第6話 妃菜と話し合おうとする件について④

 俺と妃菜ひなは皿洗いを追えて、改めてテーブルに座っていた。ちなみにコーヒーはもう飲み干しており、夜なのであまりカフェインを取り過ぎない方がいいという妃菜の提案により、ルイボスティーを飲んでいた。


 ティーポットなんてあったのか。この家にずっと住んでおきながら初めて知った。もしかしたら、妃菜が持ってきたか、買ってきたのかもしれないな。ということは本当に住む気満々なんだな。


「先輩、まず私から大切なお話があります」

 急に改まった顔と声で俺に訴えてきた。真剣なまなざしで見つめられると俺も緊張する。いきなりどうしたんだ?


「何があった?」

 冗談を言いそうな雰囲気ではなかった。そうは言っても爆弾発言をする可能性はある。妃菜が爆弾発言だと思ってないからな。それが一番恐ろしい。


「とっても重要だったんですけど、今まで確認していなくて」

「何をだ?」


 確認していなかった、と言うことは、誕生日か何かか? 何にせよそれほど重たい話ではなさそうだ。


「先輩の嫌いな食べ物って何ですか?」

「え?」


 別に変なことを聞かれたわけではないが、なぜか驚いてしまった。予想だにしないことを聞かれると、普通のことでも、おかしなことを聞かれたように感じてしまうんだな。


「嫌いな食べ物ですよ。私、それも知らずに先輩にご飯作ってましたよね。もしかして、嫌いな食べ物とか入ってましたか? もし入っていたなら体で払いますから許してください」

 妃菜が俺に頭を下げたので、俺は「そんなことはよせ」と言って止めた。


 これも家政婦の必要事項なのか? 確かに、自分が作る料理に主人の嫌いなものが入っていたら大変だろうが、俺は妃菜の主人でもなければ、金を払っているわけでもないのに料理を作ってもらっている立場なので、そう考えると自分が気まずくなってくる。


 しかも、そんな俺の嫌いなものがなにかを聞こうとしている姿勢から思いやりを感じる。体云々うんぬん発言は聞かなかったことにして、いいやつなんだ、ってことが伝わってくる。


「いや、特にないな」

「本当ですか? これはあまり食べないなとかもないですか?」

「そうだな・・・・・・強いて言うなら、カレーに入っているジャガイモかな」

「へー、じゃあ、カレー作るときはジャガイモ抜きにしますね」

「あぁ・・・・・・ありがとう」


 と言うことは作るんだよな。作ってくれることはありがたいが、別にこの家にいなくていいんだぞ。もっと自由に生活した方がいいんじゃないか?

 俺がそんなことを考えるとはつゆ知らず、しっかりといつものメモ帳にメモしている。


 うん? 待てよ。普通嫌いなものを先に聞くか? 普通は好きなものとか、あとはアレルギーとかを聞いてから嫌いなものを聞かないか?


 俺の気にしすぎか? だが、妃菜が好きなものとかを聞いてきそうな気配はしない。何か嫌な予感がする。


「妃菜、俺のアレルギーは?」

「食べ物はないですよね。食べ物以外だとハウスダストがあって、だから部屋が適度にきれいだったんですよね」

「どうして知ってる?」

「先輩のお薬手帳とか、あとお母様が残していたメモに書いてありました」


 へぇ、家政婦って人の部屋とか、メモ書きを勝手に見てその人のアレルギーを知るんだな・・・・・・って、んなわけないだろ! さすがに全国の家政婦さんに謝れ。妃菜のせいで偏見の目で見られるだろ。


「じゃあ、俺の好きな食べ物は?」

「里芋の炊いたん(煮物)と唐揚げ、それに枝豆ですよね」

「・・・・・・俺言ったか?」

「いいえ。先輩のことをずっと見てきて、どんな食材をよく買っているかは調べているので、そこから推測しました」


 へぇ、片思いの人って、好きな人の行動をストークして、好きなものとかを調べるんだ・・・・・・って、んなわけあるか! 全国の人に謝れ。そして今回は俺に対しても謝れ。そんな犯罪の告白をされて俺はどうすればいいんだ。


 お前は本当に警察のご厄介になりたいのか? などと思っていると頭痛がしてきた。今朝もこんな感じだった気がする。俺はこめかみを押さえて、半開きの目で妃菜を見た。その妃菜は俺を心配そうに見つめていた。


「大丈夫ですか?」

「あぁ・・・・・・」


 言葉にもならなかった。息が口から漏れ出る。誰のせいだと思ってるんだよ。

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