第10話 謎の子と俺の件について
俺は
そう言えば、
「痛っ」
「おう、悪い」
そんなことを考えながら歩いていたからだろうか、周囲に目がいかなくなっていたらしい。俺は頭一つ分小さな人にぶつかった。
黒色の帽子を
短パンから出ている足は陸上でもやっているのかと思わせるように発達している。ただ、発達していると言ってもゴリゴリなマッチョと言うことはなく、さっきも言ったように余計なものがないというイメージだ。
肌の色は褐色と言うこともなく、どちらかというと色白だ。よほど丁寧に日焼け止めをしているのか、それとも中種目なのか。何にせよ、何かのスポーツをやっているのに間違いはないだろう。
女子、いや男子か。怜を間違えたから、ということもあるが、小さい子の性別がわからないなんてことはよくあるので、実際にはそれほど罪悪感は感じていない。
だが、今回の子は俺とそこまで変わらないであろうが、性別がわからない。女子にしては凜々しい感じがするし、男子にしては小柄な感じもする。
「ちょっと、ちゃんと謝ってくれる?」
その子が俺に顔を見ることなく(顔を隠しているのか?)言ってきた。
「あぁ、すみません」
あれ? これって俺が全面的に悪いの? 確かに考え事しながら歩いてた俺は悪いが、当たったのはそっちもじゃないか?
ちなみに声は女子と言われれば女子、男子と言われれば男子みたいな感じだった。高すぎることもなく、低すぎることもなく中間のイメージだ。でも、どっかで聞いたことある声だ。どこだったかな?
「わかればいいのよ」
初対面? だよな。(なんとなく聞き覚えのある声だが。そう言えばこの感じ見覚えというか既視感がある)なのに、どんだけ高圧的なんだよ!
「そっちは謝らねぇの?」
俺は自分からけんかを仕掛ける方ではないが、この態度には少しばかりイラッときた。
「だ、誰がおにい・・・・・・あんたなんかに謝るの!」
顔を見せないまま大声を上げた。なんで逆ギレされんだ?
なんか気分悪ーよな。面倒くさそうだけどもう少し絡んでみるか。
「痛たた。さっきので腹を打ったみたいだ」
俺は腹を押さえながら痛がって見せた。母親の遺伝子は
俺もストレスがたまっているのか? 普段ならこんなことしないよな。今日が色んなことがありすぎて心に来ているのかもしれない。
「えっ、大丈夫? って、違う違う。嘘でしょ!」
一瞬俺を心配する様子を見せるも、首を振って俺の嘘を見破った。(と言ってもそれほど大層な嘘ではないが)
何か最近はこういうのり突っ込みみたいなのが
「お前、誰だ?」
何か見覚えと聞き覚えがあるが、どうしても思い出せない。それならばもう本人に聞いてみるのが一番だろう。
「えっ? わからないの? そんな・・・・・・じゃなくて、別にわかってほしいなんて一切思ってないから!」
その子は再び自分で漫才を始めた。
漫才というか需要がほとんど終わっているツンデレの超劣化バージョンみたいなイメージか? うーん、子供が無理して大人ぶっていると言った方がしっくりくるのかもしれない。
「やっぱり、会ってるんだな」
「あんたなんて知らない」
「でも『わかる』ってことは『知ってる』のが前提だよな」
「何言ってるのかわからない!」
「俺の方がわからねぇよ」
妃菜以上に会話が成立しないやつは今までにいなかったが、今日、ようやく出会えた。全くかみ合わない。妃菜は話題が別というだけだが、こいつは本気で何が言いたいのかわからない。
「はぁ、じゃあもういいよ」
自分から仕掛けておいて何だが、絡むのが面倒になった。俺はその子の横を通り過ぎて家に帰ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
だが、通り過ぎる直前に左腕を捕まれた。
「どうした?」
「聞きたいことがある」
俺の親の話なら勘弁してくれ。
だが、幸いにも?
「あんた、イモウトのことはどう思ってるの?」
「どうしてお前が俺にイモウトがいることを知っている?」
それほど秘密にしているということでもないが、それでも親しくなったやつにしか言っていない。故にこんなどこぞの骨ともわからないやつが知っているのはおかしい。
「そ、そんなことどうでもいいでしょ!」
「よくない」
俺はその子の言葉を一掃した。俺の言葉にその子は体を反応させたが、未だに顔は見えない。
「俺のせいでイモウトは苦労したんだ。知っている人が多くなったと言っても、俺と、いや、両親とイモウトの関係が広まればあいつが苦労するのは目に見えている。これ以上苦労をかけるわけにはいかない。俺がイモウトをこれ以上苦しめるわけにはいかないんだ」
俺の言葉はもちろんイモウトのことを思ってだが、本音を言えば、ほぼほぼ自分のためだ。イモウトを罪滅ぼしの道具にするなと言われればぐうの音も出ない。それでも、俺はイモウトを守らないといけないんだ。
「だから、お前がイモウトのことをなぜ知っているのか、その『なぜ』の部分が重要なんだ。アユに下心を持って近づこうとしているのならば、俺が許さない」
久しぶりにアユって呼んだな。それはそれとして、言ったことを思い返してみればすごい恥ずかしいな。だから、俺は
俺は隣で俺のことをつかんでいる子を見た。さっきよりも顔が下を向いているのは、反省しているからなのか、それとも他の理由があるのかは俺にはわからない。
俺をつかんでいる手がゆっくりと離された。俺は袖を整えて再び前を向いた。
「まぁ、んなことを言っても、俺はアユに嫌われているんだがな」
と言って歩き出した。歩き出す瞬間に小さく「そんなことないよ」と聞こえたが、これ以上ややこしくなるのは面倒だったので、俺は無視をした。
結局あいつは誰だったんだろうな。どこかで会ったことは確定だが、一体どこだ? しかもあの声、よく聞いていた気がするな。思い出せない・・・・・・
あと、アユは元気にしてるかな。この前は試合で優勝した、って連絡が来てたから、おめでとう、って返したっきりだ。その後、別に嬉しくないから、って返されたっけ。
何で俺あんなに嫌われてるのかな? やっぱり、苦労かけたせいか。
俺は「はぁ」と小さくため息をついて歩みを進めた。
あー、アユの声に似てなくもないが・・・・・・アユは海外だからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます