第8話 妃菜と鈴花と俺の件について②
「先輩! どうしてここに阿婆擦れさんがいるんですか!」
左手で紙袋を持ったまま、右手で
もちろん、ここはモールの中で、かつさっきまで鈴花が周りから注目を受けていたわけだから自然と周りの目が俺たちに向けられたことは予想がつくだろう。
「あ、阿婆擦れなんかじゃないし! この、ば、ば、ば・・・・・・」
鈴鹿も負けじと対応しようとしている。二人とも、頼むから常識というものを考えてくれ。それに、鈴花はそれを言うな。どうせまた後先考えない悪い癖が出てるんだろ。
だが、俺の心の願いは鈴花には届かなかった。
「このバンプ!」
鈴花の顔に似合わない大声があたりに響き渡った。
「ば」と言っていたので、「バカ」みたいな子供じみた言葉かと思っていたがどうやら甘かったようだ。それにしてもバンプとは・・・・・・鈴花もよくそんな言葉知ってたな。もしかして、妃菜に阿婆擦れ呼ばわりされて、対抗措置として調べてたのか?
俺は意識をゆっくりと周りに向けた。そこには不思議そうな顔でこちらを見ている人、興味深げに俺たちに視線とスマホを向けている人(見世物じゃねぇぞ)、子供の耳を塞いで不愉快そうな顔をしている人(すみません)と様々な反応が見られた。
どう考えても端から見たら修羅場か何かだよな。一人は大声で「阿婆擦れ」と言い、もう一人も大声で「バンプ」と言う。ラノベみたいな構図になってるな。
さて、これからどうしようか、と考えていると俺の肩がトントンと叩かれた。
「あのー、お客様。他のお客様の迷惑になりますので大声はお控えください」
「はい、すみません」
なぜ俺が謝らないといけないんだ! と突っ込んだら話がややこしくなるのは確定しているので、とりあえず穏便に済ませられるように頷いた。
店員が俺の
俺は深くため息ついてから二人に話しかけた。
「とりあえずここじゃ何だから場所を変えるか」
と言ってもどこかの喫茶店に入ったとしてもこの二人が大声を上げて迷惑をかけるよな。どこにしようか。
「そうですね。じゃあ、家に行きますか?」
「家って誰のだ?」
「もちろん
「
妃菜もそういう常識はある。俺と同じようなことを考えたからこそ家にしようと言ったに違いない。俺としてはその常識を他のところにもその常識力を当ててほしいものだ。
「りょ、
鈴花がなぜか嬉しそうに食いついてきた。
「あぁ、モールだと色々と迷惑かけそうだから、鈴花さえ避ければだけど」
「い、行く! 行かせてください!」
「鈴花、大丈夫か?」
今日の鈴花は何と言うか所々妃菜に似ている。と言うか、よく考えればたまに見せる行動は妃菜の(かなり)劣化判みたいな感じだな。・・・・・・やっぱり全然違う。
まぁ、これで鈴花と妃菜が話し合える場所を作れたことだし、後はなんとかするしかないな。
「って、そうだ。鈴花の母親に連絡しないと」
急にいなくなったら迷惑かけるだろう。メールか電話で言っておかないと。
「あぁ、うん。そうするね」
と言って鈴花はスマホを取り出して画面に指を走らせている。メールかSNSで連絡を取っているのだろう。
「よし。これで大丈夫だと思う」
「OK。なら行こうか。妃菜、荷物持つよ」
「いいえ、これは私の荷物ですから私が持ちますよ」
「このくらい遠慮するな。さすがに俺も何もやらなさすぎだ」
「先輩がそう言うなら」
と妃菜が渋々と俺に紙袋を差し出してきた。これは俺が妃菜のためを思って言ったこと、ではなく、言ったとおり金も払っておらず、荷物も持たなかったら人として最低だと思ったからだ。
妃菜から紙袋を受け取ると、俺は鈴花の方に向いた。鈴鹿の表情がどこか悔しそうと言うか、悲しそうと言うか、なんとも言えない表情をしていた理由は全くわからないが、おそらく鈴花の俺を見る目から考えると俺に理由がありそうだ。
「鈴花も」
と言って俺は空いている方の手を鈴花の方に差し出した。
「え?」
驚いた、と言うよりもあっけにとられたと言う方が合っているような顔をした。確かに俺の言葉足らずだ。鈴花と会話するときはもう少し気をつけよう。
「鈴花の分も持つよ」
「い、いいよ。全然重くないし」
必死に手を横に振りながら拒否している。
「無理言って俺の家に来てもらうんだから、このくらいさせてくれ」
「じゃ、じゃあ。お願いします」
震える手で俺の方に紙袋を差し出す。俺ってもしかして怖がられてる? んなことはないと思うんだが。
俺はその紙袋を受け取って右手で二つの紙袋を持つように持ち変える。どちらもそれほど
「じゃあ、行くか」
「はい!」
「う、うん」
俺を真ん中にして右に妃菜、左に鈴花という状態で歩き出した。両手に花のように見えるかもしれないが、実際は両手に阿婆擦れとバンプ、ではなく両手に竜と虎だ。これからどうなるのか想像するだけで頭痛がしてくる。
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