第17話 清水の舞台も件について④
嘘だろ。俺に
「先輩! どうしましたか!」
俺を呼ぶ声が聞こえてきた。しかも足音が俺の方に近づいている。それもこのタイミングで一番来て欲しくないやつの。これって絶対面倒なことになるよな。俺のせい? 俺のせいか?
「先輩、この人誰ですか?」
指さされた当人はあからさまに不機嫌な顔をして扇子をたたんだ。そうなるよな。多分これから「ビッチ」とか「
「なんやこの泥棒猫は? あんたみたいな小娘がうちの
「先輩、どういうことですか! この
「小娘、人のことを売女呼ばわりはどうかと思うけど、それより亮君、その小娘のってどういうこと?」
「馴れ馴れしく
「あんたこそ! うちの亮君から離れんか!」
二人から「ぐぬぬぬぬ」という声が聞こえてきそうだ。ちなみに俺はこうなった妃菜は俺から離れないということを知っているので無駄な努力はしないようにしている。
「先輩、説明していただけますか?」
「亮君、うちにも」
二人の顔が急に俺の方を向く。こうやって二人に見つめられると照れる、なんてかわいいことはまったくなく、俺はただただ面倒だなと思っている。あと、妃菜はまだ俺の右腕をつかんだままだ。
さてどうするか。
って言えるか! そんなことを言ったら絶対に面倒なことになる。それに俺だってこの状況を知りたい。美紅が俺とどういう関係なのか俺だって知りたい。
二人の目が痛い。「早く説明してください」「
だが本当に説明できないんだ。そもそも俺と妃菜の関係も未だにどう説明すればいいのかわからない。妃菜は「先輩の妻兼永遠の恋人」というわけのわからない肩書きを作っているし、
でも、まぁ、ここにエミリーたちがいなくてよかった。そうじゃないとイジられるかもっと面倒なことになってたからな・・・・・・って、もしかしてフラグ立てたか?
「亮ちゃん、どういう状況?」
「お兄ちゃん! いい加減、そういう風にベタベタするのやめて!」
「あれ~、アユミン焼きもち焼いてる?」
「ち、違います! その、えっと、ほら、見ていて恥ずかしいと言うか」
「もー、照れちゃって」
「エミリーさん!」
「亮祐君、その人誰?」
東
俺の後ろからエミリー、アユ、鈴花の声がした。これで全員集合だ。つまり面倒くささが何十倍にも跳ね上がったということ。どうしたらいいんだ? とりあえず何から処理するか・・・・・・
「って、いい加減離れろ」
「嫌です! この売女が先輩をとろうとしているので私は断固離れません!」
いや離れてくれ。この状況に気まずさはあるが、一番はこの態勢だと振り返ったり、話したりするのに色々と面倒くさい。これから色んな説明をしないといけないこの状況で何かと不便が生じるのは避けたい。
だが、俺が説明を始めようとする前に美紅が口を開いた。
「何かわかりませんけど、うちの亮君から離れてもらえます?」
「ふん。亮祐先輩は私の
「え・・・・・・」
美紅が驚きのあまり扇子を落とした。それが清水寺の床に当たって乾いた音を出す。
「・・・・・・それほんまなん、亮君?」
「まったくの嘘だ」
「せやんな。優しい亮君がはそないなこと、せぇへんよね」
「先輩! 本当じゃないですか! この前婚姻届も持って行きましたよね!」
「あれは捨てた」
「えー! どうしてですか!」
どうしてってそりゃそうなるだろ。しかもこんなところで誰にも言ってない爆弾発言をするな。(もちろんアユは知っている。しかも俺が捨てたんじゃなくて、アユがビリビリに破いて捨てた)
色々なところから視線を感じる。後ろからの視線も怖いので振り向きたくはないが、それ以上に前からの視線が怖い。ちなみにさっきちらっと確認したが、横にいる
「亮君。後でゆっくり話聞かせてもらいましょうか?」
ゆっくりした口調で言ってくるので余計に威圧感がある。この話をこのまま続けるのは得策ではないだろう。
「そ、そんなことはどうでもいいが」
頼む、ここはどうでもいいことにしてくれ。
俺は後ろを振り返る。
「その子は
「「「へぇ」」」
全員(辰弥以外)から声が漏れ出る。だが、俺のこの説明ではどうやら物足りない人物が一人いるらしい。
「初めまして、赤羽美紅と言います。そこにおる
「「「「えっ!!!!」」」」
今度はこの場にいる全員(俺と辰弥を含めて)が驚きの声を上げ、全員が俺の方に注目する。
口約束? 本人の? 許嫁ってだけでも驚きなのに婚約者って・・・・・・
あれ、そう言えば俺、昔・・・・・・
「美紅のこと好きだったんだ・・・・・・」
初恋と言ってもいいのかどうかわからない恋をしていたことを思い出してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます