第17話 清水の舞台の件について②
「清水寺。北法相宗の本山にして、西国観音霊場三十三カ所第十六番札所。七七八年に延鎮上人によって開山されて、七七八年に坂上田村麻呂によって創建と伝えられているそうです。大きな慈悲を象徴する観音さまのお墓として、昔から庶民に開かれていたとか」
「音羽山の中腹に広がる十三万平方メートルの境内には三十以上の堂塔伽藍が並んでいて、創建以来十回以上に及んで消失してきた堂塔もそのたびに再建され、現在のものは一六三三年に徳川家光によって再建されたものだそうです」
「『清水の舞台』で知られている本堂は寄せ棟造りなどが使われていて、十一面千手観音立像を安置しています。ちなみに『清水の舞台』から初めて飛び降りたのは忠明という検非違使だそうで、そのことは鎌倉時代の『宇治拾遺物語』に書かれています」
「『清水の舞台』から飛び降りれば願いが叶うという信仰があったそうで、そのために多くの人が飛び降り、『清水の舞台から飛び降りる』という言葉ができました。あっ、でも、木が生い茂っていたために亡くなった人は少なかったそうですよ」
「そして、この清水寺は一九九四年に『古都京都の文化財』として世界遺産登録されました。ちなみにこれは日本で五番目の世界遺産登録です。最初は『法隆寺地域の仏教建造物』です。あっ、もちろん、清水寺のホームページとかで調べた知識ですよ」
「いや、それを覚えているのがすごいんだが・・・・・・」
「いやー、それほどでもー」
俺たちは清水の舞台に立っている。緑が生い茂る壮大な景色。下をのぞき込むとその高さに驚かされる。こんなところから飛び降りようとするやつの気が知れない。
そんな俺たちに
そして何よりもすごいのは、あの説明をスマホも、カンニングペーパーも、ガイドブックもなしにペラペラと語っていた妃菜だ。あまりに
ここに来るまではすごい人だったのに、さっきより人の数が減少した気がする。俺も初めて知ったのだが、清水寺というのはこのあたりのことを言うそうで、妃菜の言った通り十三万平方メートルも敷地があるそうだ。簡単に言うと約東京ドーム三個分だ。
妃菜は説明を終えると他の場所(と言ってもこの近く)の見物に行ってしまった。他のアユやエミリーたちは向こうの方で女子で固まっている。つまり今、俺は京都でも一人ということだ。
「さて、ここからどうする?」
そんなときに、
さらに俺たちの中にも長旅で少し疲れ気味のやつもいる。と言うか、みんな少しハイになっているだけで、本当は全体的に疲労がたまっているに違いない。このまま色んなところに行くのは明日以降に支障を来す恐れがある。
「とりあえず、どっかで休むか?」
「そうだな。ちょっと休憩にするか」
「この辺で・・・・・・って言っても清水寺から出ないとないのか?」
「わからないな。ちょっとスマホで調べてみる」
そう言って辰弥は自分のスマホで調べ始めた。俺もどこかないか探した。同じものを探すのもあれなので、辰弥が『甘味処』、俺が『喫茶店』というワードで調べ始めることにした。
だが、その時間は十秒ほどで終わった。
「リョウ君、うち、ええとこ知ってんで」
俺たちに京都弁らしきなまりの女性の声が聞こえてきた。
どう考えても俺たちだよな、と思って顔を上げる。そのタイミングが辰弥と重なったが、うれしくもなんともない。
俺たちの前には室内(と言っていいのかどうか定かではないが)にも関わらず、赤色の和傘を差し、その和傘と似た色を使っている着物を着た女性? 女子? が立っていた。
赤もどぎつい赤ではなく、品のある赤色。だが、それとは対照的に、腰の上までながさのある、雪のように真っ白なロングヘアが風になびいている。
同い年・・・・・・いや、年上? 年下には見えない。それは老けているという意味ではなく、いい意味で大人びているという意味だ。顔や肌だけを見れば、その透き通るような肌は年下にしか見えない。
かわいいと言うよりも、綺麗という方が似合うその女性はなぜか俺たちに・・・・・・俺に微笑みかけている。そう言えばさっき「リョウ君」って呼ばれた気がする。もしかして「亮君」なのか? だとしたら・・・・・・誰?
「そないに見つめんといて。照れるやん」
ほおをかすかに朱に染めながら顔を俺から少しそらした。
えっと、見つめてたつもりはないんですけど? どちらかと言うとボーッと考え事してただけなんですけど・・・・・・
「えっと、君は誰?」
「もう、けったいなこと言わんといて。やっぱり、おもろい人やね」
今度はクスクスと笑っている。言い方を変えるとお上品に笑っている。妃菜を見ているとお嬢様感はたまにしかしないが、なぜかこの子はお嬢様感がしすぎるほどする。誰?
「おい、
俺が目の前の美女に目をとられて・・・・・・はいない。普通に考え込んでいると、辰弥が俺の体を肘でつついてコソコソと耳打ちしてきた。
「誰だよ」
「知るか。俺が聞きてぇよ」
「でも、どう考えてもお前の知り合いだろ」
「いや、こんなやつ知るかよ。誰だよ」
「俺に聞くな。絶対お前の知り合いだっつぅの」
「お取り込み中のところ申し訳ないんやけど」
その声に俺と辰弥がビクッとする。二人そろって美女の方に顔を向ける。明るい声が一転、冷たく、静かな声に変わっていた。
「女の子待たせるなんて、ええ度胸やな」
「いやー、違うんですよ。りょ、亮祐にあなたが誰なのか聞いてただけで。なっ、亮祐」
「えっ?」
このやろう! 俺を殺す気か! さっきの声のトーン聞いたろ! こんなやつに「えーと、あなたは誰でしたっけ?」なんて聞けるか!
「まー、そうやったん? それならはよー
再び声のトーンが明るくなる。だが、その笑顔は疑いようもなく俺を追い詰めていく。やばい・・・・・・こんなの終わりだろ・・・・・・
「久しぶりやな、りょ・う・く・ん」
「お、おぉ、久しぶりだな。いつ以来だっけ?」
「せやなー、最後におーたのは、もう、十年くらい前かなぁ」
いや、んなこと覚えてるわけねぇだろ! 俺は絶対記憶の持ち主か? 小学校に入る前後の記憶だろ。その頃に俺はこの子に会ってるんだ。
おそらくこの辺りで。そう、父親について京都に来たときだ。そう言えば・・・・・・確かあのとき仲良くなった子がいたはず。
「亮君、久しぶりに、名前呼んでくれへん?」
思い出せ、思い出せ! 命の限りを尽くして(文字通り)。なんだか知らないがこいつはやばい気がする。ここで名前が出てこなかったら俺は確実に殺される。
「どないしたん? まさか思うけど・・・・・・名前。忘れた?」
「ん、んなことないぞ。もちろん覚えてる」
「ほんま! めっちゃうれしい」
思い出せ! 思い出せ! そうだ、ヒント・・・・・・この子の顔は・・・・・・見覚えがあるような、ないような。髪・・・・・・あっ、そう言えばあの子も白かった気がする。あと、ヒントになりそうなのは・・・・・・あっ、あの子も赤い服を着てた気がする。
「赤」と「白」。そうだ、その子の好きな色は「赤」と「白」だ。白は髪と肌の色。それを褒めたらすごく喜んでいた。そして赤は・・・・・・赤は・・・・・・
「み、
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