第7話 妃菜と日曜デート!? では決してない件について②

「その手、大丈夫か?」

 俺と妃菜ひなはヨーグルトを食べていた。

 俺の言ったこの言葉は妃菜の手に対してだ。それほど重症ではないにしろ手が少し荒れていた。家事のほとんどをやってもらっているからかもしれない。


 妃菜は普段から(本人曰く)最低限のケアしかやっていない。女子力が低いと思ったかもしれないが、(男の俺にはさっぱりわからないが)やり方がいいのか、十分自分磨きができているようだ。


「これですか? いつもなるんですよ。ひどくないんで、そのうち治ります。」

 自分の両手の裏表を交互に見て、俺に無邪気な笑顔を向けながら言った。


 確かに気になるほどではないし、手に集中しなければ気づかないかもしれない。だったら俺は妃菜の手を気にしていたのかって? たまたま目に入っただけだ。


「じゃあ、まぁ、いいか」

「はい。ありがとうございます」

 妃菜の「ありがとうございます」は、俺が心配したことに対してだろう。


 本人が心配いらないと言ったのだから、これ以上この話題はやめておいた方がいい。だが、俺としては一度気になってしまったので、ついつい目が行ってしまう。


「それより先輩、今日なんですけど」

 俺の視線に気がついてか、つかずか妃菜が話題を切り出した。


「二人で買い物にでも行きませんか?」

 と言って妃菜が取り出したのは新しくできたショッピングモールのチラシだった。


「何か欲しいものでもあるのか?」

「いえ、学校で友達がここの話をしてたので、まぁ、行ってみようかなぁって」


 このドエロお花畑に友達がいるのか、と突っ込みをいれたくなったかもしれないが、(ほぼ)初対面の俺や辰弥たつやとあれほど親しげに話したようなやつが、クラスで友達が作れなかったということはあるまい。


 それこそさっきも言ったように、妃菜は学校でちょっとした有名人になっているので友達は自然とできたようだ。この前も友達と一緒に帰っているところを見かけた。


 俺としては、案外普通なところもあるんだな、と思ったのだが、友達が一緒のときでも俺に抱きついてから帰ろうとしたので、平常運転だ、と思い直した。


「あんまり服とか持ってないだろ。買えばいいのに」

「それよりも家のことに使いたいんですよ」

 不満な色を一切出さず(本当に不満に思っていないだろう)に返した。


 この朝食も、家のものも妃菜が来てから六対四の割合で妃菜が金を出している。俺はもっと多くていい、というか俺は妃菜に任せっきりなので金くらいは出す、と言い張ったのだが、妃菜も折れずに平行線のまま話が進んでいったのでしょうがなくこの割合になった。


 俺も大概ファッションなどには興味がないが、年頃の妃菜は自分のことにほとんど金を使ってない。化粧道具も(母親と比べて)少ないし、服もあまり持っていないようだ。


 俺はもっと自由に金を使え、といつも言っているのだが、さっきみたいに「家のことに使うのが私の楽しみですから」とやんわり断られている。


 妃菜が嘘をついているようには見えないので深く言及はしにが、本当にそれでいいのだろうか、と悩むときはたくさんある。


「どうです? デート行きませんか?」

「モールに行くのはいいが、デートではない」

「えー、好き合い同士が一緒に出かけるなんてデート以外に何があるんですか?」

「好き合い同士ではないし、散歩みたいなものだ」

「じゃあ、デートに行くのは賛成なんですね!」

「もう、デートでいい・・・・・・」

「やったー! じゃあ、すぐに支度しましょ!」


 と言って妃菜は食べ終わった皿を台所に運んでいった。


 俺は「はぁ」とため息をついて、椅子から立ち上がり、洗面所に向かった。決まったからには準備をするしかあるまい。何かあるだろう、とは思っていたが案外普通のことだったな。


 それよりも、どうしてあいつはデートにしたがるんだ。って、よく考えてみれば好き合い同士でなくてもこのシチュエーションはデートっぽくないか? と考えたところで俺は全く緊張も何もしないが。


 俺は洗面所で歯磨きをして(歯ブラシはそれぞれで別々のものを使うようになった)部屋に戻った。まだ寝間着のままだったのでとりあえず無難そうな服を選ぶ。


 ほとんど無地のものしかないロッカーからデニムパンツと白のロング丈Tシャツ、ニットをとる。肌寒い季節でもあるので念のため明るいグレーのCPOシャツも持って行くことにする。


 服選びは本当に慣れない。他の人は一体どうやって服とかを決めているんだ? 大学生になったら俺はどうすればいいんだ?


 といういつも思うことを考えながら、俺は着替えを済ませて、寝間着を洗濯機にいれるために洗面所に再び向かった。


 洗面所に行くと丁度、妃菜が歯磨きを終えるところだった。妃菜の動きには無駄が一切ない。皿洗いにしてもこれだけ早く終わらせておきながら洗い残しが一切ないので驚愕ものだ。


「あっ、先輩。もう着替えたんですね。じゃあ、私も着替えてきます」

「ゆっくりでいいぞ」

 妃菜が俺の横を通り過ぎるときに俺は声をかけた。妃菜の姿が洗面所から消える。


 俺の声が聞こえたかどうかはわからないが、妃菜の横顔が嬉しそうに微笑んでいたのを俺は見た。まぁ、いつも迷惑をかけているんだし、少しはわがままに付き合わないとだめだよな。


「着替え手伝ってもらえます?」

 部屋に行ったと思ったら、ひょこっと洗面所に顔を出した。


 こういうわがまま(冗談?)には付き合いきれん・・・・・・


「支度をしてこい」

「はーい」

 俺が額に手を当ててつぶやくようにそう言うと妃菜は素直にしたがった。


 女心(妃菜心?)は全くわからないな。心の中でそうつぶやきながら、俺は支度の続きをするために部屋に戻った。

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