱり思い出せない。うっすらと記憶しているのは無邪気な笑顔と、強気な感じ、その中にも女の子らしさがあって・・・・・・あって、あれ、そこから先が説明しづらい。
その子に対して何か想っていた気がする。尊敬、
来るまでは誰かいたなぁ、くらいの感覚だったが、美紅に出会って
「っで、『亮祐』って呼ぶことの何が悪いんだ?」
辰弥の声が聞こえてきたことで俺は話の流れに引き戻された。確かにそんな話をしていたし、俺もその発言が気になっていた。辰弥が俺のことを「亮祐」と呼んだところで何がだめなんだ? 「亮」って呼ばれたら逆に誰だよ、ってなる。
「わからへんの?」
クスクスっと笑いながら辰弥を挑発した後、扇子を広げて自分の口元を隠した。
この挑発に辰弥がのるということもなく、俺も辰弥もただその光景を眺めていた。こいつは何がおかしいんだ? 誰かがぼけでもかましたのか?
「
「・・・・・・いや、それはいいんだが、どうしてだ?」
「『どうして?』言われても、せっかく亮君が『
「「あっ」」
ついつい俺と辰弥の声がそろってしまった。そしてそのままお互いに顔を見合わせる。確かに、見知らぬ人には加賀涼っていう偽名を使っているのに、辰弥が「亮祐」なんて呼んだら台無しだな。それは
「って、どうして俺の偽名のことを知ってるんだ?」
「なんで言われても・・・・・・作るの手伝ったやん」
「へ?」
だって俺は自分で偽名を作ったんだぞ。下心丸出しのやつらを俺の周りから消すために自分で作ったんだぞ。
「まさか思うけど・・・・・・覚えてへんの?」
疑いのまなざしが向けられる。別にごまかすこともできるが、ここは本当のことを言っておいた方がいい気がする。
「悪い。偽名のことどころか君のことさえ全く覚えてないんだ。名前はうろ
「そんな・・・・・・」
少なからずショックを受けている顔だ。知り合いに(と言ってもすごい前にあっただけなのだが。そんなことを言っても妃菜に比べれば知り合いの域に達しているか)忘れられているということは相当ショックなものだ。
「ほんなら、あの約束のことも覚えてへんの?」
「あの約束って?」
何か約束したのか? また京都に来るから会おうとかか? それなら今ここで
嫌な予感がする。最近おかしなことが多いからそう感じるのかもしれないが、やはり何か恐ろしいことが起こりそうな気がする。
「うちと結婚してくれる
迎えに来る? ずっと? 約束? 結婚? 許嫁!?
「はー!!!!」
清水寺に俺の声が響くのが耳から聞こえてくる。だが、そんなことは今はどうでもいい。だって俺の目の前にいるこいつが、俺の、許嫁だと!?
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