第12話 アユが来た件について②
今日は学校が休みの日曜日。久々というわけではなく、つい一週間前にも日曜日は来た。その前にも、その前にも、その前にも日曜日は来た。それなのに今日はいつもとは違う。
俺と
「っで、これが先輩の妹さんですか?」
「『これ』って言うな」
妃菜にとってアユは「これ」らしい。
「お兄ちゃん、これ何?」
「『これ』と『何』をやめろ」
アユにとっては妃菜はものらしい。
俺は今、妃菜にアユの説明をしたところだ。一応言っておくとアユはバレーのために海外に留学していた。俺が面と向かってアユに会ったのは今から四年前のことだ。
知っていると思うが(誰が?)その頃のアユは俺の両親のことを伏せて生活していた。しかし、親の七光りがなくともアユは目立っていた。
昔からやっていたバレー(バレーボールの方でバレェではない)の才能が開花し、日本の中でも一目置かれる選手に育っていた。その結果海外のバレーの強豪校からオファーが来たのだ。
両親は(その頃には両親ともに海外拠点だったため、基本的には俺とアユの二人暮らしだった)若いうちから世界を知っておくことは重要だと言っていた。(おそらく経験則だろう)
アユもバレー選手になる気満々だったのでそのオファーを快く受けたようだった。俺はその決断に何も言わなかった。別にアユに残ってほしいと思っていたわけではないので(行ってほしいとも思っていなかった)何か言う必要はなかったと思っている。
だが、俺がアユについて何も言わなかった理由はそれだけではない。他人が人の決断に干渉すべきではないというスタンスと、俺がアユの自由をそれ以上奪うわけにはいかないという思いもあった。と言うよりも、こちらの方が強かったかもしれない。
まぁ、説明はこのくらいにして(だから、誰へのだよ!)アユに妃菜の説明をしなければならないだろう。
「アユ、こっちは・・・・・・」
「先輩の唯一の妻にして、先輩との子を孕んでいる超絶美少女!」
俺が妃菜の説明をしようとすると横やりが入った。いや、横やりと言うよりも横爆弾だろう。突っ込みどころが満載過ぎる。
まず一つ目、誰が俺の妻だ? いい加減、その説明をやめてくれ。結婚も婚約も、ましてや付き合ってさえいない。ずっと妻だと言い張っているがそろそろ飽きてこないのか?
次に二つ目、何を何してるって? とりあえず病院(産婦人科ではなく脳外科)行ってこい! 錯乱状態なのか、それとも妄想癖が強いのか。っで、俺何もされてないよな。俺自身が何かやった記憶はないから、何かあったとしたら寝てるとき・・・・・・平気、だよ、な?
・・・・・・置いときたくないが、いったんそれはそれとして、最後に自分のことを超絶美少女と言っていることだ。確かに客観的にみて妃菜は美少女だろうが、それを自分で言うか? 自慢しているわけではないのはわかるが、それでも鼻につくやつにとっては不快だろう。
「つ、・・・・・・お兄ちゃん! 何で手を出してるの!」
「嘘に決まってるだろ。このやりとりさっきもやったぞ」
「うっさい!」
「俺の台詞なんだが」
どうして俺の回りには話が通じないやつが多いんだ。俺がアユの方を見ると、顔がほんのりと赤く染まっていた。大声を出しすぎて興奮しているのだろう。
「えーと、この家に居候している
「悪い魔女のせいで塔の上に閉じ込められていた私を先輩が助けたんですよね」
「どこのどいつだ?」
「じゃあ、毒りんごを食べて眠ってしまった私にキスをして助けてくれました?」
「俺に聞くな」
「わかりました! 私が落としたガラスの靴をたよりに一目惚れした私を捜し当てた!」
「警察に持って行く」
「じゃあ」
「もういい」
俺はおとぎ話の主人公か何かだったか? そんな覚えはないんだが・・・・・・
俺がアユの方を見ると、俺の顔を見ながら呆れている、と言うかすねているといった顔をしていた。俺と目が合うとアユはいつも通りそっぽを向いた。
「女の子と二人暮らしなんて信じらんない」
アユが俺と目を合わそうとせずに不機嫌そうにつぶやいた。言い方に誤解があるぞ。確かに俺と妃菜は二人暮らしをしているが、その言い方だと本当に何かあるみたいじゃねぇか。
「アユが海外行く前は俺とアユで二人暮らししてたときがあるだろ」
とりあえず恋人ではない関係の二人暮らしもあることを説明する。
「そ、そんなの知らない!」
「いや、あるだろ」
「うっさい! お兄ちゃんのバカ!」
「何でだよ」
何があったんだ? 一向にこちらを見ようとしていないが後ろからでも耳が赤くなっているのがわかる。そんなに興奮していわなくてもいいだろ。俺なんかしたか? 断じてアユに手は出してないが、何か
「・・・・・・まぁそれはそれとして、どうして帰国してきたんだ? 向こうでも結構いい成績だったんだろ?」
実際この前の試合でも活躍したらしい。
するとアユは急に俺の方を振り向いた。耳同様顔も赤くなっていたが、それ以上に気になったのはアユの目がどこか悲しそうなことだった。
「お兄ちゃんは私が帰ってこない方がよかった?」
問うと言うよりも問いかけると言った方がしっくりくるような言い方で俺に聞いてきた。
「いや、そういうわけじゃなくて・・・・・・ただ単に気になったというか・・・・・・」
なぜかタジタジになってしまった。
でもこの解答がよかったのか、アユの目が少し和らいだ。そして次は言いにくそうに口をもごもごし始めた。俺はアユの言葉を待ったが、それほど待たされることはなかった。
「じゃ、じゃあ、わ、私に会ってどう思った・・・・・・」
「元気そうでよかったって思ったよ」
「そ、それだけ?」
それだけと言われてもな。いきなりすぎてまだ動揺してるからなぁ。あっ、でも、
「またきれいになったな」
率直に思ったことを言った。
それがよかったのか悪かったのか俺にはわからないが、アユの状況を見るとよくなかったのかもしれない。顔がみるみるうちに赤くなっていき、目もどんどん開いていっている。
「そ、そ、そ、そんなことをいわれても嬉しくないから!」
絶叫に似た声がリビング中に響いた。
「あ、はい。そうですか」
思わず敬語になってしまった。誰しも急に大声を出されればこうなるだろ? それはそれとしてどうやらアユは本気で俺を嫌っているらしい。
「で、でも、ありがとう」
しかし今度は一転してうつむきながら小さな声でお礼を言った。言ったというよりも口からこぼれ落ちたという雰囲気だが。
「あのー、そろそろ私も参加してもいいですか」
俺とアユの話が一段落つくのを見計らっていたのか(多分ただ単に入れなかっただけだと思う)妃菜が遠慮がちに参加を求めた。
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