第7話 妃菜と日曜デート!? では決してない件について①

「あー」

 俺(亮祐りょうすけ)は大きなあくびをしながらベッドから起き上がった。妃菜が俺の家に来てからおおよそ一ヶ月くらいが過ぎた。


 今日の朝も平穏な朝だ。いつも通りの朝だ。

「先輩、おはようございます! 今日もいい天気ですね!」


 俺の斜め下から朝の挨拶が来る。そうこれがここ最近のいつもの光景だ。

 俺は声の下方向に目線を動かした。そこにはベッドに横になった状態の(もちろん服を着て)妃菜ひながいた。


「いつも言ってるだろ。もっと普通の挨拶はできないのか?」

「キスしてもいいってことですか?」

「寝起きのやつにぼけをかますな」


 頭をかきながら自分の脳みそに覚醒を促す。ちなみに、あのうっとうしかった髪は妃菜がうまく切ってくれた。俺は散髪に行くと言い張ったのだが、どうしても、と言われたので頼んだ。俺の切った髪を大事そうに集めて、保存袋に入れているところなど俺は見ていない・・・・・・思い出したくない。


「外国ではキスは挨拶ですよ」

「ここは日本だ。しかもチークキスな」

「チークでもいいですよ。先輩に抱きつけるんで」

「ベッドの中に入るやつがよく言うな」

「でもキスはしてません! キスって何回も言ってたら我慢できなくなってきました!」

「・・・・・・俺は出る」


 そう言い放つと俺は早足でベッドから抜けて、洗面所に向かった。


 妃菜が家に来てすぐの頃に一回だけ危ないシーンがあったが、あれ以来普通だ。普通と言っても徐々にエスカレートしていっている気がするのだが・・・・・・


 例えば、部屋に入ったら俺の下着の匂いを嗅いでいたり、全裸で布団に入っていたり・・・・・・思い返せば普通じゃないな。あの日みたいな誘われ方はしてないが、確実に行動が犯罪まがいになっている(もともと犯罪まがいだが)


 これじゃあ、そろそろ本気で寝込みを襲われそだな。どうにかしてあいつの欲求不満を解消しないと俺の命が危ない。さて、どうしたものか・・・・・・


 俺は悩みながら顔を洗って、リビングに向かった。妃菜が来て以来まともな朝食をずっと食べている。俺も妃菜のすきを見て風呂掃除などをするのだが、俺がやった次の日には妃菜が俺の先回りをしている。本当に趣味なのかもしれない。


 リビングに入るといつも通り朝食が並んでいた。今日の朝食はロールパン(妃菜の手作り)、野菜スープ、スクランブルエッグ、それにヨーグルト(妃菜の手作り、ヨーグルトメーカーなしで)だ。


 毎朝これほどの朝食が用意されるのだから妃菜には頭が上がらない。妃菜は「簡単ですよ」と言うが、俺からしたら、朝からこれほどのことができるのは簡単ではない。


 この前、何時に起きているのか聞いたら、「先輩がかわいい後輩の夢を見ているときですよ」とよくわからない答えをされたが、多分相当早いのだろう。


 まだ一ヶ月ほどしか経っていないがわかったことはいくつかある。


 まず一つ目は、やはり妃菜の家事能力は常人を超えている。スピード、計画性、繊細さ、効率、何をとっても一級品だ。掃除に洗濯、料理まで、文句のつけようがない。(もともとつける気はさらさらない)これならどんなに性格の悪いしゅうとめでも大丈夫だろう。


 次に、学力が異常に高い。これも前々から気づいていたことなのでそれほど驚きはしなかったが、完全に俺以上だ。なぜならすでにトップクラスの大学を受験できるほどの学力を持っているのだから・・・・・・まじかよ。なので、高校の一部の教科では課題を提出しなくてもいいということになっている。


 さらに、運動能力も高いそうだ。これは自分で確認したわけではない。エミリー(笑里えみり)が陸上部の後輩に聞いたらしいが、四月に行われた運動測定テストですべての競技において学年一位の成績をたたき出したらしい。もっと言うと、そのうちいくつかは校内一位らしい。


 もちろん陸上部はおろかすべての運動部からオファーが来たらしいがすべて「旦那さんのために私が色々としないといけないので」などと言って断ったらしい。俺の校内での女子に対しての立場が気まずくなったのは言うまでもないだろう。


 一部では妃菜のことを『神の子』と呼んでいる人もいるらしいが、これだけの超人的な能力を持っていればわかる気がする。


 この一ヶ月の間に三人くらいに告白されたらしい。(俺が妃菜と付き合ってさえいないというのも全校生徒の知るところになっている)だが、ことごとく妃菜は粉砕しているとのこと。「私は旦那さん以外を好きにはなれません」だと。


 一途だって? そうかもしれないな。だが、俺としては迷惑してるんだよ! 普通にこられるなら(なびくかどうかは別問題として)いいかもしれないが、人の下着を匂うやつだぞ! これで付き合ったら、おれはその日が命日になってしまうだろう。


 今日もまた一日が始まってしまう。しかも今日はゴールデンウィークまっただ中の日曜日。嫌な予感しかしない。


 このときはまだ、その予感が現実のものにはなるとは思ってもいなかった。みたいなフラグになりそうだな・・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る